第8話『夏実と夏休みの宿題』
「宿題さえなければ、夏休みは楽しいのに……」
祖父宅の和室で、縁側の向う側に広がる夏空をどことなく見て思った。青空に入道雲が広がっていて、その下に、青々とした大きな木々が立ち並んでいた。
祖父宅は集落から離れて山の中にある。セミの鳴き声も聞こえて、夏真っ盛りだった。
家に帰らずに祖父の家にまだ居るのかといえば、一番の理由がナナの様子見だった。
昨日、祖父の手によって治ったけど、祖父もまだ見たいと言ってくれた。
元からしばらく居るつもりで来ているので、夏休みの宿題を持ち込み片付けている。
ナナの不調を言い訳に、長居しているのが本音かもしれない。
当の本人であるナナは、私の宿題が広がる座卓の下でゆっくりと寝ていた。
「寝ているくらいだったら、宿題を手伝ってくれてもいいのに……」
魔術でどうにか出来るのであれば、既にやっている。期待したいのは、役に立たないとは分かっているけど、一緒にやってほしい。『猫の手』だから期待できないのは、分かっているけど。
今回のことで、自分に自信をなくしている気がしてならない。ナナもしゃべれるから、自覚してくれたらもう少し楽に見つけられたはず。それを見つけなければならないのは、持ち主としての力量が必要となってくる。
これでも必死に探してみたが、原因が分からず。ただ不調のナナへの対策を打てずにいた。
電話で祖父に相談して、来ることにした。
しかし、祖父も本業の仕事があるから、一日中構ってくれるわけではない。
誰もいない家で、仕方なく宿題に取り組んでいた。
でも、本当に魔術で出来ないのだろうか。
お風呂掃除だって、出来ないと思っていたけど出来たんだ。もしかしたら、無いと思っているだけであるのかも……。
和室を出て、なにかアイディアがないかと家の中を歩き回った。
地下室には入れないから、居間を通り奥の部屋まで来た。扉は半分くらい空いていて、中の様子は暗いながら見ることが出来た。
「おじいちゃん、いる?」
確認のため言ってみるが、朝食後に出かけているから当然いなかった。
机の上に一冊の本が置いてあった。地下室の本とは違うものだけど、これもまた厚いものだった。
どうせいないし、ちょっと見るくらいいいだろう。
手をかけていた扉を開けようとすると、向こうの玄関扉が開く音が聞こえた。驚いて、思わず背筋が伸びた。
けれども、祖父でなさそうだった。
誰だか察しはついていたので、期待しながら玄関の方に駆け寄ってみた。
「夏実ちゃん、久しぶり!」
予想通り、高校三年生の従兄だった。本来は別の家に住んでいるが、夏休みの間だけ、祖父宅で生活しているのは、祖父から電話で聞いていた。
「お兄ちゃんも元気そうだね」
一年ぶりくらいに会えて嬉しかった。
「でも、遊んであげられないからな」
「受験勉強中だったよね……」
夏休み期間、受験勉強に集中するために祖父宅に来ている。大変だな……。
荷物を一旦部屋に置いてくると、従兄は地下室に入っていった。気になって、付いていくが階段の上で追跡は止めた。
「すごい散らかっているな……」
地下室から従兄の声が聞こえた。
「ご、ごめんね……」
昨日、私が転げ落ちて、そのままだった。
「何がだ?」
「な、なんでもない」
地下室に入ったなんて、従兄にも言えないし……。きっと祖父に怒られる。
「忙しくなかったら、手伝ってくれないか?」
「で、でも……」
地下室で見た『あの本』が気になる。けど、地下室には入るなって言われているし、どうしよう。
階段上で覗き込んでいる私に、従兄は不思議そうに見ていた。
「おじいちゃんが入っちゃダメって言われているし……」
「小さいときの話だろ。危ないからそう言っただけだから、大丈夫だよ」
説得されて、地下室に恐る恐る踏み入れた。祖父に何か言われたら、ずるいけど従兄を盾に使うことも出来る。
転げ落ちたときは気付かなかったが、階段を下りたすぐ脇にスイッチがあった。おかげで、暗い地下室は明るく照らされた。
やっぱり広い部屋で、大量に本が天井まで詰め込まれていた。本棚の間隔も狭い上、足の踏み場もなかった。衝撃で崩れ落ちても致し方なかった。
二人で雪崩れた本を片付けるが、どうしても気になっていた。
「昨日は、この辺りにあったはずなのに……」
「どうかしたのか?」
第8話の結末は「きとぅん・はーと」にて公開
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「宿題さえなければ、夏休みは楽しいのに……」
祖父宅の和室で、縁側の向う側に広がる夏空をどことなく見て思った。青空に入道雲が広がっていて、その下に、青々とした大きな木々が立ち並んでいた。
祖父宅は集落から離れて山の中にある。セミの鳴き声も聞こえて、夏真っ盛りだった。
家に帰らずに祖父の家にまだ居るのかといえば、一番の理由がナナの様子見だった。
昨日、祖父の手によって治ったけど、祖父もまだ見たいと言ってくれた。
元からしばらく居るつもりで来ているので、夏休みの宿題を持ち込み片付けている。
ナナの不調を言い訳に、長居しているのが本音かもしれない。
当の本人であるナナは、私の宿題が広がる座卓の下でゆっくりと寝ていた。
「寝ているくらいだったら、宿題を手伝ってくれてもいいのに……」
魔術でどうにか出来るのであれば、既にやっている。期待したいのは、役に立たないとは分かっているけど、一緒にやってほしい。『猫の手』だから期待できないのは、分かっているけど。
今回のことで、自分に自信をなくしている気がしてならない。ナナもしゃべれるから、自覚してくれたらもう少し楽に見つけられたはず。それを見つけなければならないのは、持ち主としての力量が必要となってくる。
これでも必死に探してみたが、原因が分からず。ただ不調のナナへの対策を打てずにいた。
電話で祖父に相談して、来ることにした。
しかし、祖父も本業の仕事があるから、一日中構ってくれるわけではない。
誰もいない家で、仕方なく宿題に取り組んでいた。
でも、本当に魔術で出来ないのだろうか。
お風呂掃除だって、出来ないと思っていたけど出来たんだ。もしかしたら、無いと思っているだけであるのかも……。
和室を出て、なにかアイディアがないかと家の中を歩き回った。
地下室には入れないから、居間を通り奥の部屋まで来た。扉は半分くらい空いていて、中の様子は暗いながら見ることが出来た。
「おじいちゃん、いる?」
確認のため言ってみるが、朝食後に出かけているから当然いなかった。
机の上に一冊の本が置いてあった。地下室の本とは違うものだけど、これもまた厚いものだった。
どうせいないし、ちょっと見るくらいいいだろう。
手をかけていた扉を開けようとすると、向こうの玄関扉が開く音が聞こえた。驚いて、思わず背筋が伸びた。
けれども、祖父でなさそうだった。
誰だか察しはついていたので、期待しながら玄関の方に駆け寄ってみた。
「夏実ちゃん、久しぶり!」
予想通り、高校三年生の従兄だった。本来は別の家に住んでいるが、夏休みの間だけ、祖父宅で生活しているのは、祖父から電話で聞いていた。
「お兄ちゃんも元気そうだね」
一年ぶりくらいに会えて嬉しかった。
「でも、遊んであげられないからな」
「受験勉強中だったよね……」
夏休み期間、受験勉強に集中するために祖父宅に来ている。大変だな……。
荷物を一旦部屋に置いてくると、従兄は地下室に入っていった。気になって、付いていくが階段の上で追跡は止めた。
「すごい散らかっているな……」
地下室から従兄の声が聞こえた。
「ご、ごめんね……」
昨日、私が転げ落ちて、そのままだった。
「何がだ?」
「な、なんでもない」
地下室に入ったなんて、従兄にも言えないし……。きっと祖父に怒られる。
「忙しくなかったら、手伝ってくれないか?」
「で、でも……」
地下室で見た『あの本』が気になる。けど、地下室には入るなって言われているし、どうしよう。
階段上で覗き込んでいる私に、従兄は不思議そうに見ていた。
「おじいちゃんが入っちゃダメって言われているし……」
「小さいときの話だろ。危ないからそう言っただけだから、大丈夫だよ」
説得されて、地下室に恐る恐る踏み入れた。祖父に何か言われたら、ずるいけど従兄を盾に使うことも出来る。
転げ落ちたときは気付かなかったが、階段を下りたすぐ脇にスイッチがあった。おかげで、暗い地下室は明るく照らされた。
やっぱり広い部屋で、大量に本が天井まで詰め込まれていた。本棚の間隔も狭い上、足の踏み場もなかった。衝撃で崩れ落ちても致し方なかった。
二人で雪崩れた本を片付けるが、どうしても気になっていた。
「昨日は、この辺りにあったはずなのに……」
「どうかしたのか?」
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