【7月12日 AFP】アポロ11号(Apollo 11)による月面着陸がうそだと考えて居る人は、世界中に数多く存在して居る。彼らは、1969年7月に米航空宇宙局(NASA)が配信した画像が、実際には米ハリウッドのスタジオで撮影されたものだと信じて居るのだ。また、月面着陸は無かったとしてアポロ11号のミッションそのものを疑い、それが「ねつ造」であったと実証を試みるウェブサイトも星の数ほどある。

 こうした懐疑派の中には、NASAにはその様な途方もない計画を成功させる技術的ノウハウは無かったと言う人や、宇宙飛行士だったら宇宙線で焼かれて死んで居るはずなので、月面に着陸して居たとしてもそれは人間では無かったと主張する人も居る。

 陰謀論者たちは、映像の中の影に不自然な点がある事や一部の写真に星が写って居ない事を指摘して居るが、こうした説は科学者らによって何度も反証されて居る。

 

■出来事の重要性に比例する陰謀論

 フランスの研究者で、陰謀論に関する広範な著作のあるディディエ・ドゥソルモー(Didier Desormeaux)氏は、出来事の重要性が増せば増すほど、とんでもない陰謀論を引き付ける傾向があると指摘する。

 ドゥソルモー氏はAFPの取材に対し、「宇宙で主導権を握る事は人類にとって重大な出来事だった。それを攻撃する事で、科学の根源と人類による自然支配と言う概念を揺さぶることが出来る」と述べ、その様な理由からアポロ11号の月面着陸が陰謀論者たちのターゲットになって居ると説明した。

 アポロ以前の陰謀論──1963年のジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)大統領暗殺やUFOが墜落したとされる「ロズウェル事件(Rosewell Incident)」──でも画像は検証された。だがアポロでは、NASAが公開した画像の詳細な分析が陰謀説の基となった点がそれまでのケースとは違うとドゥソルモー氏は言う。

■「画像は思考を麻痺させる」

 ドゥソルモー氏によると「メディアイベントの視覚的解釈を中心に構築され、それがすべて仕組まれたものであると非難する陰謀論」は月面着陸が初めてだったと言う。

 また同じ論法が、米国で相次ぐ学校襲撃事件を嘘だとする陰謀論でも繰り返し使われて居る事も指摘された。画像は、よりゆがんだ論理的飛躍と共に提示されると「私たちの思考能力をまひさせる」と言うのだ。

 NASAの史料編さん官だったロジャー・ラウニアス(Roger Launius)氏は、否定論者たちは他の人々が指針として居る調査方法や知識を受け付けないと批判する。「彼らは政府に対する人々の不信感や、社会に対するポピュリスト的な批判、(科学的な考え方の)基本と知識の創出に対する疑問と云ったものにつけ入って来た」

 またラウニアス氏は、そうした妄想にメディアが油を注いだと非難し、「月面着陸陰謀論は、この出来事をより新しく、異なる視点で伝えたいという(メディアの)競争によってあおられた」と指摘して居る。(c)AFP/Frédéric POUCHOT

 2009年には無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が月面に残された歴代のアポロ宇宙船の残骸を撮影して居る。それでも、こうした説がなくなる兆しは今の処見られないのだ。

  1969年、「静かの海」にアポロ11号の着陸船が降り立った時、テレビに映る映像を疑って掛かった米国人は20人に1人も居なかった。米調査会社ギャラップ(Gallup)のデータによると、世紀が変わる頃でもこのイベントに疑いを持って居たのは米人口の約6%にとどまって居たとされる。一方、冷戦時代の敵国ロシアでは同時期、国民の半数以上が米国を最初に月に到達した国と認める事を拒んで居たと言う。