更に追い込みに入っていきます。
粘土のため細かな細工は出来ませんが、この時点で形が決まるため、とても長い時間を費やす必要のある作業です。
正面や横以外にも斜めから見た繊細で優美に見えるラインを研究していきます。
更に昔この弥勒菩薩を制作した作者の意図を考えながら原型制作を行いました。
しかし、写真では細かい本当のバランスや魅力が分りにくいため、前回も少しお話し致しましたが、日帰りで京都まで実物を見に行って参りました。
久しぶりの京都でしたが一切、他の名所に行くこともせず、広隆寺の霊宝殿にある弥勒菩薩だけを必死に観察して参りました。
建物の中では撮影や写生が禁止なため、部分的なラインや形などを凝視して頭に入れ、建物の外で紙に描いてはまた中に入り、その作業を4時間余り繰り返し、ようやく図面を完成させました。
長い時間その場にいて多くの参拝客が押し寄せる中で、何十分も手を合わせている人。
その場から動けなくなる人。
また老夫婦が一緒になって小声で何かを話し合っている姿。
学生の団体がにぎやかに談笑している様子。
一人の若い女性が真剣にのぞき込んでいる姿。
多くの方々のさまざまな反応を見せて頂くことが出来ました。
国宝第一号で、仏像の中でも大変人気があり、広く教科書でも紹介される広隆寺の弥勒菩薩。
千年以上多くの人々に親しまれてきたこの弥勒菩薩は人の願い、悩み、苦しみ、喜び等を沢山聞き入れて来られたからこそ言葉では表わせない本当の魅力を肌で感じる事ができるのではないでしょうか。
今回は仏像制作の技術を学ぶ為に京都に行きましたが、それ以上に仏像の本来の素晴らしさや役割を改めて感じることが出来ました。
この度この弥勒菩薩の制作工程をご紹介する本を出版させて頂きました。
自分自身、全身全霊で完成させた一冊です。
皆様にもこの本の中でご紹介しています弥勒菩薩の制作工程をご覧頂き、私の仏師としての想いなど何かを感じて頂けたら、とても幸いです。
制作エピソードは次回も続きます。