質問
夫婦で協議して、夫と離婚をすることを決めました。
離婚する際には財産分与という制度があると聞きました。
夫と結婚してから自宅マンションを購入しましたが、夫名義になっており、夫の給与収入で住宅ローンを返済しています。
夫婦にはあまり貯金がなく、財産といえるのは自宅のマンションだけです。
妻である私は、離婚の際に、夫名義の自宅マンションを財産分与として受け取れるのでしょうか。
回答
自宅のマンションは、夫名義であっても、夫婦の共同生活によって形成した共有財産であるといえます。
したがって、妻は、離婚の際に自宅マンションの価値の2分の1を財産分与として請求することができます。
例えば、住宅ローンが残っている場合であっても、自宅マンションを売却し、その売却代金を原資として住宅ローンを返済し、残った売却代金を夫婦で2分の1ずつ分けることが考えられます。
最近の熟年離婚の件数
令和2年(2020)離婚件数は19万3251組でした。そのうち同居期間が20年以上の夫婦は3万8980組でした。
令和3年の離婚件数は18万4386件でした。そのうち同居期間が20年以上の夫婦は3万8968組でした。
特に、結婚生活が長い夫婦は、夫婦共同生活により形成してきた財産が多い傾向にありますので、正確な把握が重要になります。
令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/gaikyouR3.pdf
1 - 財産分与とは
(1)財産分与とは何か
財産分与(民法768条)とは、離婚に際して夫婦が共同生活において築いた財産を平等に分け合う制度です。
夫婦は、婚姻して共同生活を営みます。共同生活を送る上で、預貯金をし、居住するための不動産を購入し、自動車を購入すること等があります。
こういった、婚姻生活上で得た財産は、夫又は妻のどちらのものになるのでしょうか。財産によっては、通常夫婦のどちらかの名義となっているかもしれません。例えば、夫が働き、妻が専業主婦の場合、夫の給与を積み立ててきた夫名義の預貯金や、住宅ローンを組んで購入した夫名義の自宅について、いずれの財産になるかが問題となります。
上記のような問題につき、実務では、原則として夫婦が協力して形成したと考えます。なぜなら、夫が勤務を通じて得た財産であっても、妻の家事を前提に得られたものであり、財産形成に対する貢献は夫婦平等と考えるからです。
婚姻前から各自が有していた財産や、婚姻後に得た財産でも、相続で得た財産などは特有財産といって清算の対象になりません(民法762条)。もっとも、特有財産について、特別の寄与がある場合には、これも分与請求ができる場合があります。
(2)財産分与請求ができる者とは
財産分与は、協議上又は裁判上の離婚をした者の一方であれば、請求が可能です(民法768条1項、民法771条)。
したがって、財産分与請求は、不貞行為をするなどして離婚原因を作った側であっても求めることができます。
(3)請求が可能な期間
財産分与で注意が必要なのは、離婚後2年が経過すると除斥期間が経過し、財産分与請求ができなくなる点です(民法768条2項)。
除斥期間とは、一般的に言う「時効(消滅時効)」(民法166条)と似ていますが、時効の完成猶予や更新、すなわち、期限が一定の事由により進行が止まったり、ゼロに戻ることはないため、既に離婚が成立している場合は2年を経過するまでに請求することが必要になってきます。
2 - 財産分与の構成要素
財産分与は、主に以下3つの要素で構成されます。
(1)清算的財産分与
婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、それぞれの寄与の程度に応じて公平に分配することを清算的財産分与といいます。一般的に「財産分与」という場合、清算的財産分与をいいます。
法律上の明文の根拠はありませんが、裁判所の判決等では、夫婦のそれぞれに分配する共有財産の割合は1/2とする考え方が原則とされています。これは、上述したように、夫のみが働きに出て収入を得ていた場合であっても、それは、妻の家事が収入(財産形成)に寄与しているという考え方に基づきます。
もちろん、共有財産に対する貢献度はそれぞれの夫婦によって異なります。夫も妻も外で働き、妻のみが家事全般も担っていたという場合には、妻のほうにより多く財産が分配される可能性もあります。
しかし、共有財産割合を1/2とする原則的な考え方がありますので、この割合の変更には証拠による証明が必要です。現実的には、この割合が変更されるということはあまり多くはありません。
(2)扶養的財産分与
婚姻をした場合、夫婦の一方が家事等に従事するために、仕事を辞める場合があります。しかし、離婚をした場合には、専業で家事等に従事していた者は、すぐに経済的に自立することが困難になる場合もあります。このような場合に、公平の観点から、妻又は夫が、経済的に自立できるまでの費用について財産分与として負担させるのが「扶養的財産分与」といいます。
もっとも、実務では、上述の(1)清算的財産分与や、下記の(3)慰謝料的財産分与で離婚後の生活費用が確保できる場合には、扶養的財産分与が認める必要がないと考えられています。
したがって、裁判所で判断される場合には、扶養的財産分与の有無は、個別の事情に応じ、離婚後に夫婦の一方が生活に困窮するか否かが、考慮されると考えられます。
(3)慰謝料的財産分与
婚姻の破綻原因が故意または過失に基づく場合には、不法行為になるため一方は、不法行為に基づく損害賠償の支払義務を負います。夫婦の一方に、このような不法行為等があった場合に、それを加味した財産分与を行うことがあります。これを、慰謝料的財産分与といいます。協議離婚の場合では、慰謝料的な側面を含んだ財産分与がされることもあり得ます。
もっとも、不倫やDVといった行為により婚姻生活が破綻したと認められる場合には、別途、離婚慰謝料請求がされますので、財産分与の請求において慰謝料的財産分与と明示して争うことは少ないと思われます。
3 - 財産分与の対象
財産分与の対象となる財産は、離婚するまでに、夫婦が互いに協力して築いた財産に限られます。そのため、夫婦それぞれの、個人的な財産は財産分与の対象に含まれません。
財産分与の対象となる、夫婦が離婚するまでに、協力して形成した財産を「共有財産」といいます。一方で、夫婦のそれぞれが保有する財産を「特有財産」といい、これは財産分与の対象とならないため注意が必要です。
(1)共有財産
ア 不動産
結婚後に購入した土地や建物などの不動産は共有財産です。婚姻後に、夫婦が協力して得られた財産といえるからです。
もっとも、婚姻中に購入した不動産であっても、夫婦の一方が婚姻前に貯金をしており、その貯金で購入した場合には、特有財産とされる場合や、一方の寄与度が小さいとして、分与割合が1/2より小さく変更される可能性があります。このように、婚姻前の貯金で不動産を購入した場合等については、通帳等の記載をもとに、共有財産といえるかどうかの検討が必要です。
イ 保険料
婚姻中に生命保険や学資保険、損害保険などに加入した場合、解約することで払い戻される返戻金も共有財産として財産分与の対象となります。
ウ 現金や預貯金
預貯金に関しては、婚姻後に得られたものであれば基本的には共有財産の対象です。そのため、夫婦の一方の口座で生活費等を管理していた場合であっても、一方の特有財産になるのではなく、共有財産となります。
エ 退職金
退職金についても、給与の後払いとしての性質があり、夫婦の協力によって得られたものとして、共有財産となります。ただし、計算については注意が必要です。
例えば、夫が就職して10年後に結婚した場合において、同じ会社に夫が20年間勤務し、退職して退職金800万円を得た直後に、夫婦が離婚したとの事例で考えてみましょう。
この場合、夫が就職した時からではなく、結婚したときから退職までの期間についての退職金のみが財産分与の対象となります。財産分与が共有財産とされる理由は、夫婦の協力によって得られた財産だからです。夫婦共同生活に該当しない期間は除く必要があります。
上記の例では、具体的には、800万円のうち共有財産となるのは、勤務期間20年間のうち10年間分の400万円であり、夫婦の分与割合を1/2とした場合には、妻の取り分は200万円と計算することもできます(退職金800万円÷20年×10年×1/2=200万円)。
オ 家電や家具
結婚後、生活に必要として購入した家具や家電などについても、共有財産であり、財産分与の対象となります。
(2)特有財産
ア 婚姻以前の財産
婚姻以前に各自が形成した預貯金、婚姻以前における、夫婦各自の財産は、婚姻後もそのまま特有財産とみなされ、財産分与の対象とはなりません。もっとも、特有財産であっても、一方が財産の価値増加に寄与等していた場合には、その分について財産分与の対象なり得ます。
イ 親族から相続した財産
婚姻前後にかかわらず、親族から相続した不動産などの財産は、特有財産となります。
以上の財産以外にも、夫婦がそれぞれ、婚姻前から有していた預貯金で購入したバッグやアクセサリー等も特有財産となり、財産分与に含まれません。
4 -財産分与の割合
財産分与の割合は、上述したとおり、夫婦が婚姻中に取得した財産は、特有財産であることが明らかでない限り、原則として分与割合は1/2とされています。
なぜなら、夫婦の財産形成についての寄与や貢献は、原則として平等であると考えるからです。そのため、妻が専業主婦だとしても、分与割合が少ないとするのではなく、原則として平等とされます。
もっとも、夫婦の一方が、財産形成に寄与・貢献していた等の事情を証明した場合には、上述の分与割合1/2から変更される場合があります。これを「寄与度」といいます。しかし、これが認められるのは、あくまで例外であり、主張をするためには裏付けとなる資料等が必要です。