現代新書
2022.09.06# 世界史# 教養# 日本史
「日本の歴史」は誰が決める? “東大史料編纂所”が実証史学の中枢であり続ける理由
『太平記』は歴史学の対象か?
本郷 和人 プロフィール
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「歴史」は絶対ではない
こうして東大史料編纂所は伝統的に実証主義一筋の道を進むことになった。途中で、皇国史観のドンである平泉澄先生が「(史料編纂所は)調べるばかりで考えることを放棄している」と批判、日本の神話を歴史学に取り込んだりする時期もあった。
平泉の言葉として有名な「豚に歴史はありますか?」とともに、もう一つ有名な言葉がある。次のようなものだ。「日本の神話の話をすると、そこにどんな証拠があるのかと問うてくる人間がいる。しかし我々は日本人なのだから、信じることから始めなければいけない」
「日本人ならば信じろ」と言われても、私などは「信じることと考えることは違いますよね?」と冷静に切り返したくなるのだが、ともあれ、日本の歴史学の歴史をひもとけば、このように「歴史」というものが、時の歴史家の意向によって大きく姿を変えてしまうこと、さらに世相や時局や当時の政府の見解によってもはなはだ流されやすいことなどは、知っておいて損はないと思う。