ルフィ」強盗事件、「悪党の天国」にしたのは誰か 2/3(金)
■機能不全のフィリピン司法
このモンテンルパ刑務所が麻薬取引の国内の中心であるということは、フィリピン人の間ではなかば常識である。 所管する司法省は暴動などが起きたときだけ、通り一遍の対処をするが、本格的にメスを入れたことはない。定員の4倍とされる3万人近くが収容されており、数のうえでは囚人が看守を圧倒しているという説明もされるが、日本人には不思議なことだ。 看守で足りなければ、警察や軍を動員して一挙に内部を捜索し、個室や不要な設備などを一掃し、薬物や銃器を押収すればよさそうなものだが、「麻薬撲滅戦争」に力を入れた強面のドゥテルテ前大統領も手をつけなかった。
■給料の不足を権力で補う
むしろ、こうした犯罪に手を染めるのは、銃器類の扱いに慣れていたり訓練を受けたりする警官や兵士であり、銃器も支給されているから珍しくはないというのだ。 ドゥテルテ前大統領は、任期中に警官と兵士の給与を倍に引き上げた。現在初任給は3万ペソ(約7万円)ほどとなり、一般の会社員より待遇はよくなったが、長年にわたり賄賂を当然視してきた悪習が一朝一夕に消えることはない。 途上国一般のこうした状況に加え、司法の機能不全の背景にはフィリピン特有の事情も垣間見える。罪に対する社会の寛容さ、当事者の悪びれなさが他国に比べても際立っているように思えるのだ。
国民の大多数を占めるカトリック教徒の「懺悔すれば赦される」といった精神が関係しているかもしれない。現場の公務員はもとより、政府の上層部からしてそうなのだ。 例えばマルコス大統領の母イメルダ氏は、不正蓄財などの罪で有罪判決を受けて保釈中の身だが、公衆の前に出ることに臆することもない。ファンポンセ・エンリレ元国防相は汚職で逮捕されたものの高齢を理由に釈放され、現在は大統領の法律顧問に収まっている。マルコス大統領自身、2030億ペソ(約4800億円)の相続税を未納のままだが、反マルコス派の人々を除けば、大多数の国民は気にする素振りもない。
政治家や公務員に限らず、国民の間にも「罪はあっても罰はなし」という不処罰の文化が根を張り、汚職や賄賂の広がりを助長しているように見受けられる。