「人身取引の温床」としての日本
「人間の売り買い」は、日本にとっても無関係ではありません。アフリカからの人は必ずしも多くないものの、国際的な人身取引の被害者が、保護されたり、「不法滞在者」として拘束されています。2015年、警察が保護した人身取引の被害者は、フィリピン人やカンボジア人を中心に、49人にのぼりました。しかし、人身取引の多くの被害者は、パスポートを取り上げられたりして外部との接触が困難なため、これは氷山の一角に過ぎません。
人身取引は2003年に発効した「人身取引議定書」によって、国際的に規制されています。アフリカ諸国や欧米諸国をはじめとする締約国でも、人身取引は後を絶たず、この国際的な取り決めが万能とはいえません。それでも、各国における人身取引の厳罰化や意識喚起などに効果があったといえるでしょう。
ところが、世界全体で170ヵ国が参加するこの議定書に、日本は2002年に署名しながらも、その後批准していません。そのうえ、「業者」に対する処罰は総じて甘く、2015年に有罪宣告を受けた27人のうち9人は罰金刑だけで済んでいます。そのため、米国務省が発表している『人身取引報告』2016年版で、日本は先進国のなかで例外的にTier2(二層目、「問題あり」のレベル)にランキングされています。ナイジェリアもやはりTier2に位置づけられており、この点で日本は共通します。
このように海外から「人身取引の温床」とみなされても、その被害者が日本国籍をもたず、有権者でないためか、日本の議員、政府の関心は高くありません。移民や難民を制限しながら、人身取引に寛容なところに、その人権感覚や内向き志向をみるのは私だけでしょうか。
対テロ戦争の文脈における人身取引規制
その一方で、人身取引は深刻な人権侵害であると同時に、テロ組織を含む組織犯罪の資金源でもあります。日本政府は「国境を越えた組織犯罪に対応する『国際組織犯罪防止条約』の締結には国内法整備が不可欠」という観点から、共謀罪の導入に関する議論をスピーディーに進めています。しかし、人身取引の規制も「国際的なテロ対策のための取り組み」のはずですが、これに関しては「議定書」に署名した後も、その批准のための手続きが15年間放置されたままです。
もちろん、人身取引の規制だけで、テロ対策が進むわけではありません。さらに貧困層の若者がボコ・ハラムに吸収され、誘拐を繰り返しているように、人身取引には貧困をはじめとする多くの問題がかかわっており、一朝一夕に解決するものではなく、国際的な規制だけでアフリカの人身取引を撲滅することもできません。
しかし、その解決策が完全でないことを認識することと、問題解決のための取り組みを無視することは、同じではありません。少なくとも、「その不完全さ」が「何もしないことで予想される結果」よりマシなら、手を出さないことを正当化するのは困難です。制裁を敷いても、抜け道がある限り、北朝鮮の核・ミサイル開発を防ぐのが困難であるように、人身取引の規制もまた、「ほころび」が全体の努力を無に帰すことにさせかねないのです。日本がテロとの戦いを進めるのであれば、その資金源としての人身取引に対する規制にも取り組むべき時期にきているといえるでしょう。
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