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都心の広い戸建てを建て替えた集合住宅にありがちな形態である、と。


エキスパートの補足・見解

 火災が起きた建物はタイル張りの瀟洒な外観であること、そして6階建ての最上階が1つの住居になっていたことで、「高級マンション」と考えられがちだ。

 しかしながら、以前からの都心の住宅事情を知っている人間ならば、異なる見方をする。あの建物は、都心の広い戸建てを建て替えた集合住宅にありがちな形態である、と。

 たとえば、都心部で100坪(約330平米)を超えるような広い敷地の戸建て住宅に住んでいる人は、マンション形式の集合住宅に建て替えるケースが多い。

 できあがった建物の一部を自宅として、残りを賃貸住宅にしたり、分譲する。そうでもしなければ、固定資産税、相続税が高い日本で、広い敷地の家、それも地価評価額が高い都心部で広い家を子に遺すことはできない。

 今回、火災が起きた住戸も、そのような経緯で建て替えられ、最上階にオーナー住戸が配置されたのではないだろうか。

 本当なら、広い庭でのゆったりした暮らしを続けたい。しかし、税金のことを考えると、そうもいかないので、「やむなく」低層や中層のマンション形式に建て替えるケースが少なからずあるわけだ。


 その建物にはある特徴が生じがちだ。まず、下層階が賃貸であっても「高級な外観」になりがちということ。そして、もともと戸建て住宅が多かった場所なので、道路は狭くなる。

 さらに、もともとのオーナー家族が住む最上階住戸は特殊な構造になりがちだった。

 たとえば、20世紀まではエレベーターが住戸に直結している住戸がつくられていた……猪口議員の自宅のように、エレベーターの扉が開くと、いきなり住戸の玄関となり、リビングが丸見えになったりする住戸だ。

 その場合、知らない人が間違えてエレベーターで上がってくると大変なので、エレベーターに鍵を付ける。

 最上階を示すボタンの部分に鍵穴があり、そこにキーをさして回さないと、エレベーターが最上階に行かない仕組みになっているわけだ。

 歩いて最上階まで上がろうとしても階段部分に頑丈なスチールドアがあり、普段は施錠されている。セキュリティは強固に守られるが、一方で避難通路、消防活動に必要な通路が塞がれるという構造である。

 以前はそのような形態のマンションをつくることが可能で、東京の都心部では実例がいくつもつくられていた。

 そのひとつで、今回、火災が起きてしまった。

 しかし、これは極めて特殊なケースだ。通常のマンションはセキュリティを固めながら、それ以上に避難通路や消防活動のしやすさを重視している。

 今回の火災から、「だから、マンションは怖い」とか「マンション最上階は特に怖い」とはならない。そのことはぜひ覚えておいていただきたい。


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櫻井幸雄
住宅評論家


年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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