「ケーキを食べればいいじゃない」はデマ? 実は節約家だったマリー・アントワネットの“夕食会メニュー”を再現
『歴メシ!決定版』より#2
遠藤 雅司
マリー・アントワネットが言ったとされるフレーズに「パンがなければ、ブリオッシュを食べればいいじゃない」があります。これはデマというのが定説です。このセリフはフランスの哲学者、ジャン=ジャック・ルソーの自伝的作品『告白』6巻で、「ある王女」の言葉として引用されたものでしたが、ルソーはその女性の名前を明かしておらず、そもそも『告白』6巻の刊行時、マリーはまだ10歳になるかならないかの年齢でした。結婚もしておらず、ウィーンの宮廷で健やかに過ごしていたころで、ルソーの記述とは整合性がとれません。
また、マリーは1775年に、母のマリア・テレジアに次のような手紙を送っています。
「出産も婚礼もいっぺんにお祝いするはずなのですが、祝典はごくささやかなものになる予定です。お金を節約するためです。でも、一番大切なことは、民びとにたいしてお手本を示すことです。パンの値段が上がってたいそう苦しんでいるからです。でもうれしいことにまた希望が湧いてきました。麦の育ち具合がとても順調だったものですから、収穫のあとはパンの値下がりが見込まれているのです」
この手紙からは、節約を心掛け、民衆の生活に気を配る人柄が滲み、「パンがなければ~」の言葉とは正反対のマリーの姿が浮かび上がります。
マリー・アントワネット
マリー・アントワネットの食の傾向は、母マリア・テレジアとの10年にわたる往復書簡でわずかながら記されています。キナ・ワインという食前酒や滋養に富んだスープ、牛乳、ロバのミルクなどが登場します。キナ・ワインを除けば、どれも、健康に関わる料理や飲み物が挙げられています。また、菓子は本当に好きだったようで、出身国のオーストリアから取り寄せて食べていました。