【対話】寿命
「昔は人生50年といっていたけど、今は人生100年時代で、なんというか、まあ、結構な時代になりましたねえ?」
「どこが結構ですか。人生なんて50年もあれば十分ですよ。」
「なにを仰る? 今の時代、40〜50歳はまだまだ若手ですよ。政治家をご覧なさいな」
「全くもって、私には有難迷惑な風潮ですね。そもそもですよ? こんな世の中に生まれてきた事がですよ? 罰ゲームみたいなもんじゃないですか? あなた。」
「何が罰ゲームですか? あなたなんか、本読んだり。美術館行ったり。好きな事したり。ワガママ放題に生きているくせに、世の中を悪く言ったら、罰があたりますよ」
「なーに、見た目が違うだけで、苦しみは皆と同じですよ。差別、イジメ、貧困、格差、マウント、詐欺……酷いもんですよ。私も例外なく、そういうものを経験させて頂いてますよ」
「あなた。そうやってネガティブな所ばかり見ないで、もっとポジティブな所を見なさいよ。美味しい料理。充実したレジャー。愛すべき人達。豊かな蔵書。美しい芸術。世の中まだまだ捨てたもんじゃないわよ。人生を楽しまないのは、神様に失礼よ」
「ほほぅ、あんたは何もわかっていない。」
「何がよ?」
「人生の本質や、日本の未来が、ですよ。あなたの言う『楽しい』は、私に言わせれば、ただの水泡(バブル)ですよ。人の世の本質は『悲しみ』です。何をしたって『悲しみ』が付き纏ってきます。それが人生だからでもあるんですよ。」
「あー。辛気臭い奴だ。イヤな奴だ。あんたこそ、何も分かっちゃいない。文学なんて陰気なものは捨てちゃいなさい。もっと即物的に生きなさいよ。人生を楽しんで楽しんで、100年でも200年でも、図々しく生きて『あー、楽しかった』で死ぬ。それこそ、造物主たる神様が、私達に求めているものだと思うけど?」
「あー。やだやだ。私は神様なんか大嫌い。こんな苦しみの多い、イヤな世にーーあと数年なら、なんとか我慢出来るけどーーまだ50年近くも、生きなければならないなんて、あなた。やっぱり罰ゲーム以外の何者でもないよ。」
「でも、神様はーー」
「いや、あんたが好きな神様が想定していたのも、きっと人間50年だったに違いないよ。+50年は、人間に作り出された『余計な年月』だよ。何が『人生100年』だよ。余計な事しやがって。」