楽天を追及する公正取引委員会 経産省との競合で覚醒も 対GAFAは断念か

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楽天を追及する公正取引委員会 経産省との競合で覚醒も対GAFAは断念か - ライブドアニュース

16年ぶり「緊急停止命令」発動

「吠えない番犬」と揶揄されてきた、あの公正取引委員会がこのところ、まるで覚醒したかのようである。先週末(2月28日)、丸の内・霞が関のビジネス街や楽天本社のある世田谷区・二子玉川を衝撃が走った。

昨年夏、芸人との契約の書面化を迫って吉本興業を震え上がらせた余韻が冷めやらぬ中で、3980円以上を買えば送料を無料化するという楽天の計画に待ったをかけようと、公取が東京地裁に対して16年ぶりという独禁法の緊急停止命令発動の申し立てを断行したとのニュースが駆け巡ったのである。

 

取材すると、公取のファイティング・ポーズの裏には、政府が今国会に提出予定の「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」(仮称、以下「DPF透明化法案」と略す)が影響している事実が浮かび上がってきた。

同法案にはこれと言って公取の権限を強化する改正点はないのだが、その一方で、経済産業省に公取の権限である独禁法違反事案の調査を肩代わりさせることになりかねない規定が柱となっており、これに“領空侵犯”をされかねないと公取が危機感を募らせているという。

 

杉本和行・公取委員長から発破をかけられた公取事務方が早くから、新法成立後に経産省の“領空侵犯”を受けかねない問題の総点検に動き出した。

こうした案件の中には、芸人の契約の書面化問題や楽天の送料無料化だけではなく、決済サービスの手数料率の高さに関する優越的な地位の濫用容疑を視野に入れて、ここ数年中断していたはずのGAFAのアメリカ本社への立ち入り調査の再開も含まれていた。

結局、GAFAは野放しに終わる

しかし、EU(欧州連合)の独禁当局の執拗な追及を受けてきたGAFAはしたたかだ。日本の経済団体も抱き込んで、法案作りの段階で前述のDPF透明化法の弱体化に成功したほか、公取にもなかなか尻尾を掴ませない。

結果として、新法が成立してもGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの総称)は野放しに終わる確率が高い。覚醒した公取の餌食になるのは、楽天のような世界に羽ばたく力のない和製プラットフォーマーぐらいだろうとみられている。

 

皮肉なことに、GAFAやBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)規制が、後発の日本企業という弱い者いじめに終始し、米中両国系の巨大プラットフォーマーを太らせる結果に終わりかねないというのである。

安倍晋三総理を本部長とする日本経済再生本部の下部組織「未来投資会議」が2018年夏にまとめた「未来投資戦略2018」で、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルールの整備」を打ち出して以来、経済産業、総務の両省と公正取引委員会は、規制権限を巡る縄張り争いにしのぎを削って来た。

 

そして、経産省が辿り着いたルール整備案が、DPF透明化法なのだ。以前にも本コラムで書いたように、巨大IT系プラットフォーマーを巡る規制には、(1)徴税権をどう行使するか、(2)個人情報をどう保護するか、(3)独禁法違反的な行為をどう取り締まるか――の3つの視点が不可欠だ。

DPF透明化法案はこのうち独禁法的な側面、つまり、顧客数や情報量で取引先を圧倒する巨大ITが、その強大な立場を利用して中小出店者や利用者に不利な取引を強いることを防ぐことを意図している。

「イノベーションの芽を摘む恐れがある」

DPF透明化法案の主な柱は、(ア)取引条件の取引先企業への開示の義務付け、(イ)取引先の要望に対応できるよう自主的に体制を整備することの義務付け、(ウ)取引先からの苦情にどう対処したかなどに関する自主的レビューを行い、その結果を年に1回経済産業大臣に提出することの義務付け、――の3つとなっている。

そのうえで、経産省が収集した情報をもとに、必要と判断すれば、公取に独禁法上の対応を促す建て付けになっている。法の所管は、主管が経済産業省、共管が総務省、公正取引委員会だ。

筆者から見れば、競争政策に関するノウハウや人材の蓄積不足の経産省が情報を収集したからと言って独禁法適用の可否を適切に判断できるのか、あるいは、経産省に権限行使を促されたからと言って、その能力にもともと疑問符が付く公取に実行できるのかなど、実効性は未知数だ。

しかし、筆者とは違い、公取の目には、同法案が許し難い領空侵犯に映っている。

 

案の定、DPF透明化法案は国会に提出される前の段階で、GAFAの意を受けた経済界からの「過剰規制で、イノベーションの芽を摘む恐れがある」といった批判にさらされて、上記の3点がいずれもプラットフォーマー自身の自主的取り組みを義務付けるものにとどまった。

加えて、当初案にあった具体的な違法行為の明示が見送られた経緯もある。見送られた項目の中には、GAFAが提供している決済サービスの手数料が高率であれば、優越的な地位の濫用に当たるとする規定も含まれていたという。GAFAの日本駐在員のひとりは、その規定をそっくり削除することに成功したと筆者に胸を張ってみせた。

それでも楽天が引き下がらないワケ

ただ、ここで見逃せないのは、こうした違法行為の明示にGAFAだけでなく、公取も難色を示していたことだ。そして、法案作りの場で経産省の領空侵犯に神経を尖らせる一方で、水面下では、ここ2年ほど中断状態だった決済手数料問題でアメリカ本社に立ち入り調査を再開したという。

この動きは、独禁法違反に問えないか改めて確認したものとみられている。その後、すでに数ヵ月間、公取側からGAFAへの接触が途絶えており、公取がこれ以上の追及を断念したとGAFA各社は胸をなでおろしているというのである。

一方、公取は表舞台では、吉本やジャーニーズ事務所を震え上がらせたり、楽天の送料無料化問題に執拗な中止圧力をかけている。ほんの数年前と比べれば、隔世の感があると言って良いだろう。

 

ちなみに、芸人との契約の書面化は、反社勢力との交際根絶を誓約させるなどの点で、タレント事務所側にもメリットがあり、決して理不尽な話ではなかった。

また、在庫、発送、配送でイノベーションを行い、一定の基準に基づいて手数料を徴収するというアマゾン型のビジネスモデルと違い、楽天の送料無料化は優越的地位の濫用にあたる可能性が大きいとされる。

 

というのは、楽天市場には、これといったイノベーションがなく、在庫や発送は出店者任せのうえ、送料について3980円以上の購入者に対して無料にするにあたって、そのコスト負担を出店者に押し付けようとしているからだ。したがって、楽天市場の送料無料化に見直しを迫るのは、独禁当局として当たり前のことと評価できる。

これに対して、楽天の傲慢、強引さは気掛かりである。いったい、なぜ、出店者負担による送料無料化という出店者に受け入れ難い戦略を打ち出したうえ、公取が優越的地位の濫用の疑いで立ち入り調査するという事態に至っても、なお撤回という選択肢を選べなかったのだろうか。

総理官邸に愛想を尽かされた

その答えは、楽天が2月13日に発表した2019年12月期の連結決算(国際会計基準)にある。

最終損益が前期の1422億円の黒字から318億円の赤字に転落、8年ぶりの最終赤字を記録したのだ。アメリカのライドシェア大手リフトへの投資に失敗して減損損失を計上したほか、携帯電話事業への先行投資が重荷になった結果だ。

こうした中で、主力部門にもかかわらず、部門別営業利益が前期比で11%も減った国内電子商取引部門のテコ入れが急務となっているのだ。ところが、楽天の資金繰りには余裕が無く、3980円以上を購入した人への送料無料化の原資を出店者に求めざるを得ないのだ。

楽天は一時、総務省事務方の反発を押し切って希少資源の携帯電話用の周波数取得に成功するほど、総理官邸と蜜月だったが、その関係も失った。当初公約したほど基地局整備などがうまくいかず、サービス開始を遅らせざるを得なかったうえ、触れ込みほどの値下げも実現できないとあって、官邸に愛想をつかされたのだ。

加えて、昨年末、頑なに送料無料化に拘る姿勢をみせて、商工族を中心とした与党・自民党を激怒させる場面もあった。楽天の出店者である中小企業は、商工族議員の選挙での支持者の顔を持つからである。

こうした政治的な環境の変化は、公取が楽天叩きを進めるうえで強い追い風になっている。

 

だが、こうした追い風にまかせて、公取が規制し易い和製プラットフォーマーの規制ばかりに注力するようだと、米国系や中国系のデジタル・プラットフォーマー大手と日本勢の彼我の格差がますます開く結果を招きかねない。

「転ばぬ先の杖」として、違反事例の摘発に注力するだけでなく、違反にならないビジネスモデル作りをサポートする啓蒙活動も公取の大きな使命となっている

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