過度な除菌」がキレやすい子供を増やすワケ…急な疲れや痛み、不調も腸内細菌が大きく関係

 

「過度な除菌」がキレやすい子供を増やすワケ…急な疲れや痛み、不調も腸内細菌が大きく関係|日刊ゲンダイDIGITAL

 疲労や衰えを強く感じるようになったり、病や不調、痛みが急に増えたり悪化したりしている人の体内では、一般的なものとは一線を画した急激な老化が起きているといいます。

 C型肝炎の輸血による感染の撲滅に寄与し、世界的な評価を得た医学博士の飯沼一茂さんは、それを「倍速老化」と名づけ、その原因を免疫の暴走と明らかにしました。今後、医学の主役となる免疫の最新知見をまとめた新著『倍速老化』(サンマーク出版)では、この免疫の暴走を止めるカギの一つが腸内細菌にあると指摘しています。

 飯沼さんによると、腸内細菌は、私たちの心身に思いのほか大きな影響を与えているそう。本書より一部抜粋、再構成してお届けします。

■免疫細胞やホルモンは腸の中でもつくられる

 じつは腸内細菌は、性格にまで影響を及ぼしています。

 無菌室と普通の環境で育てたマウスを比較した実験です。無菌室のマウスは体に菌を取り込む機会がないため、腸内細菌がまったく育っていませんでした。

 当然、このマウスには、免疫の暴走から体を守ってくれる制御性T細胞も育っていません。一方、普通の環境で飼われたマウスは細菌やウイルスを自然に取り込むため、制御性T細胞がきちんとつくられていました。

 無菌室で育ったマウスはキレやすい、という実験結果もあります。腸内細菌には精神を安定させるホルモンをつくってくれるものもいますが、無菌状態ではそれらが得られないため精神が安定しないのでしょう。比較対象とされた普通の環境で飼われたマウスの性格は穏やかでした。驚くことに、この穏やかなマウスの便を無菌室のマウスに投与すると、性格が穏やかになったというのです。

 マウスの例は極端な環境でのものですが、実際に人間も、あまりにきれいすぎる環境にいると制御性T細胞が育たなくなるため、問題が生じやすくなることが考えられます。いま世界中の、特に先進国と呼ばれる国々では、多くの人がこの状態で生きています。私が心配しているのは、日本においても、ここ30年ほどでキレやすい子ども、発達障害やうつ、心身症などを発症する子どもが大幅に増えていることです。

 もちろんマウスの実験をそのまま人間に当てはめることはできませんが、こうした子どもたちの変化は、周辺環境がきれいになりすぎたことと無関係ではないように思います。やはり行きすぎた除菌・殺菌傾向は考え直すべきではないでしょうか。

■腸内環境がすこぶるいい人の職業とは?

 人の世界に視点を戻してみると、最も理想的な腸内細菌を持っているのは、じつは僧侶、修行僧の方々です。

 修行僧と言えば、非常に規則正しい生活で適度に体も動かし、集中し、瞑想もしている。食べ物においては、量はさほど多くなく、内容はいわゆる精進料理ですから、お粥にたくあん、最低限の野菜とタンパク質など、植物性のものを中心に、じつに質素なものしか摂っていません。それがある意味、日本人の免疫を考えると理想的なあり方ということになります。この生活を目指すのはなかなか難しいですが、頭の片隅にはとどめておきたいものです。

 日本人の食事は戦後から現在までのあいだに、急激に欧米化しました。しかし、その前までは精進料理とまで行かずとも、それに近い食事をしていたわけです。江戸時代、日本にやってきたヨーロッパの方々は、質素な食事に比して日本人が随分元気で力もあるのを見て驚いたといいます。

 飛脚が一日200㎞進み江戸から京都まで2日半で移動したという記録も多数ありますし、人力車は14時間走り続けたとか。それは肉を好むヨーロッパの人々からすると質素に見える食事が、食物繊維中心ゆえ非常に豊かな腸内細菌をつくりあげ、人体の持つ運動能力を十全に引き出せていたからでしょう。

 当時の日本人の食事は、発酵食品や食物繊維がかなり豊富なうえ、抗生物質などもいっさい飲んでいませんから、腸内環境は現代よりはるかにいい人が多かったと思われます。江戸時代の食事や生活スタイルは、現代の腸内環境改善においても参考になる部分が多いのです。 

 

 腸内細菌が、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」「ドーパミン」「β‐エンドルフィン」の前駆体、つまりもとになるたくさんの物質をつくっているという点も見逃せません。

 まずセロトニンは、興奮を抑えて心身をリラックスさせ、心を安定させるはたらきを持つホルモンです。セロトニンのもとになるトリプトファンは、そのほとんどを腸内細菌がつくっています。そして、じつに95%ものセロトニンが腸でつくられ、脳では5%しかつくっていません。それでもこれまでは、腸にあるものが脳に行くことは絶対にない、と考えられてきました。

 ところが酸素などの栄養素以外にも、炎症性サイトカインなどが神経に入り込んでいることがわかってきました。これは神経に入り込んで欲しくない「悪い物質」ですが、そういうことが起こり得るなら「よい物質」が入っていく可能性だってあるでしょう。

 また、95%ものセロトニンが腸でつくられているなら、それが脳に影響しないわけがないだろうと、近年では考えられるようになってきています。

 そのほか、ドーパミンはやる気や集中力、オキシトシンは愛情や信頼感、β‐エンドルフィンは「脳内モルヒネ」のような高揚感、鎮痛作用をもたらすホルモンです。これらのホルモンについてもくわしい数値の変化などはまだわかっていませんが、腸で前駆体を合成したり、腸内細菌が腸神経系を介して間接的に合成を促進したりは確実にしています。これだけでもリラックスや安心感、集中力や信頼感、高揚感などを得るうえで、いかに腸が大切かがわかるでしょう。

 腸と脳の関係は一般に思われているよりかなり深く、腸を通っている「迷走神経」という太くて大きな神経は、脳と直結しています。そのためストレスがたまると食欲がなくなるなど、如実に影響が出るのです。腸管神経系という独自の神経ネットワークを持ち、幸せホルモンの前駆体もつくっている腸は「第二の脳」とも呼ばれてきましたが、そのはたらきの重要性から、近年では「第一の脳」ではないかとも言われています。

 実際、進化の過程においては脳より先に腸ができており、脳がない生物はいますが腸のない生物はいません。受精卵が細胞分裂を重ね、成長していく際にも、まずできるのは腸なのです。

 それほどまでに重要な腸ですから、たとえば病気などで切除手術をするといった場合には、じつはそれなりに高いリスクを負っているということになります。これをきちんと理解している医師は、迷走神経などをしっかりと残して手術してくれる。そうすればマウスの例のように感情に異常をきたすことなく、普通の生活に戻れるのです。

 ところが、そうした配慮をすることなく手術をすると、人が変わったのではないかと思うくらい性格が変わってしまうこともあるのです。

 また、腸の機能が衰えれば、幸せホルモンの前駆体もつくりにくくなりますから、感動的な場面に出会ってもホルモンが出ず、あまり感動できないといった事態も起こりえます。手術にかぎらず、加齢に伴い感覚が鈍ってくるのは腸内環境が悪化していることも関係しているでしょう

 ◇  ◇  ◇

飯沼一茂(いいぬま・かずしげ)

 医学博士。純真学園大学客員教授。日本機能性免疫力研究所代表。1948年生まれ。1971年立教大学卒業後、ダイナボットRI研究所(現:アボットジャパン)入社。1987年大阪大学医学部老年病医学講座にて医学博士取得。1995年、米国アボットラボラトリーズ・リサーチフェロー。2008年よりアボットジャパン上級顧問。2010年より国立国際医療研究センター・肝炎免疫研究センター客員研究員。2012年から純真学園大学客員教授。ホルモン、腫瘍マーカー、感染症マーカーの測定法の開発に多く携わる。特に、C型肝炎マーカーの開発によりC型肝炎の輸血による感染を撲滅し、世界的な評価を得た。そのほか、HIVマーカーの測定法開発やエイズ撲滅のボランティア活動を積極的に行っている。 

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