命も「爆買い」? 訪日医療ツアーに殺到する中国人と、中国国内の悲惨な医療事情

現代ビジネス

命も「爆買い」? 訪日医療ツアーに殺到する中国人と、中国国内の悲惨な医療事情

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中国国内では、とくに住居や医療の面で不自由を強いられることが非常に多い。北京や上海などでは、都心の好立地(東京でいえば山手線の内側やその周辺)で マンションを買おうとすると、2億円出してもまだ足りないほどに不動産価格が高騰している。医療も同様だ。中国人が最も恐れるのは病気にかかることだと言 われているが、北京や上海の病院に行ってみると一目瞭然、すぐにその気持ちが理解できる。

中国のお粗末な病院事情

筆者も実際に、北京市内のある有名病院を訪れてみた。問診部と書かれた正面玄関前に到着すると、そこには段ボールやビニールシートのようなものが敷 き詰められており、荷物に座る人々が大勢いる(※写真)。病院関係者に聞いてみると、はるばる地方からやってきたのに順番が回ってこなくて診察室に入れな い人や、入院患者の家族などだという。中国の病院も完全看護なので、付き添いの家族は宿泊できない決まりなのだが、それにしても、玄関先の床に寝泊まりするとは・・・。

診察室のドアは常に開けっぱなしだ。室内には患者と医師だけでなく、順番を抜かされないようにと見張っている次の患者と家族がいて、みんなで医師を 取り囲み、その言動を見守っている。医師の言葉に固唾をのみ、患者の家族が録音することもあるそうだ。筆者が見た病室は4人部屋だったが、仕切りのカーテ ンは開けっ放し。その理由は「自分が他の患者と同じように、きちんと治療してもらえているか」を確認するためだという。

治療はすべて「前払い制」だ。まず総合受付で受付料(20~30元)を支払い、各診療科に移るのだが、その際に医師を指名することができる。有名な 医師に診てもらうためには、順番待ちの長い列に並ばなければならない上に、治療費も高額となる。順番待ちのために、家族総出で病院に行くことも・・・。出産が近い妊婦であっても、炎天下に外で列に並ぶなどということは、中国では日常茶飯事だ。治療費は、戸籍(都市戸籍か農村戸籍か)や病状によって負担額の 割合が異なるので一概にはいえないが、決して安くはない。

今から3年ほど前、筆者の中国人の友人の夫が膵炎で緊急入院したが、夜中なので現金の持ち合わせがなく、「病室にいるのに、苦しんでいる夫の治療を すぐにしてもらえなかった」と嘆いていた。その後、半年ほど入退院を繰り返し、日本円にして数百万円もの大金を支払ったという。前払いのシステムは、治療 費を払えず、踏み倒して逃げてしまう患者がいるから仕方のない制度とはいえ、たった湿布1枚貼るだけでも、前払いしなければ医師も看護師も動かないという やり方には首をかしげたくなる。

同病院の最上階には「特別室」があり、筆者はそこも見せてもらった。看板は掲げていないものの一応「富裕層向け」なのだという。だが、廊下に並んだ ソファには穴が開き、スポンジがむき出しになっていた。患者用のシャワー室なども設置されておらず、カーテンもボロボロ。「これが本当に富裕層向けのフロ アなのか?」と目を疑いたくなるほどだった。

首都北京の大病院でさえこの有り様なのだ。

このような中国のお粗末な病院事情を見るにつけ、中国人が「病気になることが何よりも怖い」と恐れる気持ちもわかるし、富裕層が中国国内ではまとも な治療を受けられないと考え、「同じ高額な治療費を払うのなら最も近い先進国の日本で、安心・安全な治療をしてほしい」と思うのも無理はない。訪日医療ツ アーに参加すれば、空港への送迎から病院での検査まで、一貫して中国語で丁寧に対応してくれて、検査結果も信頼に足るものだからだ。

来日した中国人たちは日本各地を旅行して歩いているとき、「あ~、このおいしい空気も缶に詰めて中国に持って帰りたい!」とよく叫ぶ。日本人にとっ ては「当たり前」のことが、GDP世界第2位の中国ではまだ珍しい。その最たるものが、医療という人間にとって最も大事な、命にかかわる分野なのである。

中島 恵 (なかじま・けい)
ジャーナリスト。1967年、山梨県生まれ。1990年、日刊工業新聞社に入社。国際部でアジア、中国担当。トウ小平氏の娘、呉儀・元副総理などにインタ ビュー。退職後、香港中文大学に留学。1996年より、中国、台湾、香港、東南アジアのビジネス事情、社会事情などを執筆している。

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