EUが中国と組んで打ち出す、強力な「反トランプ作戦」の中身

 川口さんの文章は 読んでいて楽しくうまいので 全文引用します
(このサイトは 何週後かに 会員しか読めなくなります)

  川口 マーン 惠美

オバマとドイツ人のラブストーリー

ドイツでは、「プロテスタント教会デー」という大集会が2年に一度開かれる。今年は5月24日から28日までの5日間で、開催地はベルリンとヴィッテンベルク。ヴィッテンベルクというのは、マーティン・ルターゆかりの地だ。

プロテスタントの歴史は、いうまでもなく、ルターが聖堂の扉に張り出した「95ヵ条の論題」から始まる。この聖堂は、ルターが教鞭をとっていたヴィッテンベルク大学の中にある。今年は、ルターの「95ヵ条の論題」が貼り付けられてからちょうど500年目。プロテスタント教会にとっては記念すべき年だ。

教会デーの目的を一言で言うなら、キリストの教えの下、世界を良いものにしていこうする人たちが一同に集い、その思いを確認し合うことだ。野外の礼拝、講演会、多種多様なコンサート、セミナー、聖書の勉強会、シンポジウム、ピクニックなど、幾つもの会場で、朝から晩まで盛りだくさんのイベントが組まれており、お金さえ払えば誰でも参加できる。

5日間のどのイベントにも参加できるチケット(大人112ユーロ・約1万4000円)が、前売りで10万枚売れたという。今年のテーマカラーはオレンジだったので、参加者は皆、お揃いのオレンジのスカーフをつけていた。

教会デーの特徴は、全員が高揚し、幸せそうなことだ。皆が善良な思いを胸に抱き、平和を願っている。

昔の教会とは違って、達成すべき大きな目標として「民主主義の実現」というのが加わったが、何千もの人々がともに祈り、歌っている様子を見ていると、人間というのは皆で同じ所作をすると次第に陶酔し、熱狂して行く習性があるのだと感じる。

また、自分たちが良いことをしていると信じたとき、一番幸せになるのはその本人であることもわかる。おそらくこの心理は、民主主義ともキリスト教とも直接の関係はなく、どこの世界のどの時代でも、同じなのだろう。

その幸せな人々の集いに、トップクラスの政治家たちがオレンジのスカーフを手ぬぐいのように首にかけて参加し、それぞれ講演や対談をした。これを見ていると、ドイツで政教分離は機能していないし、機能させるつもりもなさそうだ

それどころか、ここでの講演やセミナーのテーマは、経済成長の終焉、食料と農業、難民・移民、老後の生き方からフェミニズムと、教会がどっぷりと政治に踏み込んでいることがわかる。

ゲストの一番の目玉はオバマ前大統領。25日に、ベルリンのブランデンブルク門の前に作られた舞台で、メルケル首相と対談した。

ドイツでのオバマ人気はいまだに爆発的だ。2008年、まだ彼がただの大統領候補だったとき、ベルリンの野外スピーチで10万人を熱狂させたことはすでに伝説だが、アメリカで人気が落ち込んでいる今でさえ、ドイツでは破格の人気。「オバマとドイツ人、ラブストーリーは続く」と『ディ・ツァイト』紙は書いた。

そのオバマ氏、翌26日はバーデン・バーデンで、今年のドイツ・メディア賞を受賞。この賞は、メディアと旅行業界を仕切る経済人が授与しているもので、ちなみに昨年の受賞者は、前国連事務総長の潘基文氏。授賞式は毎年、600人もの政界、産業界、文化人、スポーツ界の大物を招いて華々しく行われる。オバマ氏は受賞スピーチで、ナショナリズムの台頭に警鐘を鳴らした。

ドイツの完全なる方向転換

さて、ちょうどその頃、前日はベルリンでオバマ氏とともに上機嫌だったメルケル首相は、シチリアのタオルミーナにいた。トランプ氏との対決と言われていたG7サミットの会場である。

サミットは2日にわたって行われたが、ドイツの報道はいつものことながら、トランプ大統領の悪口ばかり。結局、終了後、サミットは大失敗と評価が決まり、失敗の原因はすべてトランプ氏に押し付けられた。サミット後のメルケル首相のコメントも、「非常に不満の残る話し合いだった」と容赦ない。

問題としてあげられたのが、ドイツの輸出超過や温暖化防止対策における意見の不一致。とはいえ、アメリカが他国と強調しないのは、何も今に始まったことではない。

1980年代、アメリカに日本車が溢れたときは、アメリカは凄まじいジャパンバッシングに熱中したし、1997年の温暖化防止に関する京都議定書は批准せず、挙げ句の果て、離脱。それどころか、2009年のコペンハーゲンの気候変動防止の条約案には、オバマ大統領は署名さえしなかった。

ちなみに、現在、問題になっているパリ協定も、目標は立派だが、中身はかなり空疎。アメリカが署名しようが、しまいが、それほど効果に影響はないだろう。ドイツだって、目標の数値はどのみち守れそうにない。しかし、メルケル氏はもちろん、そんなことはおくびにも出さない。

ドイツに戻ってすぐ、彼女は、「他国をすっかり信用できた時代は、ある部分では終わった。(略)ヨーロッパ人の運命は、ヨーロッパ人として、我々自身の手で勝ち取っていかなければならない」というセリフを、いつになく苦々しい表情で、吐き捨てるように言った。今までなるべく目立たないように振舞ってきたドイツの完全なる方向転換か?

もう一つ、ドイツのG7報道で気になったのは、安倍首相の話題が一切なかったこと。日本のニュースは、初日の昼食会で安倍氏がリードスピーカーだったとか、G7の結束を訴えたなどと報じたが、ドイツで見ている限り、安倍首相の姿は集合写真で認められただけ。やはり同じ境遇だったのがイギリスのメイ首相で、こちらも存在感ゼロ。

ドイツメディアは、イギリスや日本がもう重要ではないと言いたいのか、あるいは、安倍首相もメイ首相も、トランプ陣営とみなされて故意に無視されているのか、そこらへんのところはわからない。

今回のサミットの前、安倍首相は、トランプ大統領とEUの橋渡し役を自認していたが、ヨーロッパの首脳たちはわざとトランプ大統領との不仲を演出した。橋渡し役など、最初から誰も必要としていなかったのだろう。羽田に降り立った安倍首相、および昭恵夫人の表情がいつになく硬かったのが気になった。

中国、ロシア、インドを巻き込んで

いずれにしても明らかになったのは、EUが今、強烈な反トランプ作戦を打ち出したこと。作戦の最終目的はおそらく、中国と結んで英米に対抗する新たな覇権を構築することだ。先頭に立っているのは、もちろんドイツ。

EUはその覇権下にロシアとインドも引き入れるつもりなのか、30日、マクロン仏大統領はプーチン大統領をベルサイユ宮殿に招いて「率直な意見交換」をし、メルケル首相はモディ首相をベルリンに招き、これから毎年、インドに10億ユーロの援助をすることを決めた。両方ともわざとらしいほどの友好ムード。さらに翌31日は、李克強総理がベルリンを訪れた。

どの首脳も海千山千。トランプ大統領にかけられた網が、どんどん縮まっていく。

G7サミットの険悪な雰囲気や列強のヘゲモニー争いとは無関係に、29日、ヴィッテンブルクでは素晴らしい夏日の下、教会デー最後の野外礼拝で、満面の笑みを湛え、高揚した人々が世界平和を祈っていた。ドイツの二つの異なった風景。

それにしてもメルケル氏は、EUをどこへ引っ張っていこうとしているのだろう?

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