ウイグル、チベット、内モンゴル……。中国政府による人権弾圧は見て見ぬフリでビジネスを展開するのに、ジャニー喜多川氏の人権侵害は「許すまじ」とあおりにあおる。言動に一貫性がない男がいる。そう、パワハラ癖でも知られる「サントリー」の新浪剛史社長(64)だ。

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 サントリーHDの新浪社長は中国との関係について、「話せば分かる」と考えている。

 三菱商事を経て、ローソン、サントリーの社長に就任し、「スーパーサラリーマン」の階段を駆け上がってきた新浪氏。三菱商事で砂糖の原料を扱う部署に所属していた時、中国とのビジネスの「成功体験」とも言うべき出来事があった、と「AERA」2012年4月2日号の記事で自ら明かしている。

新浪剛史氏

 それによると、中国で統制品目だった砂糖の各国との取引をまとめる国営公司の女性責任者になかなかアポイントメントが取れない。そこで若き新浪氏は一計を案じ、その女性責任者宛に、私見を交えた「為替レポート」を送り続けた。すると彼女がそれを面白がり、最終的には中国との砂糖取引が成立。「ビジネスに国境はない」と実感したのだとか。

「中国ベッタリ」の発言の数々

 以降、新浪氏は「中国ベッタリ」の発言を繰り返している。例えばローソン社長時代の12年9月、日本政府が尖閣諸島を国有化したことで日中関係が悪化した際には、

〈やる必要のないけんかをしているのではないか。経済界としてはたいへん迷惑だ。(中略)尖閣諸島は日本の領土だが、イシュー(争点)はある。実効支配している中で、中国を刺激する必要があったのか〉(「週刊東洋経済」12年11月10日号)

 尖閣諸島についてのイシュー、すなわち領有権の問題がそもそも存在しないことは言うまでもない。

 サントリー社長就任後も、

〈これからの経営者は、ある程度のリスクを取ってでも中国とビジネスの関係を築いていく必要があるのではないか〉(「週刊東洋経済」21年7月24日号)

 さらに今年8月、原発処理水放出を巡って中国の反発が広がっていることについて問われると、

〈政治的な対話が非常に重要だ〉

 経済同友会代表幹事としてそう述べた。また、メディアのインタビューでは相も変わらず、中国市場の重要性を訴えるのだった。

中国による人権弾圧には頬かむり

「自社の利益のみを求めて中国に販路を伸ばす企業は、いずれその行動が自らの首を絞める、ということを理解しなければいけないと思います」

 そう語るのは、日本ウイグル協会会長のレテプ・アフメット氏である。

「欧米や台湾の計11議会が、中国政府のウイグル人への反人権的行為を『ジェノサイド』であると認定しています。中国政府は公には人権上問題ない、としていますが、実際にはウイグルを実質的な植民地として、ウイグル人に強制労働をさせている。中国とのビジネスを拡大しようとする企業は、『ビジネスさえうまくいけば、相手が犯罪者でも構わない』という態度と捉えられても仕方ないのです」

 新浪氏は、企業がジャニーズ事務所のタレントを広告に起用することについて、「チャイルドアビューズ(子供への虐待)を企業として認めることになる」と指摘している。にもかかわらず、中国によるウイグルでの人権弾圧には頬かむり。これを二枚舌と言わずに何と言うのか。

 目下、中国ではサントリーのウーロン茶が販売好調だという。新浪氏は、生産増強を自前でやるか現地企業に委託するかについて、

〈見極めの期間が必要になったかなと思っている〉(9月1日付ロイター通信ニュース)

 と、語っている。

犯罪行為を助長

「もしサントリーが現地に工場を建てるというのであれば、工場勤務者や原料生産業者にウイグル人の強制労働者が交じったとしても何らおかしくありません。飲料などの生産に強制労働者を交じらせず、完全にコントロール下に置くのはとても困難なことだと思います」(前出レテプ氏)

 ウイグル人の強制労働者は17年以降に大幅に増加し、現在は300万人を超えるともいわれている。

「1週間で1万5千人が強制収容所に送られたという話もありますが、こうしたデータはたまたま当局資料が流出して分かっただけで、氷山の一角に過ぎません。ナチスのホロコーストもそうでしたが、実際にジェノサイドが行われている最中にはメディアのコントロールが利いており、具体的な数字や惨状のうち、表に出てくるのはごく一部なのです」(同)

 しかし、長い年月を経れば全体像が見えてくる。

「中国でのビジネスを拡大すればするほど、それはある意味で中国の人権弾圧、犯罪行為を助長することになり得ます。目先の利益にとらわれてこのまま企業が中国での事業を推し進めれば、いつか“あの時やめておけば”と後悔する時が来ると思います」(同)

 中国が人権弾圧を行っているのは、ウイグルに対してだけではない。

「チベットでは各戸に番号が振られて、人の出入りが当局に掌握されています。新しい人が来たら、その人の素性を報告するだけではなく、反中国的な政治活動をしている場合は密告するよう、政府から推奨されています」

文化的ジェノサイド

 拓殖大学客員教授でチベット出身のペマ・ギャルポ氏はそう語る。

「また、今ではダライ・ラマの写真を持っているだけで逮捕。5人以上が集まったらそれは集会と当局にみなされ、これまた摘発の対象となるのです」(同)

 静岡大学教授で内モンゴル出身の楊海英氏も言う。

「内モンゴルでの中国の人権侵害は巧妙化しつつあります。1960年代~70年代、内モンゴルでは特に男性が殺りくされ、一時期はどこの家も父親がいないという有様でした。殺りくの対象となる男性エリート層がいなくなると、今度は残った内モンゴル人をどうするかという話になる。それが今、内モンゴルで急速に行われている中国への同化政策につながってくるのです」

 それは「文化的ジェノサイド」と呼ぶべき所業で、

「今や内モンゴル地区の漢民族比率は7割超。かつて学校でモンゴル語を教えていた教師はあからさまな冷遇を受け、中には行方不明になった人もいます。サントリーなど、今の中国でビジネスをしている企業は表向き、“人権を大切にします”と言いながら、ウイグルやチベット、内モンゴルの人権侵害には目をつむる。これはダブルスタンダード以外の何物でもありません」

 改めて言う。新浪氏に「人権」を語る資格はない。

「週刊新潮」2023年10月19日号 掲載