【正論】原発の新設で中国に対抗せよ 福井県立大学教授・島田洋一

【正論】原発の新設で中国に対抗せよ | 島田洋一ブログ (Shimada Yoichi blog)

2021/6/25

国会で珍しく、自民党議員同士の激しいやり取りがあった。5月27日の参院環境委員会のことである。滝波宏文氏(福井選挙区)が小泉進次郎環境相に対し、「原子力を脱炭素電源として利用するか」と基本認識を質(ただ)した。小泉氏は「最優先は再エネです」とたった一言、木で鼻をくくったような答弁で応じた。

空虚な「脱炭素ファースト」

その前に滝波氏が、「原発を使わなくて済むならその方がいい。ただし移行期というのも必要」という小泉氏のネット番組での発言を読み上げ、「大臣もエネルギーや原子力への理解が多少進んだようだ」と揶揄(やゆ)したことへの反発もあったのだろう。それにしても、国民注視の場であることを忘れた子供っぽい無責任な答弁だった。

本人もまずいと思ったのか、滝波氏の別の質問で、自分は原発を「どのように残せるかではなく、どのようにしたらなくせるかという立場だ。自分たちの推進したい方向に発言を曲解するのはやめてもらいたい」と「補足説明」を行った。しかし「曲解するな」と凄(すご)んだ割に中身は空虚である。小泉氏の答弁を通じて明らかなのは「原子力を脱炭素電源として利用するか」という肝心の論点から逃げたいという姿勢だけだった。

筆者は脱炭素に関して、日本も米共和党的な立場を取るべきだと思っている。すなわち、(1)テクノロジー開発を通じたエネルギーの効率利用を進める(その結果、米国のCO2排出量は年々減っている)(2)国内企業の競争力を弱め家計の負担を増すような無理なCO2規制は行わない(3)省エネテクノロジーの普及を図ることこそ先進国型の国際貢献と捉える(4)安全保障の観点からエネルギー自立を進める。

これらの原則を外れ、内向きの「脱炭素ファースト」に走ると、国力を弱めると同時に中国共産党政権を利することになる。環境規制の緩い中国の企業が国際競争に勝ち、活動量を増やせば、その分、有害物質の排出量も増える。太陽光パネルで最大シェアを誇る中国が、製造過程でどれだけ環境に負荷を掛けているか。そこに目を向けないなら、環境原理主義者としても失格だろう。

二重に安全保障の基盤崩す

輸出で得た外貨を用いて、中国は軍拡に邁進(まいしん)している。一方、環境原理主義に叩頭(こうとう)するバイデン政権は、非効率な「脱炭素化投資」に空前の財政支出を行う一方、軍事費は実質減となる予算案を出した。化石燃料を敵視することで、トランプ時代に大きく進んだ米国のエネルギー自立も損なわれつつある。二重に安全保障の基盤を掘り崩しているわけだ。

もっとも米国には、強力な牽制(けんせい)役として共和党が存在する。現在、下院はわずか8議席差で与党民主党が多数、上院は与野党同数だが、民主党でも、地元に化石燃料産業を持つ議員は急進的な脱炭素政策に同意しない。要のポジション、エネルギー委員長を務めるジョー・マンチン上院議員はその代表格である。バイデン政権がいかに「野心的な脱炭素目標」を掲げても、関連予算の相当部分は議会を通らない。

過去には漫画的な光景もあった。2019年に最左派がまとめた過激な「グリーン・ニューディール」決議案にカマラ・ハリス上院議員(当時)はじめ民主党議員の多くが賛意を表したが、共和党側が個々の議員の賛否を明らかにすべく投票に持ち込んだところ、民主党上院議員47人中43人が棄権した(共和党は全員反対)。

ハリス氏らは、「グリーン・ニューディール」という美しい響きの案に寄り添ったというイメージが欲しかっただけで、10年以内の火力発電所廃止、脱航空機といった無謀な案に賛成したという記録を残したくなかったのである。

日本は自滅の道たどるな

米国は、トランプ時代に石油と天然ガスの生産量で世界一となった事実が示すように、共和党政権に代わればもちろん、中国との対立が激化した場合など、いつでも脱炭素路線を「一時停止」して、エネルギー自立優先に立場を変えうる化石燃料大国である。

日本はそうはいかない。エネルギーの自立度を高めようと思えば、自前の技術で建設し運用できる原発を充実させる方向しかない。それは、国力を損なわずに脱炭素を進める道でもある。

国際情勢を冷徹に見据えずに「脱炭素バスに乗り遅れるな」と自虐的政策を取り、同時に脱原発に突き進むのは明らかに自滅の道である。炭素税に代表される懲罰的政策で一般家庭や企業を絞り上げ、無理やりCO2を減らしても、その程度は、桜島が一度噴火すれば一瞬にして水泡に帰す。愚かというほかない。

しかし冒頭の滝波氏のように原発の新設を公開の場で明確に主張する国会議員はごくわずかである。原発立地地域・福井の町議会、県議会、知事の方がはるかに「国のエネルギー政策推進に寄与する」と堂々と口にした上での政策決定を行っている。国会は一体何のためにあるのか。(しまだ よういち)

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