ルーズベルトの「ニューディール」をなぞるバイデンの経済再生計画

宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)5月1日(土曜日)
   通巻第6890号 <前日発行>


 ルーズベルトの「ニューディール」をなぞるバイデンの経済再生計
   増税を財源にする? さすれば、米企業はアメリカから出て行きますが?


 4月28日夜(日本時間4月29日)、バイデン大統領は上下両院議会で、就任後はじめての「施政方針演説」を行った。両院合同だから、議長席にはハリス副大統領と、ペロシ下院議長の女性二人が座った。議場はガラガラ、空城のようだった。

 演説の大半は内政問題に絞り込まれ、「格差是正」「富裕層からの増税」「中間層重視」などを柱とする「米国雇用計画」「米国家族計画」を説明した。
 バイアメリカンを基軸に雇用を創出する、企業と富裕層は公正な分担を、移民は米国経済に不可欠な存在である等と民主党左派の意見を多く取り入れた内容だった。

 そのうえでロシアと中国に触れた。外交は後回しの印象がある。しかし、中国への対抗心を露わにして「米国が世界を主導する。米国は動き始めている」とした。
 ロシアの選挙介入、サイバー攻撃を批判しつつも、バイデンはSTART交渉などでロシアとは、「話し合える相手」と認識している。イラン、北朝鮮の脅威に関しては付け足しの観が強い。

 脅威の焦点を中国とし、「中国が技術力で米国を急速に追い上げているが、次世代技術で優位に立たなければならない」「安全と秩序を維持するために、日本、印度、豪と『クアッド』を地域安定の平和目的で構築しているのだ」。それゆえ「専制主義国家が未来を勝ち取ることはない。米国が勝ち取るのだ」と結んだ。

皮肉なことに29日、中国は海南島の文昌基地から宇宙基地建設のための基幹施設をロケットで打ち上げに成功した。打ち上げ基地に近い海岸には数万の群衆があつまり、望遠レンズなどでロケット発射を観察した。五星紅旗を振る人もいた。

中国の宇宙基幹施設は「天和」と名付けられ、大型ロケットの「長征5号」で打ち上げられた。これから10回ほど打ち上げ、大がかりな宇宙ステーションとする。
宇宙飛行士が長期の滞在ができるスペースが2022年には確保される予定で2021年内に宇宙補給線「天船」と有人宇宙船「神舟」をドッキングさせる。

中国は米国、欧州、日本、露西亜の加わった國際宇宙ステーション(ISS)には加盟せず、独自の宇宙ステーションを構築するわけで、戦場が宇宙にも移行しており、米国は対抗してトランプ時代に「宇宙軍」を創設した。
中国は既にキラー衛星を保有し、宇宙中継の通信網を破壊する能力をもつとされ、宇宙開発や火星探検の表向きの宇宙競争ではなく、中国が狙うのは宇宙戦争での主導権である。


 ▲まるで社会主義アメリカをめざすが如く

 バイデン大統領の演説に対して反応は二つにわかれた。
ニューディールの再来を真摯に受け止める反応は、あまりなかった。バイデンは大統領執務室に大きなFDRの肖像画を掲げなおした。トランプのときは倉庫にしまわれていたアンドリュー・ジャクソン第七代大統領の肖像画を掲げたから、対照的である。

 FDRは社会主義者に近く、喧伝されたニューディールが殆ど経済再生の効果をもたらさなかった真実の歴史は、現代の経済史家らの研究であきらかになっている。妖しげな社会主義団体などの巨額が流れたのだ。

 同じ轍に嵌ろうとしているのがバイデンの経済再生計画である。
就中、「雇用計画」では、高速道路、橋梁などの改修、新築工事や老朽化した空港、駅舎など公共事業への予算配分は少なく、むしろ労組救済、少数コミュニテイィ支援、グリーンエネルギーの開発支援と、驚くほど左翼経済理論丸出しのである。

 財源を増税でまかなうとバイデンは富裕層と法人への課税強化を謳っているが、となれば企業の特性は労賃が安く、税金の優遇がある国や地域へ流れ出すのは明らかだろう。
煎じ詰めて言えば、この雇用計画では、中国へのシフトが起こる。

米国の技術的優位は、成立しにくくなるだろう。
いまでさえGAFAの多くが米国に税金を納めず、タックスヘブンへ本社登記をなして、課税から逃れている。

 「(トランプが分裂させた)アメリカを団結される」と理想が述べられたが、中味をみるとさらなる分裂を助長するような政策が並んでいる。やはりバイデンがアメリカをもっと激しく分裂させることになりそうである。

 FRBのパウエル議長は連邦公開市場委員会で「金融緩和」政策の維持を決めた。アメリカの第一四半期のGDPは6・4%成長だったと予想外の伸びを示したが、同時にインフレ懸念も高まった。

 金融政策の緩和によってカネが市場にあふれている。このためマーケットは株価高騰がつづき、ランクの低い社債が金融緩和の恩恵で乱発されており、住宅価格が上昇を続けている。失業率は高止まりのまま、治安は悪化しており、要するに期待と不安が市場では交錯している。
 バイデン演説を聞いて失望した人のほうが多かったのではないのか

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