カイロ大「小池氏は卒業生」声明の正しい読み解き方

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小池百合子氏とカイロ大学の関係 エジプト権力者の後ろ盾も? - ライブドアニュース

  • 小池百合子都知事とカイロ大学の関係についてJBpressが取り上げている
  • 小池氏は2年生への編入という形で、同大学に入学したとカイロ大学OB
  • しかし入学の背景にはエジプトにおける権力者の後ろ盾があったという

 小池百合子都知事の“カイロ大卒”という学歴について、詐称疑惑が都知事選を前に話題になっている。JBpressも疑惑を追及する記事をこれまで掲載してきた。そんな中、駐日エジプト大使館が6月9日、フェイスブックを通じて、小池知事が「卒業したことを証明する」とするカイロ大学の声明を発表した。だが、カイロ大学OB(1995年中退)のジャーナリスト、浅川芳裕氏は、日本の常識でその声明を真に受けてはいけないと釘をさす。カイロ大学とは一体どんな大学なのか? 今回の声明の裏側に透けて見える小池氏のエジプト人脈の危険性とは。浅川氏に語ってもらった。(JBpress)

 

カイロ大の権力を掌握しているのは?

──今回のカイロ大学の「小池百合子氏がカイロ大学を卒業したことを証明する」という声明を浅川さんはどうとらえていますか。声明は信用に値するものでしょうか。

浅川芳裕氏(以下、浅川) 学歴なんだから、今回のカイロ大学の声明で詐称の真偽は一発で片が付いたのではないか・・・日本人の常識からすれば、そう感じている人も多いでしょう。しかし、カイロ大学はそんなヤワでマトモな大学ではないのです。

──一体、どんな大学なのですか。

浅川 カイロ大学の権力を完全に掌握しているのは軍閥独裁国家エジプトの軍部であり、泣く子も黙る情報部です。大学といえば“学びの園”“学問の自由”といった平和な生ぬるいイメージから理解しようとすると、本質を見誤ります。

 大学の強権管理に対して、硬派な学生たちも黙っていません。異議申し立てや抗議活動を展開する中、2010年以降に限っても、100人以上が逮捕され、10人近くが亡くなっています。殺害した大学側の治安部隊は学生の死について、「超法規的な死」と定義し、逮捕者を「軍事法廷」で裁くことも稀ではありません。

カイロ大学キャンパス前に縦列する治安部隊(浅川氏提供)

 

 今回のカイロ大学の声明からも、その強権性はうかがえます。「日本のジャーナリスト」が小池氏の卒業について信頼性に疑問を呈したことについて、「看過できない」と批判し、「エジプトの法令にのっとり対応策を講じる」と警告していますが、ただの脅迫です。なんの根拠、反論も示さず、取材・報道の行為自体を封じ、罰しようとしている。実際、多くのジャーナリストがエジプトで取材をしたというだけで、軍事監獄で拘束されています。その数は、中国、トルコに続きワースト3位です(ICP:ジャーナリスト保護委員会2019調べ)。

『』(浅川芳裕著、ベスト新書)

 

 私もカイロ大学学生時代、何度も留置所や独房にぶち込まれ、拷問を受けたり、消されそうになったりしました。これは「強制失踪」という取り締まり方法で、逮捕も起訴もされず、裁判も受けられず、留置所をたらい回しにされながら、「行方不明」という形でこの世を去っていくわけです。

 私は幸い、脱出に成功しましたが・・・そんな個人の痛烈な体験から、カイロ大学の歴史や権力構造の闇について興味をもち、独自調査をしてきました。

 その結果をまとめた拙著『カイロ大学?闘争と平和″の混沌』(ベスト新書)で詳しく書きましたが、1908年の建学時、カイロ大学は中東・アフリカ圏初のリベラルな近代大学として誕生しました。しかし、1952年に大転換が起こります。自由将校団による軍事クーデターが起きたのです。世界史の教科書にも載っている「ナセル革命」です。

 ナセルは革命後、カイロ大学の知識人やエリート学生を支配下に置くため、キャンパスに革命親衛隊を送り込みます。それに対し、自由な大学を堅持しようとリベラル派とムスリム同胞団の教授・学生たちが団結しデモ活動で対抗しましたが、軍隊との力の差は歴然です。1954年、カイロ大学は軍部に制圧され、革命評議会下に置かれます(エジプト現代史では「カイロ大粛清事件」と呼ばれる)。それ以来、軍部支配というカイロ大学の伝統はいまも続いているわけです。

カイロ大学OBの浅川芳裕氏

 

小池氏の父親から投げつけられた言葉

──そのカイロ大学の歴史と小池知事の学歴がどう結びつくのですか。

浅川 じつは、ナセル革命の中心人物の1人であるムハンマド・アブドゥルカーデル・ハーテム氏(1918~2015年)が、小池氏のカイロ大学時代の後ろ盾なのです。

 ハーテムとは何者なのか。カイロ大学を粛清した革命評議会の情報・文化・メディア責任者であり、エジプト情報省を創設し、長年、独裁メディア(テレビ・ラジオ・新聞)をすべて掌握した人物です。イスラエルとの中東戦争において、偽情報戦で名を馳せたことから、ハーテム氏のことを「アラブ世界のプロパガンダの父」と呼ぶ歴史家もいます。メディア支配術を通じて、ナセル亡き後も、続くサダト、ムバラクと3代の独裁者の側近として仕えてきました。

 小池氏のメディアコントロールの巧みさはプロパガンダの父譲りなのかもしれません。

──学歴詐称疑惑の引き金となった石井妙子氏による「小池百合子『虚飾の履歴書』」(『文藝春秋』2018年7月号)でも、ハーテム氏が登場しますね。同居女性が「小池氏が入学したのは1973年10月で、2年生への編入だった。小池氏は『父がハーテム氏に関西学院の数カ月間とカイロ・アメリカン大学の数カ月間を足して1年間とみなしてくれと頼んで認められ、授業料も入学金も無料になった』と喜んでいた」と証言しています。

浅川 実際、権力者の後ろ盾がなければ、2年への編入はありえません。私の経験からもわかります。私自身、私立カイロ・アメリカン大学に正規入学し、1年の単位を正規に取得していましたが、国立カイロ大学には1年から入り直しています。エジプトでは私立と国立の間に単位交換の制度はないからです。私と同じようにカイロ・アメリカン大学をやめてカイロ大学に移ったエジプト人の知り合いたちも、みな同じです。大学を管轄する「高等教育省」の法令上、例外はありません。

 小池氏のケースについて、権力者のコネによる「正規入学」とみなすのか、それとも制度の公平性から「不正入学」とみなすのかは、ある種の価値観の違いでしょう。しかし、カイロ大学を掌握する権力者に頼み込み、入学した行為が尋常ではないのはたしかです。カイロ大学の声明でわざわざ「正規の手続き」と強調している点、また大学の公式サイトではなく、大使館という外交ルートを通じて声明を発表している点も尋常ではありません。軍閥国家エジプトの意思の表れです。

「小池氏の父がハーテム氏に頼んだ」という石井妙子氏の取材結果も、私の実体験と符合します。小池氏の父・勇二郎氏とのやりとりからです。

 カイロ大学時代、小池家が営むカイロ都心の和食屋に食事にいったときのことです。知り合いから勇二郎氏に「浅川君は百合子さんの後輩、カイロ大に正規入学した学生だ」と紹介されると、「ありえない。でも君と百合子とは全く違うんだ。分をわきまえろよ」という言葉を突如投げつけられたことをよく覚えています。

 そのときは一体何を言い出すのかと面食らいましたが、その後、現地で小池氏とハーテム氏との関係、不正な入学や卒業の噂を耳にし、小池家の和食屋に行くたびに勇二郎氏から執拗な説教をされ、悟りました。

この親父さんは娘をカイロ大学に入学、そして卒業させるために、権力者にすり寄って、相当苦労されたのだな。そこに、どこの馬の骨ともわからない日本の田舎から出てきた僕がコネなしで正規入学したことを知って、娘の存在価値が下がったかのように感じ、逆切れしているんだな」

・・・と当時、冷静になって勇二郎氏の深層心理を分析しつつも、「どれだけ百合子が苦労して勉学に励んだかお前はわかるのか、それに比べてお前は・・・」と不条理な説教を受けるたびに、自分に向けられた負の感情に寒気を覚えたものです。娘への深すぎる愛情のなせるわざなのか、わかりませんが、自分の後ろめたさの裏返しの異様な感情を私にぶつけていたのはわかりました。

ハーテム氏が小池氏の後ろ盾、エジプト政府が公認

──それは業の深い話ですね。しかし、ハーテム氏の後ろ盾による不正入学・卒業説は、石井氏が取材した小池氏の同居人女性の証言にもとづくだけで、決定的な証拠とは言えないのではないでしょうか。

浅川 そうともいえません。ハーテム氏自身による裏付け発言がいくつもあります。1つ目は「東京初の女性知事、カイロ大学の卒業生・・・」と題する3日付)です。「ハーテム情報大臣の支援を受け、彼女は社会学科を卒業。彼は小池を自政府系新聞アハラーム紙の記事(2016年8月分の子供のようにみなしていた」(抜粋)とあり、ハーテム・小池後ろ盾説をエジプト政府(系新聞)が公認した内容です。

 ハーテム氏はこの記事ソースであるアハラーム新聞社の取締役会会長として、長年、君臨してきた人物です。同社の記者がわざわざ会長の実名を出して、荒唐無稽な内容を書くことは考えられない。むしろ、ハーテム氏が書かせたとみることもできます。記者はまた、カイロと東京で数回、小池氏と面談したことを同記事で明かしており、彼女への取材に基づく内容だともほのめかしているにもかかわらず、小池氏のコメントを掲載していない。

 この不可解な記事を深読みすれば、都知事にまで出世した小池氏に対し、彼女を育てたハーテム氏、つまりはエジプト軍閥国家への恩を忘れるなよ(さもなければ真相をばらすぞ)、という脅迫じみたメッセージと解釈することも可能です。エジプトの政府系メディアはプロパガンダの塊ですから、この記事は、報道の事実より、そこから垣間みえる権力者側の意図を読み取るソースとして真価を発揮します。

──そうはいっても、そこまでの恩を売ろうとするものですか。

浅川 国家が外国人を自国民より特別待遇する背景には、当然、明確な意図があります。

 カイロ大学では1954年の粛清後、小池氏が留学する70年代まで、特殊な外人留学枠が存在しました。1つはアラブ諸国で反政府活動をする若者を亡命させ、ナセルの「アラブの大義」で洗脳し、国に戻ったとき工作員にする枠。イラク元大統領サダム・フセインもその1人でした。

 もう1つは、表向きは文化的ですが、同様にエジプトの国策に都合のいい将来のエージェント育成のため、非アラブ特定国の若者を優遇する枠です。ハーテム氏は情報相のトップとして、アジアやヨーロッパ諸国の若者の受け入れを推進すると同時に、それらの国々の議員と友好協会を立ち上げていきます。

 その延長として、アハラーム紙記事(2004年6月21日付)では、ハーテムの日本関連の功績を2つ列挙しています。エジプト日本友好協会創設者・会長として、数百億円にのぼる巨額の援助を日本政府から引き出したこと、その文脈に続けて、彼が小池氏を“子飼い”にしたことです。また、同じ記事で、小池氏はハーテム氏に対して「日本の内閣でイスラムの寛容さについて説いていますよ」と電話で話してくれた、との逸話を紹介しています。

 つまり、小池氏はハーテム氏の目論見通り、エジプトを代弁する子飼い(エージェント)として立派に育ったというわけです。その記録をハーテム氏は歴史の証拠として、政府系新聞にちゃんと残している。

 これらのエジプト政府系新聞の記事から言えるのは、ハーテム氏がカイロ大入学時から卒業(どんな形の入学や卒業であれ)まで小池氏の面倒をみたこと、そして、その後も両者の関係は何十年も続いていたことです。少なくとも、それが国家の公式声明なのです。

エジプト軍閥が切った外交カード

──だんだんきな臭い話になってきました。小池氏の学歴(詐称)の深層はどう読み解けばいいのでしょうか。

浅川 現在、軍事独裁政権トップであるシシ大統領がカイロ大学長ならびに各学部長の任命権を持っています。ハーテム氏からみれば、このシシ大統領は、ハーテム氏の軍部時代の弟分タンターウィー(元国軍総司令官、2011年の革命後の国家元首代行)の部下、つまり孫弟子にあたる人物です。

 都知事就任時に真っ先に祝電を出したナサール元学長にしても、大統領からの任命(無選挙)で知事になっています。学長(学者)は権力のトップには就けないが、大学の自治や民主化運動弾圧などでうまく立ち回れば、知事や軍閥企業社長などに天下りできるのです。

 カイロ大学を代表して日本のメディア対応をする日本語学科の学科長も、軍部の息のかかった学長の任命です。つまり、これまで日本のメディアからの取材に対し、小池氏を卒業生として認めたり、都知事就任を祝福した学長、文学学部長、学科長らは同じ穴のムジナなのです。

 小池氏の学歴偽証については長年、疑惑が出てきては、日本からのメディアの取材に対して、カイロ大学が卒業を認めることを繰り返しては収束してきました。その背後には、こうした小池知事のハーテム人脈を頂点するエジプトの軍部・情報部と大学の権力階層構造があるわけです。

 そして今回ついに、エジプト軍閥が都知事選を前に外交カードを切ってきた。長年、“子飼い”にしてきた小池都知事の“卒業証明”について、大使館を通じ声明を発表したというわけです。見かけ上はカイロ大学長の文書ですが、彼は独裁者シシを筆頭にする軍閥のお飾り御用学者にすぎません。声明が大使館という国家間外交ルートから出されたことも、その傍証です。

 この世には、冒頭で述べた“超法規的な”殺害があるように、“超法規的な”卒業というものが存在するのです。

 学歴詐称の疑惑の先にある、真の問題は、今回の声明への見返りが何かということです。

 小池氏はこれまでハーテム人脈の権力構造により、特別待遇を受けてきた。その恩に加え、小池氏は、学歴詐称疑惑の渦中で迎える都知事選の直前、エジプトの軍閥から助け舟を出された格好です。

 エジプト上層部・カイロ大学側にしても、何のメリットもなければ、いくらハーテム人脈といっても長年、わざわざ小池氏を擁護する理由はありません。これは、日本の国益にとって、より本質的な問題といえます。

 この問題は、学歴詐称よりさらに深刻なことは明白です。

 エジプトの軍部・情報部に借りがあり、弱みを握られた日本人が現職の東京都知事、そして「日本初の女性首相」候補だったとしたら・・・

浅川 芳裕氏(@yoshiasakawa)
 1974年、山口県生まれ。ジャーナリスト。エジプトの私立カイロ・アメリカン大学(1992年~93年)、国立カイロ大学文学部セム語専科(1993~95年)で学ぶ。アラブ諸国との版権ビジネス、ソニー中東市場専門官(ドバイ、モロッコなど)、『農業経営者』副編集長などを経て『農業ビジネス』編集長。著書は『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)、『カイロ大学』(ベスト新書)ほか多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち―アメリカを乗っ取る新支配階級―』(新潮社)。中東・イスラム関連記事では『「イスラム国」指導者の歴史観』『なぜ増える? イスラム教への改宗』(いずれも『文藝春秋スペシャル』)などがある。

筆者:鶴岡 弘之

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