熊本・球磨川水害に専門家提言「ダムではなく流す対策を」

計画通りにダムを建設していれば氾濫しなかったのではという発言は事実か

そうではないと

 

熊本・球磨川水害に専門家提言「ダムではなく流す対策を」|日刊ゲンダイDIGITAL

 台風シーズン前に発生した線状降水帯は九州を襲い、熊本県では球磨川の氾濫により死者を伴う大きな被害をもたらした。一方で、球磨川に流れ込む支流・川辺川に計画通りにダムを建設していれば氾濫しなかったのではという発言も見られる。今回の水害はダム建設によって防げる余地はあったのか。八ッ場ダム(群馬県)住民訴訟やスーパー堤防問題など河川行政問題に取り組んできた西島和弁護士に聞いた。

「九州をはじめ、各地で深刻な水害が起こっていることに心が痛みます。『どうにか防ぐことはできなかったのか』と考えることは当然で、大切なことです。しかし、水害直後に専門家から「川辺川ダムを中止しなければ氾濫を防げた」という話がでてきたのには、おどろきました。はっきり言えるのは、どこでどの程度の雨が降り、洪水が発生したのか、まだ十分にわからない時点で、『ダムがあれば防げた』という話はできない、ということです。
 
 水害対策は、おおまかに、(水を)流す対策と(ダムなどで)貯める対策の2種類にわけられます。
一般的には、川の上流にダムをつくるより、河道掘削などの流す対策(河道整備)の方がコストパフォーマンスがいい。ダムは雨の降る場所や雨の降り方によって役に立ったり立たなかったりするのに対し、河道整備は、雨の降る場所や降り方にかかわらず着実に安全度を上げることができるからです。川辺川ダム計画があった当時、地元では流す対策をきっちりやってほしいと求めていました。とくに今回深刻な被害が出た人吉市のあたりでは川に土砂が溜まっているので、これをどけて、川底を掘削して、よりたくさん水が流れるようにと要望していました。しかし、球磨川の管理をしている国は、理由にならない理由をつけて、土砂の除去や川底の掘削をやろうとしなかったときいています。
 まさかとは思いますが、国交省が川辺川ダムをつくりたいがために土砂の除去をせずに危険な状況を放置していたとすればそれは大問題でしょう。今後検証されなければなりません」
 
 ――今回、国交省は利水ダムの事前放流ができませんでした。

「昨年の東日本台風で、水害対策を目的としない利水ダムによる緊急放流が、水害の危険を高めたと問題になりました。この問題について国は、大雨が降りそうなときは事前放流をして、ダムの水位をさげてもらえるように「協定」を結びました、だから安心です、とPRしました。ところが、今回は、雨量が急激に大きくなることを予測できなかったので、『協定』にもかかわらず事前放流がされなかったということのようです。もともと、雨量の予測を、『ダムの上流』という狭い範囲で正確にできるのか、疑問の声があがっていましたが、まさに、その限界が露呈してしまったかたちです」

 ――降雨の想定場所や規模や降り方、放流のタイミングなどが合わないと対策が効果的ではないといわれていますね。
「そうですね。ダムが役立つのは、さまざまな偶然が重なった場合に限られます。ダムに水が貯まっても、放流のタイミングを間違えれば、被害を拡大することになりかねません。また、ダムは、管理にも手間がかかります。球磨川水系の瀬戸石ダム(利水ダム)のように、ダムの上流に土砂が溜まってしまって、ダム上流の水害を拡大させていると指摘されているダムもあります」
 

流す対策のほうが効率的

 ――大雨が降るとダムの決壊を防ぐために、むしろ緊急放流もしなければならなくなりますしね。ところでなぜ当時の住民は川辺川ダムではなく河道整備を求めたのでしょうか。

「球磨川の上流から下流まで、さまざまな立場から川辺川ダムによらない水害対策を求める声があがっていました。ひとつには、本流の上流に市房ダムというものがあるのですが、そのダムの下流では球磨川が濁るようになり、水害がひどくなったという指摘もありました。ダムの放流による水の上がり方は雨によるものと違い、急激に水かさがあがり命の危険を感じるようになったとして、ダムに不信感をもつ人もいたと聞いています。
また、ダムの計画されていた川辺川は、おいしい鮎のとれる美しい川です。そのため地元の清流・川辺川を守りたいという地元の人たちの願いがあったということです。また、これは全国でも珍しいことですが、川辺川ダムをめぐっては、国土交通省と熊本県民が直接対話をする集会が重ねられました。そのなかで、国交省は、なぜ水害対策として新しいダムが必要なのか、住民を納得させる説明ができなかったということです。このことが、流域の人たちがダムによらない水害対策についての確信につながっていると思います」

――整備を進める予算は十分なのでしょうか。

「予算を十分につける必要がありますが、たくさんつければ解決するというものではありません。国の河川整備の予算は使い切れていません。よほど効率よく整備しないといけないということです。一般的には、流す対策にお金をかけるほうが効率的に水害を防止・軽減できるはずです。ダムによって水害が防止できるかどうかは、不確実だからです。球磨川でも、ダムにお金をかけるよりは、まさに地元が要望していたように川の土砂を取り除いたり、堤防が弱ければ強化するべき状況なのではないかと思います」
 ――その対策ができていれば防げたのでしょうか。

「今回は非常にたくさん雨が降ったので、それで氾濫が防げたかどうかはわかりませんが、流す対策によって確実に氾濫量が減ります。河道がこれ以上広げられないとか深く掘れないとか、堤防も高くできないとなれば、ダムが必要という話になるのでしょうが、日本の河川で流す対策が遅れているところは少なくありません。球磨川には目標年次のない長期計画がありますが、30年の中期計画がつくれていません。熊本県知事が川辺川ダムを中止すると表明してから、いまだに具体的な計画がつくれていないんです。ダムをつくるかどうかにかかわらず、水害を確実に小さくできる河道整備をすすめなければいけないということに変わりはないはず。かりにそれをやっていなかったとしたら問題ですし、地元の声をきちんと受け止めて、必要な対策をとってもらいたいと思います」


 気候変動の影響で、今年も日本中で河川氾濫のリスクが高まっている。早急に対策が必要だ。

(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ)
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