話題提供します 真偽の詮索はご自分でという 無責任サイト
(旧 これは 見とこ知っとこ メモ)
あとはおまかせ
対ロシア制裁でドイツのガス価格は「1000㎥あたり2000ユーロの新世界」へ
いつも わかりやすい解説です よみましょう
川口 マーン 惠美
対ロシア制裁でドイツのガス価格は「1000 あたり2000ユーロの新世界」へ 「ノルドストリーム2」は死んだのか? - ライブドアニュース
対ロシア制裁の苦悩
「ノルドストリーム2」という言葉を、オラフ・ショルツ独首相(社民党)は決して口にしなかった。
バイデン米大統領との会談でも、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談でも、あるいは、記者団の「もし、プーチン大統領がウクライナに侵攻したら、ノルドストリーム2はロシアに対する制裁の一部に入るのか」などという質問に対しても、「すべての選択肢は卓上にある」と言うのみ。
ノルドストリーム2とは、運転開始を待つばかりの、ロシアとドイツを直結する海底ガスパイプラインである。ロシアの国営企業ガスプロムを筆頭に、ドイツ、オーストリア、フランス、スイスなどの民間企業のコンソーシアムが進めている巨大プロジェクトだ。
社民党のダブル党首の1人であるラース・クリンクバイル氏がテレビのインタビューで、「ショルツ首相が言っている『すべての選択肢は卓上にある』とはどういう意味か」と問い詰められ、苦し紛れに、「テーブルの横でも下でもなく、上にあるということだ」と言って質問者を苦笑させた。
それほど、ノルドストリーム2は社民党にとってのタブーだった。そして、ウクライナ問題の拡大につれ、まるで喉元に刺さった骨のように社民党を苦しめた。なぜなら、ドイツは自国のエネルギー不足を、このパイプライン無しでは容易に解消することができないからだ。
この10年、原発を減らし、石炭火力を減らし、その代わりに再エネにさまざまな援助を与えてその設備容量を画期的に増やしてきたドイツだが、再エネの発電量は不安定を極めた。結局、頼りになるのはガス火力ということでガスに需要が集中した結果、ガスの需要と供給のバランスが崩れた。
ガスの逼迫はすでに世界的問題だが、ドイツでは特に顕著で、家庭のガス料金が今年から平均6割も上がっている。
その深刻なガス不足をようやく解消できるのが、ノルドストリーム2のはずだった。しかし、政治状況が変化した現在、運開が宙に浮いている。このままではドイツのガスはさらに逼迫し、値段が上がるだけでなく、最悪の場合、ブラックアウトの危険さえある。そんなことになったら、社民党政権は吹き飛ぶだろう。
つまり、対ロシア制裁といえども、社民党はそう簡単にノルドストリーム2を犠牲にするわけにはいかなかった。
輸入ガスの55%以上をロシアに依存
社民党の1番の苦悩は、このノルドストリーム2を、メルケル前政権の悪しき置き土産として片付けられないことだ。なぜなら、これは、メルケル政権で連立を組んでいた自分たちの虎の子プロジェクトでもあるからだ。
それどころか、パイプラインの到着地であるメクレンブルク=フォーポメルン州は社民党の牙城で、これまで州首相を始め、皆がパイプラインの建設に全力を注いできた。他に大した産業もないこの州にとっては、パイプラインまさに希望の星だった。
ちなみに、この壮大な独露共同プロジェクトの生みの親は、社民党のシュレーダー元首相である。当然、社民党とロシアの関係も悪くない。
ノルドストリーム2は、「2」というだけあって、当然「1」がある(正式には1本目のガスパイプラインの名称は「ノルドストリーム」のみ)。これこそがシュレーダー元首相のパイプラインで、2011年から稼働しており、年間550億㎥のガスをロシアからドイツに運ぶ。その横に建設されたのがノルドストリーム2で、本来なら2020年に完成し、海底パイプライン経由のガスの輸入量は倍増するはずだった。
ドイツのロシアのエネルギーに対する依存は大きい。ノルドストリーム以外でも、陸上パイプライン経由でロシアのガスは入っている。2020年、ドイツの輸入ガスにおけるロシアシェアは55%を超えた。ヨーロッパは40%で、これも多いが、ドイツは桁外れに多い。
そんなわけでドイツは今、慌ててその他の調達法を探しているというが、ノルウェーやオランダからは輸入を増やそうにもパイプラインが飽和状態だ。
一方、カタールや米国からのガスはLNG(液化天然ガス)なので、それを気体に戻すターミナルが必要だ。しかし、ドイツでは今、2基が建設中なだけで、まだ受け入れ態勢が整っていない。当面、LNGの輸入はオランダなど他国経由となる。
さらにドイツは原油と石炭の輸入も、それぞれ34%、45%がロシア産だから、これでどうやってロシアに制裁ができるのかがよくわからない。結局、よほど困ったら、石炭、褐炭を燃やすのだろう。ショルツ首相が口を噤んだのは当然のことだった。
己の正義に陶酔するドイツ人
ところが、2月21日、プーチン大統領がドンバス地方のドネツクとルガンスクを正式に独立国として承認した後、ショルツ首相はついに、ノルドストリーム2の認可手続きをストップすると宣言した。
ということは、代替ガス調達の目処がついたのか? それとも、あちこちからのプレッシャーが大きくなり過ぎたためか?
メディアはこのニュースを、ドイツ政府がようやく重い腰を上げ、正しい道に戻ったというように肯定的に扱った。国民は国民で、ロシアに対する自国の毅然とした態度に大いに満足しているようだった。しかし、ここで私は大いに戸惑う。ガス不足はどうなるのだろうかと。
後のことを考えずに、己の正義や理念に陶酔するのはドイツ人の特徴で、2011年、皆で脱原発を祝った時もそうだった。ただ、そのせいでドイツの電気代はEUで一番高くなり、おまけにロシアガスへの過度な依存を招いているのに、誰も反省していないどころか、今、また同じことを繰り返そうとしている。
本来なら、昨年の暮れに止めたばかりの原発の再稼働や、今、動いている最後の3基の原発の稼働延長あたりが、電気の安定供給からも、エネルギーの安全保障からも、CO2の削減からも、一番妥当だと思うが、それはテーマにならない。そこがドイツらしいといえば、ドイツらしい。
いずれにせよ、現実として、ドイツはやはり上を下への大騒ぎになった。翌22日には、経済・気候保護大臣であるロバート・ハーベック氏(緑の党)が、ノルドストリーム2の認可手続き停止については「以前から準備はしてあった」ので、「ガスの供給は安全だ」と保証しつつも、「ただ、一時的にガス価格は上がるだろう」ということを、苦渋の表情で発表した。
蛇足ながら、緑の党はつい最近まで、ガスはCO2を排出するし、ノルドストリーム2はロシアを潤すから潰すべきだと主張していたのだ。
一方、ロシアの元大統領ドミトリー・メドヴェージェフ氏が間髪をおかず、「1000㎥あたり2000ユーロを払うことになる新世界へようこそ!」と皮肉のツイートを放った。この日のガスの値段は1000㎥当たりすでに828ユーロだったが、今後、さらに2倍以上に高騰すると警告しているわけだ。
本当にそうなれば、ドイツ経済は破滅だ。そして、その時、拳を振り上げて政府を批判するのは、おそらく、今、政府に拍手を送っているのと同じ人たちだろう。
さらに23日、緑の党のベアボック外相は厳しい顔つきで言った。
「我々は、自由で民主的な主権国家ウクライナのために、国家として経済的な不利益を甘受する覚悟がある。それを示すことが、我々ドイツ政府にとっては非常に重要だ」
こういう悲壮で犠牲的な言葉に、ドイツ国民はいたく自己陶酔する。
認可手続停止という「トリック」
さて、では、すでにガスが充填され、ゴーサインを待っているだけの1250kmのパイプラインは、このまま葬り去られるのか?
『ディ・ヴェルト』紙は主要紙の中ではエネルギーに関しての情報が充実しているが、やはりこの件に関しても、ダニエル・ヴェッツェル氏の興味深い解説が出ている。
記事のタイトルは直訳が難しいが、「ノルドストリーム2の延命のため、ハーベックは巧妙なトリックを使う」という意味で、政府の発表したのが運開停止ではなく、認可の手続きを停止というところが「トリック」らしい。
それによれば、
●ノルドストリーム2はすでにEU全加盟国が承認済みだが、ドイツのネットワーク庁による最終「認可」だけがまだ終了していない
●ネットワーク庁が認可するためには、ノルドストリーム2が「ドイツ、およびEUの電気とガスの供給を危険に晒すことはない」という前提条件を満たしていなければならない(エネルギー経済法4条B)
●そして、ノルドストリーム2はその前提条件を満たしていることを、すでに昨年10月、旧政権の独経済・エネルギー省に公式に承認されている
つまり、最終的な「認可」に法的な障害はない。米国の妨害など政治的な事情で、ネットワーク庁が認可に二の足を踏んでいるだけだ。
そこで新政府が考え出したのは、昨年、旧政権が出したその承認を撤回し、再度、同じ審査を申請させるということだった。つまり、この過程でノルドストリームは少なくとも4ヵ月は延命でき、その結果、「ドイツ、およびEUの電気とガスの供給を危険に晒すことはない」ということが再度認められれば、運開に一歩近づけるわけだ。
この後は、今度はそれがEUの欧州委員会に回されるので、そこでの審査でまた時間が稼げる。もし、万が一ここで、ノルドストリーム2はドイツおよびEUの電気とガスの供給を危険に晒すということになれば、今度は管轄が裁判所に移る。
裁判でどちらに軍配が上がるかはわからないが、もし、ノルドストリーム2がドイツおよびEUの電気とガスの供給にとって危険だとなれば、なぜ、古い既存の陸上パイプラインは良いのかという議論に発展するだろうから、ノルドストリーム側にはチャンスがあるかもしれない。
いずれにせよ、ノルドストリーム2はまだ死んでいない。ドイツ政府は、将来はロシアのガスなど無くても、全てのエネルギーが賄えるようになると豪語しているが、あまり説得力はない。いったいいつの話か?
ただ、日本もエネルギーの他国依存ではドイツに引けを取らない。EUの誰もが付いていかなかったドイツの自滅エネルギー転換政策に、わざわざ付いていった日本は先見の明がなさすぎる。
すでに今、日本のエネルギー価格は急激に上がり始めている。なのに、原発は動かせないし、米国の要請で、日本が発注していたLNGをヨーロッパに回しているというが、大丈夫なのだろうか?
« 西郷輝彦 事... | ロシアのウク... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません |