また、野田氏の「新生児70万人時代への危機感」という主張は正鵠(せいこく)を射ている。終戦直後に年間270万人だった新生児が、いま70万人台にまで減ろうとしている。将来の国民なくして国防も福祉もないことは火を見るより明らかだが、この少子化への危機感が保守派に薄く、思い切った策も出されないことは反省に値する。
河野、野田両氏の違いの第2は、自身の親族に関する「疑惑」への説明姿勢、第3は対中姿勢だ。
野田氏は22日、自身のツイッターに「私が夫を信じる理由」と題した連続ツイートを投稿した。筆者はこれまで、野田氏の配偶者の過去には触れずに来たが、週刊新潮との裁判で「認定」されたことが事実だろうと漠然と思ってきた。
しかし、実際はそう単純な話ではなく、現在も係争中とのことだ。その結果がどうあれ、野田氏が、最も話し難い件を、SNSで直接説明しようと努める姿勢は誠実に映る。
対照的に、河野氏の親族企業に関する説明不足感は強くなる一方だ。
河野氏が株式を保有し、父の洋平氏が会長、実弟が社長を務める「日本端子」(神奈川県平塚市)に関する「疑惑」がネット上を騒がせ始めたのは先週後半のことだ。
21日の記者会見で、本紙「夕刊フジ」の記者がこの件を質問したが、河野氏の答えは「私の政治活動に影響を与えるということは全くない」「資産報告を毎回しっかりやっており、問題はない」だった。
ネット上にも「河野擁護」らしき声が上がった。「違法ではない」「中国進出している企業は山ほどある」「麻生太郎副総理も、鳩山由紀夫元首相(の関連企業)も同じだ」「中国進出企業が現地で合弁させられるのは常識だ」など。どれも一見、もっともらしいが、そんなことは河野氏に疑問を抱くネット民の多くとて先刻ご承知だろう。
海外事業がほぼ中国のみで展開されている「日本端子」について、多くの国民がいぶかしく思うのは、不釣り合いな合弁相手だ。
同社のサイトによると、関連会社である北京日端電子有限公司(北京市)の合弁相手は「北京京東方科技集団股分有限公司(BOEテクノロジーグループ)」だという。ディスプレーで世界屈指のシェアを持ち、営業規模2兆円を超える大企業が、100分の1以下の規模の日本の中小企業に、特例的な株式比率での合弁を許してきた。その理由は「日本端子が、河野ファミリーの会社だからではないか」と誰もが思う。
■BOEとウイグル人強制労働疑惑
BOEには別の重大な疑惑もある。筆者が最も関心があるのもこの件だ。昨年3月、オーストラリアのシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が、世界80以上の有名企業のサプライチェーンに組み込まれている中国の工場で、8万人以上のウイグル人が強制労働させられているという詳細な報告書を発表した。その中に、中間業者としてBOEの名も記されている。
野田氏が、中国政府の人権弾圧への非難決議について、「臨時国会で決議すべきだ」とし、「私にとって人権問題は重要事項のひとつであり、どの国、どの地域においても、一人ひとりが自分の生き方を決めることが大切だ」と答えている。リベラルの鑑だ。
一方、「時期は分からないが、採択すべきだ」との曖昧な答えしかない河野氏に改めて問いたい。「河野家の親族企業は、ウイグル人の強制労働に関わりありと報告された中国企業と昵懇(じっこん)なのですか」と。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。