「エール」:金子ノブアキ演じた藤田嗣治とオペラ歌手・三浦環を結ぶ線

田中幾太郎

 

金子ノブアキ演じた藤田嗣治とオペラ歌手・三浦環を結ぶ線|今週の「エール」豆知識

「エール」第12週(6月15~19日)はスピンオフのオムニバス形式。3つの物語が展開した。どれもフィクションながら、実話からとったエピソードがふんだんに盛り込まれていたのが、3番目のオペラ歌手・双浦環と画家・今村嗣人の物語だった。パリに留学した双浦が今村と出会い、恋に落ちるというストーリーだ。

 双浦役はすでに重要な場面で何度も登場している柴咲コウ(38)。その相手役・今村を演じたのがロックバンドRIZEのドラマー金子ノブアキ(39)だ。大河ドラマ「麒麟がくる」にも起用されるなど、今、乗りに乗っている注目の役者である。朝ドラに出演するのは9年前の「おひさま」に続いて2度目。同作ではヒロイン(井上真央)の初恋相手を演じた。

 双浦のモデルはオペラ「蝶々夫人」で一躍スターダムにのし上がった三浦環。一方、今村は誰なのだろうか。役名に「嗣」が入っている点や、環と同時期に欧州に在留していた人物であることを考え合わせると、天才芸術家の称号を欲しいままにした藤田嗣治以外には考えられない

■2人の接点を調べてみると…

 だが、実際の環と藤田が欧州で出会っていたかとなると、いくら資料を調べても、接点を見つけることはできなかった。ただ、顔を合わせる機会はなくても、藤田が環の存在をいち早く知っていたのは想像に難くない。藤田よりずっと先に表舞台に登場しているからだ。

 ロンドンのオペラハウスで環が初めて蝶々夫人役を演じたのは1915年。たいへんな喝采を浴びた。そのころ、パリのモンパルナスで暮らしていた藤田は困窮にあえいでいた第1次世界大戦の影響で日本からの送金が途絶えてしまったのだ。寒さをしのぐために、絵を描いたキャンバスを燃やして、暖をとったこともあったという。2年前に欧州に来てから、まだ、藤田の絵は1枚も売れていなかった

「エール」の中では、もしこのころに2人が出会っていたらと想像しながら、筋立てが練られたのだろう。大舞台のヒロインに抜擢された恋人に、無名の絵描きが嫉妬する。ひとつ間違えば陳腐な話におちいってしまうところを、柴咲の透き通るような美しさと、抑えた金子の渋い演技が視聴者を引きこんでいく。

 なお、現実の藤田は2年後の1917年、初めて絵が1枚、売れると、徐々に注目を集めだし、パリで彼の名前を知らぬ者はいなくなった。個展を開くたびに黒山の人だかりがでるようになり、時代の寵児となっていくのである

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