ロシアの「返礼」に慌てるドイツ

横暴なロシアに制裁をかけるのだと、EUは勇ましい。ロシアの多くの銀行はすでにSWIFTシステムから締め出されたし、ロシアの財閥オリガルヒの資産もどんどん凍結されている。EUはさらに、石炭はすでに多くをロシア以外から調達し、石油は今年の終わりで輸入を止めるとしている。

ガスさえ制裁の対象にしようという声が上がっていたが、これにはドイツやオーストリアなどが、「ガスはまだしばらくは必要である」と反対して、輸入停止は24年までに延ばされた。

ただ、当然のことながら、これらの制裁案にロシアが同意してくれていたわけではない。その証拠に6月の半ば、ロシアからドイツへの直結海底パイプライン「ノルドストリーム」経由で送られてきていたガスの量がストンと減り、ドイツはたちまち大慌てとなった。

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ドイツが初めて重火器をウクライナに送ったのとほぼ同時期だったので、その返礼であったことは間違いない。

「早く重火器をウクライナに送れ!」と、凄い勢いでせっついていたのが緑の党とFDP(自民党)で、一方、どんな非難を浴びても、ぐずぐずと口実をつけて引き延ばしていたのがSPDのショルツ首相だった。

今になって緑の党のハーベック経済・気候保護相は、ガスを武器として使うロシアは卑怯であると怒っているが、自分たちはさまざまな制裁を掛け、ウクライナにロシア兵を殺すためのハイテク武器まで送っているのだから、自分たちがロシアガスの代替を見つけるまで、ロシアが粛々とガスを送ってくれると思っていた方がおかしい。

要するに、ショルツ首相の躊躇には、ちゃんと理由があったと思われる。

 

そんなわけで、困ったハーベック氏が、予備として待機させてある石炭・褐炭火力発電所を立ち上げると宣言して、皆をびっくりさせたことは先週書いた。

CO2を毒ガス並みに扱い、石炭・褐炭火力を1日も早くこの世から消し去ることを党是としていたのが緑の党だったが、今、それについての説明はなく、自分は「シャワーを浴びる時間が短くなった」とハーベック氏。そんなチマチマした節約で切り抜けられるエネルギー危機なら、世話はないだろう。

日独共通のエネルギー不足

今、ドイツで起こっていることは、バカバカしい点において、日本で起こっていることと酷似している。

まず、両国ともエネルギーの逼迫に見舞われ、日本はすでにこの夏、ドイツは(夏のエアコン使用がないので)この冬、深刻な電気、およびガス不足に襲われる危険が高まっている。

しかし、日本は、動かそうと思えば安全に動かせる原発を複数持っており、これらを動かせば電力事情は直ちに改善されるにもかかわらず、一向にその方向に舵を切らない。

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一方のドイツは、現在まだ動いている3基(最後の3基である)の稼働延長は、今ならまだ間に合うと言われているのに、政府はそれを無視。稼働が少しでも延長できれば、来年初頭の厳寒時、かなりの助けになるが、このままでは時間切れで、予定通り今年の終わりに停止になる可能性が高まっている。

また、ドイツも日本も、国民にエネルギーの節約を呼びかけている。

ドイツでは、自治体が独自のガス発電施設を運営し、地域の暖房、および温水の供給を担っているケースが多いため、温水の節約や暖房の節約が、ガスの節約に直結する。そのため、手を洗うときは冷たい水で洗えとか、食洗機はいっぱいになるまで動かすなとか、冬がきたら暖房は控えめになど、すでに国民にさまざまな節約の指示が出ている。

ハーベック大臣は、それでもまだガスが逼迫するようなら、法的拘束力で節約を義務にすることまで考えているというから、なんとなく独裁政権のようになってきた。

 

一方の日本もまるで同じで、エアコンの温度設定だとか、冷蔵庫の物の入れ方など、特にメディアが張り切って国民を啓蒙しようとしている。「家族で一つの部屋に集まって、他の部屋の電気を消そう」というのもあった。そのうち、夕飯の献立まで指図されるようになるかもしれない。

節電したらAmazonのギフト券をくれるという電気の販売会社もあるそうだ。政府も、節電を促すためにポイント付与を考えているらしいが、しかし、私の目には、結局、政府は各方面の関係者の藁をも掴む数々の努力を、ただ静観しているだけのように見える。

電気代、ガス代の値上げに打つ手なし

日独の類似点はまだある。

ドイツは貧困家庭を支援するため、来年から「気候金」を支給(1年1回のみ)すると決めた。支給額は年200~300ユーロで、高収入者は除外されるとみられるが、目下のところ、正確な金額や対象者について議論百出で、なかなか最終決定まで漕ぎ着けられない。

ただ、現在、インフレ率は8%に迫っており、エネルギーに限れば約40%のインフレなので、その程度の補助では間に合わなくなる可能性もある。しかも、給付は来年の話。貧しい家庭は今年の秋、電気代が払えなくなるという予測の方が現実味がある。

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一方の日本も、そのうち電気代、ガス代の値上げで、収入の少ない家庭から困窮していくだろう。電気やガスは贅沢品ではないのだから、これを適正な値段で安定して供給することが政治の役目であるはずだ。しかも、政府はそれをする手段を持っているというのに、しようとしない。国民を守るつもりがあるのか、ないのか?

なお、ドイツでも日本でも、気の毒なのは電力会社だ。手足を縛られたまま、しっかり泳げと言われてすでに11年。再エネはどんどん増えたが、それが故に、電気の増減が調整不能なほど大きくなった。

ドイツの場合は、超過分は他国に流し、足りなくなったら他国から買うことで、どうにか辻褄を合わせてきたが、採算は一切合わず、国民の電気代はEUで一番高くなった。

 

日本もまさに同じだが、余った電気を流したり、足りない電気を買ったりする隣国がない分、状況はなおさら厳しい。何も考えずにお天気任せで発電する太陽光の電気が、電力の供給を極度に不安定な状態に陥れて、すでに久しい。

しかも、日本ではその間に、構造的に機能不全となることが最初から警告されていた電力自由化が実施され、電力会社はさらに追い詰められた。これを改めないと、歪んでしまった電力事情は、おそらく永久に改善されないだろう。

計画経済でもあるまいし

ドイツでは今、電気代の高騰を受け、再エネ推進のための経費である再エネ賦課金を7月より停止することになった。再エネ賦課金は、再エネ事業者の利益を担保するもので、過去20年の間、それが不当にも国民の電気代に乗せられてきた。

ドイツの再エネ賦課金の制度を真似た日本でも、当然、これが電気代に重くのしかかっているのだが、今、またその後に続くのか、やっと国民民主党が、「再エネ賦課金の一時停止」を参院選の追加公約に入れた。少し希望が湧く。

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ドイツでも日本でも、再エネ擁護派はずっと、再エネは安いと主張してきたのだから、それが真実なら、買い取りなしで自由に市場で商っても、儲けられるはずだ。もし、それが機能しなければ、再エネは競争力が不足しているということになる。

再エネが自由市場に組み込まれれば、需要と供給の法則に基づいて、自ずと適正なサイズになるだろう。それによって、今度こそ再エネが、電力の安定供給とCO2削減のための意義ある応援団として、理想的な形に落ち着いていくことを希望する。

とにかく、現在のような、必要ないものまでもどんどん作り、それを全部買い上げてもらい、その負担を無理やり消費者に押し付けるなどという悪しき計画経済のやり方だけは、一刻も早くやめなければならない。

 

なお、ドイツで3万本以上に増えてしまった風車を、ハーベック経済・気候保護相は、法律の改正まで視野に入れながら、もっともっと増やすと息巻いている。しかし、そんなことをすれば、今の日本の太陽光問題と同じく、電力のバランスがますます崩れ、自然がますます破壊されるから、おそらく実現はしないだろう。

いや、ドイツの美しい景観を知っている人間からしてみれば、絶対に実現してほしくない。風車の立ち並ぶ今の田園風景を見るだけでも、私は十分に悲しい。