病腎移植の芽「残したい…」 病理医が「良心の手紙」
日本病理学会理事の堤寛(ゆたか)・藤田保健衛生大学医学部教授(55)・・・
堤教授は専門委の討議の場でも、こうした考えを力説した。だが、報告書には盛り込まれず、翌日の新聞では「全員一致で全症例が否定された」とゆがめて報じられた。・・・
病腎移植を受けた患者の多くが、親族からの生体腎移植を受けた後に病気を再発し、しかも通常移植より高齢で、病腎以外にドナー(臓器提供者)を得られない身だったこと。都会の医療を受けられる経済状態ではなく、透析生活のつらさに耐えられず、移植を強く望んでいたこと。患者たちの生存率が、年齢や健康状態のわりには死体腎、生体腎に劣らないこと。それらの事実に心を動かされ、「患者さんの経済状態を考慮し、最小限の検査で診療したことも痛いほど分かりました」
初めから結論ありきという雰囲気の検証作業
万波医師は、手を尽くした末の最後の手段としてしか病腎の摘出を選択しなかったと堤教授は確信している。だが、専門委は万波医師に、質問に答える以外は発言を許さず、「教科書にない」「記録がない」などの理由で主張を退けた。
万波医師は確かに日本の移植医療のルールを無視した。だが、「患者さんのためだけを思い、名誉欲などみじんもない医者をいじめてどうするのか」。学会に対する思いだ。