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「ビジネスモデル革命」に中国が成功し、日本が対応できない理由
「ビジネスモデル革命」に中国が成功し、日本が対応できない理由
中国では、フィンテック関連で新しい事業が続々と誕生している。価値の高いスタートアップ企業の数でも、中国はアメリカと拮抗する状態になっている。
500年前、官僚帝国である明は、優れた技術を持ちながらそれをフロンティア拡大に用いず、ヨーロッパに後れをとった。現在の中国が社会主義経済の残滓を引きずっていることは事実だ。しかし、最先端技術の面では、目覚ましい躍進を実現している。
日本が長く模範としてきたドイツは、モノづくり一辺倒から脱却できずに、情報技術の進展に後れがちだった。しかし、ここ数年、スタートアップ企業が目覚ましく誕生している。IoTとの関連で、ドイツは生まれ変わるのかもしれない。
日本が古い産業や企業の体質から脱却するためには、人材の転換が必要だ。
中国は日本の66倍!
まず、フィンテック(金融へのITの応用)関係のデータを見よう。
アクセンチュアのデータによって2016年のフィンテック関連投資額をみると、中国と香港の合計で102億ドルになった。これはアジア・パシフィック地域の投資総額112億ドルの実に91%だ。
日本は、わずか1億5400万ドルに過ぎない。中国・香港は、日本の66倍なのだ。「まるで比較にならない」というのが現状だ。
Fintech100(フィンテック100社)は、国際会計事務所大手のKPMGとベンチャー・キャピタルのH2 Venturesが作成するフィンテック関連企業のリストだ。2016年においては、アメリカが35社、中国が14社となっている。世界首位は電子マネーを提供するAnt Financial(後述)だ。
中国企業は、2014年は1社だけだったが、15年には7社となり、インターネット専業の損害保険会社の衆安保険(ZhongAn)が世界首位となった。
16年には、さらに中国企業が躍進しているわけだ。
ところが、このリストに日本企業の名はない。ユニコーン企業で見ても、中国の躍進ぶりは著しい(「ユニコーン企業」とは、未公開で時価総額が10億ドル以上の企業)。
Sage UKがまとめた調査結果によると、ユニコーン企業数は、アメリカ144社、中国47社、インド10社などとなっている。
このように、中国ユニコーン企業の数は、アメリカのそれに近づいている。
ところが、日本のユニコーンは1社しかない。
中国ITを牽引する「BAT」
中国のIT産業を支配しているBaidu(百度、バイドゥ)、Alibaba(阿里巴巴、アリババ)、Tencent(騰訊、テンセント)の3社は、「BAT」と呼ばれる。。
バイドゥは検索とAI技術、アリババはEコマース、テンセントはソーシャル・ネットワーキング・サービスだ。
アリババはNY市場に、バイドウはNASDAQに上場している。アメリカ株のランキングとして、アリババは4位(時価総額 463億ドル)、バイドウは93位(91億ドル)だ。
日本で時価総額が最大であるトヨタ自動車が、38位で時価総額が184億ドルであることと比較すると、BAT企業(とくにアリババ)の価値の高さが分かる。
「中国のフィンテック投資額が巨額」と上で述べた。この背後には、アリババ傘下の金融サービス企業Ant Financial Services Groupが、16年4月に45億ドルの資金調達をしたことがある。
もはや、モノマネではない
BAT企業成長の背後に、中国政府がインターネットを外国から遮断して独自の国内マーケットを作ったこと、中国の人口が巨大であるために国内マーケットが巨大であること、という事情があることは間違いない。
そして、BATがこれまで提供してきたのは、アメリカで始まった新しいビジネスモデルのクローンでしかなかった。アリババはアマゾンの、テンセントはフェイスブックの、そしてバイドウはグーグルの、それぞれ「パクリ」だったのである。
しかし、最近では、単なる模倣と言えない状況になっている。新しいサービスが次々と誕生し、それが急速に市民生活に浸透して、中国社会を変えつつあるのだ。
アリペイという電子マネーが中国で普及していること、それだけでなく東南アジアにも進出していることを、すでに述べた(「中国の『フィンテック』が日本のはるか先を行くのは当然だった」)。
また、ビッグデータを活用できる点でも、BATは有利な立場にある。ビッグデータは、AI(人工知能)の発展には不可欠だ。AIを用いた自動車の自動運転が近い将来に可能になることを考えると、このことの意味は、きわめて大きい。
「中国製品」というと、「安かろう、悪かろう」を想像する人が多い。そうしたものがいまだに多いことは事実だ。中国の製造業が、先進国との比較ではいまだに低い賃金の労働者に支えられているのは、まぎれもない事実である。
しかし、世界の最先端をゆく製品やサービスを供給できる企業が登場しているのも、事実なのである。
大航海に後れた中国。だが、いまは違う
先に述べたように、大航海時代、官僚国家である明は、優れた技術を持ちながら、官僚国家であるためにそれを新しい社会の創出に用いることができず、ヨーロッパに後れをとった。
日本も同じ頃、遠洋航海ができる技術を持ち、東南アジアに進出し始めていたが、日本国内ではそうした人たちを異端視した。そして、江戸時代になってからの鎖国で閉じこもることになった。(参照・拙書『世界史を創ったビジネスモデル』第3章、新潮選書)
現代の中国はどうか?
一方において、社会主義経済の残滓を引きずっている面がある。金融やエネルギー分野では、巨大国有企業の支配が続いている。
これら国有大企業は、「フォーチュン・ファイブハンドレッド」に名を連ねている。このリストにあるのは、売上高は大きいが、成熟企業であるため成長率は低い巨大企業だ。世界10位までのリストに、State Grid、China National Petroleum、Sinopec Groupという中国国有企業が入っている。
政治とビジネスの癒着による腐敗も著しい。
共産党による一党独裁という政治体制が、市場経済という経済体制と根本的に相いれないことも間違いない。中国は、根源的なところで本質的な矛盾を抱えているのだ。
しかし、それにもかかわらず、これまで見てきたように、新しい技術に支えられた新しいセクターが誕生しつつあることも事実だ。混沌と混迷の中から生まれてきたものは、すでに世界経済において無視できぬ地位を占めるに至っている。
ドイツはモノづくりに固執して後れた
ドイツは、産業革命において先発国イギリスを追い抜いた。この状態は第2次大戦後も続いた。しかし、モノづくりに固執した。
1980年代、英米で新自由主義的な経済政策が取られ、自由な市場を基本とする経済活動が広がった。しかし、東ドイツは社会主義経済のままであり、西ドイツでも、「社会的市場経済」の考えが支配的だった。
そして1990年代からのIT革命においては、アメリカ、イギリス、アイルランドなど、マーケットを積極的に活用する経済に後れをとった。この点で日本と似ている。
日本では、ドイツ経済がヨーロッパ経済を牛耳っているように報道される。しかし、経済成長率を見ても1人当たりGDPを見ても、イギリスやアイルランドに後れをとっている。
新しい産業の時代において、ドイツは立ち遅れつつあったのだ。
ところが、この数年、ドイツでIT関係での先端的スタートアップ企業の誕生が目立つ。
スマートロックをブロックチェーンで運営するシステムを開発したSlock.itや、IoT(モノのインターネット)に対応したチェーンを開発するITOAなどのスタ―トアップ企業が注目される。
アクセンチュアの調査によると、2014年において、ドイツのフィンテック投資額は前年より843%増加した。
日本の伸び率が20%増でしかなかったのに比べると、大きく違う。
上述したSage UKによる調査結果でユニコーン企業の数を見ると、ヨーロッパでは、イギリス(9社)が最多だが、ドイツ(6社)がそれに続く。都市別でも、ベルリン(5社)がロンドン(7社)に続く。
ベルリンは、ヨーロッパのシリコンバレーだと言われる。暫く前から、ベルリン郊外の町クロイツベルクは、世界で最もビットコインにフレンドリーな町だと言われている。
IoTとの関係で、ドイツの製造業は生まれ変わるのかもしれない。 IoTは、インダストリー4.0という新しい産業革命を引き起こすとされている。宣伝文句どおりに捉えれば、その本質は、職人芸の延長線上にある従来のモノづくりの局所的、ミクロ的な最適化から脱却し、システム全体のマクロ的最適化を目的とするものである。
これは、思想の大きな転換だ。なぜドイツでこのような転換が生じたのか、大変興味深い。
「IT分野で、日本は巨大な国内マーケットを持つ中国には太刀打ちできない」と考える人がいるかもしれない。しかし、ドイツを見るべきだ。ドイツの総人口は日本より少ない。そうであっても、以上で見たような変化が生じているのだ。
日本が転換するには、人材の転換が必要
上で述べた中国とドイツの状況に対して、日本は、どのように対応すべきか?
まず、日本の状況がどうなっているかを見よう。
日本人は、フィンテック、仮想通貨、ブロックチェーンの分野で、何に関心を持っているかと言えば、技術開発ではない。
前回述べたように、ビットコインの値上がりやICOによるトークンの値上がりで儲けることしか頭にない。ビットコインやICOを用いて新しいプロジェクトを起こそうとする動きは出てきていない(「ビジネスモデルの歴史的大転換に、日本だけが取り残されている」)。
IoTについてもそうだ。これがマクロの最適化であるという視点はほとんどない。
IoTの本質が理解されていないことは、新聞等の報道で、「IoTとはすべてのモノをインターネットでつなげること」という説明がまかり通っていることを見ても明らかだ。
「すべて」をインターネットでつなげるのは、経済的に無意味であるばかりでなく、セキュリティホールを増やしてしまうという意味で、極めて危険なことだ。日本では、IoTは単に「センサーの需要を増やすもの」としてしか捉えられていない。
このような状況を転換させる基本的な力は、人材だ。
まず、ハードウェア関連に偏っている日本の工学部教育を、ソフトウェア関連にシフトさせる必要がある。それだけでは十分でない。企業の人材もシフトさせる必要がある。これまでの日本の製造業で中心だったのは、モノづくりのエンジニアだ。それらの人々は、現在でも会社の意思決定に重要な影響力を持っている。上で述べたような変化に対応するには、情報分野の専門家が中心人材になる必要がある。
日本の企業は、これまで、このような要請に対応できなかった。エレクトロニクス産業が劣化した基本的な原因は、そこにある。日本の技術が劣化したのではなく、技術の性格が変わり、そのシフトに日本企業が対応できなかったのだ。(参照・拙書『仮想通貨革命で働き方が変わる』(第4章)、ダイヤモンド社)
日本の企業が、要求される人材シフトに対応できるかどうかが、これからの日本の産業の命運を決める。
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