福島香織『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』

宮崎正弘の国際情勢解題」 令和2年(2020)5月18日(月曜日)  通巻第6503号  


 「習近平を許さない」と世界は合唱。トランプは断交も視野に
  中国共産党内部にも同じ声。習体制打倒を揚言する人々がいるゾ

福島香織『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス)


 本書の帯を眺めると、もっとはっきりする。
「習近平を許さない」が大文字。『中国』と『習近平』が被さって「人類共通の敵」となっている。
西側の習近平批判については語り尽くされた観なきにしも非ず。トランプはFOXニュース(5月14日)に出演して、中国との断交を仄めかした。ぎょっとなった読者も多いだろう。
本書は香港大乱から台湾の蔡英文圧勝にいたった流れを時系列で整理しつつ、現場で目撃してきたことを迫力に満ちた文章で綴る。テンポも速い。
まずウィグル自治区潜入記から本書は開始される。また香港民主化運動のスポークスウーマンとなった周庭へのインタビューが挿入される。
米中新冷戦はコロナウィルスで新局面に突入した。この「超限戦」ともいえる戦争の実態は、「誰が敵か味方かわからない混沌のなかで、すべてを自国の利益のためにひとつの方向に誘導する総合的な戦略的思考が必要とされる戦争」だとし、現今のウィルス戦争、すなわち「パンデミックはその世界大戦に突入した狼煙だ」と定義する。このような前提で全体が一貫していて、福島香織さんは、たいそう骨太な中国論に仕上げた。

そして、あの任志強が戻ってきた。
任志強は以前にも習近平を露骨に批判して一年間、発言を封じ込められていた。ほかに比べて処分が軽かった理由は、王岐山(国家副主席)が後ろ盾にあり、「紅二代」ゆえに大目にみられたのだ。任志強の中学時代、家庭教師が王岐山だった。
2月23日、アメリカの華字サイト「中国デジタル時代」に任志強は「(習近平は)化けの皮が剥がれても皇帝の座にしがみつく道化」だと、わかりやすい批判を展開した。
福島氏によれば「中共内部が執政危機に直面し、言論の自由を封じていることが、新型コロナウィルス感染対応任務の阻害になり、深刻な感染爆発を起こしたと批判するもの」だった。
任志強はさらに過激に批判をエスカレートさせ、習を「裸の王様」とし、「恥部を隠す布きれを一枚、一枚掲げてみせる道化。貴方を滅亡させる決心はついた」と言いはなった。そして四人組打倒のような政変劇を示唆し、おっと大丈夫かと懸念していたら、やはり行方不明となって、四月早々に公安に拘束されていることが分かった。
党内の空気がいかにささくれ立っているか。
長老たちも秋の五中全会では「習解任」を求める動きがある。
それら報道されない部分を本書は丁寧に追跡し、中国国内のインテリの間で、習近平がどれほど人気がないかという実態が浮かび上がる。日々の皮相きわまりない日本のメディアの中国報道からは把握できない、中国の見えない地下水脈の動きが本書でわかる。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 安倍政権が検... 藤井聡さん ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。