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イスラエルは「加害者」なのか イスラム思想研究者、麗澤大学客員教授・飯山陽
日経新聞の記事は危険で無責任
【新聞に喝!】イスラエルは「加害者」なのか イスラム思想研究者、麗澤大学客員教授・飯山陽
3月末以来、イスラエルの治安状況が極度に悪化している。レバノン、シリア、パレスチナ自治区ガザから多数のロケット弾が撃ち込まれ、銃撃や歩行者を狙った車の突進といったテロ事件も頻発し、死傷者が出ている。
日経新聞は4月5日のウェブで、「イスラエル警察がモスク侵入 エルサレムで350人超逮捕」という見出しの記事を掲載した。この見出しは、イスラエル警察は平和的に礼拝しようとしているパレスチナ人に暴力を振るう無法者だという印象を与える。
しかし警察がモスクに立ち入ったのは、覆面をしたパレスチナ人が礼拝に不要な石や花火を持ち込んでバリケードを築き、治安維持上、撤去の必要性が生じたためだ。モスクに立てこもり石や花火を警官に直接投げつける人を、単に礼拝者と描写するのは無理がある。
日経は同7日のウェブでは、「イスラエル、レバノンとガザを空爆 報復連鎖の懸念」という見出しで共同通信の記事を掲載した。この見出しはイスラエルが攻撃を開始したという印象を与えるが、実際はレバノンとガザからイスラエルにロケット弾が撃ち込まれたのが先であり、軍事拠点などに対するイスラエルの空爆は自衛権の行使だ。
いずれの記事も後段ではイスラエル側の主張に言及している。しかし今はSNSの時代だ。見出ししか見ない人々は専ら、「イスラエル=加害者」「パレスチナ=被害者」という印象を受けるだろう。
ツイッター上の日経公式アカウント「日経ヨクヨム」のプロフィル欄には、「新聞記事はほとんどの場合『見出しに結論』です」とある。
ならば「イスラエル=加害者」「パレスチナ=被害者」と印象づける見出しの記事の結論は、「イスラエル=加害者」「パレスチナ=被害者」ということにならないか。
イスラエルは人口の7割以上をユダヤ人が占める。ユダヤ人に対する偏見や敵意・憎悪は反ユダヤ主義と呼ばれる。中世ヨーロッパではキリスト教徒の子供が殺害されるとその罪をユダヤ人にきせ、ユダヤ人を拷問したり処刑したりする事件が多発した。ユダヤ人はキリスト教徒の子供の血を儀式に使う、というウソを人々が信じていたためである。ナチスによるホロコーストは、あらゆる問題をユダヤ人のせいにする究極の反ユダヤ主義の帰結だ。
結果として反ユダヤ主義を仄(ほの)めかしたり誘発したりする見出しには、危険と責任が伴う。民主主義国家である日本のメディアはそれを認識し、自戒すべきだ。
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【プロフィル】飯山陽
いいやま・あかり 昭和51年、東京都生まれ。イスラム思想研究者。上智大文学部卒、東大大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。麗澤大学客員教授。著書に『中東問題再考』など。
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