トランプを語る―――ボルトン氏インタビュー(朝日新聞10/02)

おもしろい記事です

トランプを語る―――ボルトン氏インタビュー(朝日新聞10/02)

トランプ氏。側近は見た。
哲学も戦略もなく損得勘定が全て
朝日新聞 2020/10/02 インタビュ

2018年4月から453日間、国家安全保障担当の補佐官としてトランプ大統領に仕えたジョン・ボルトン氏に、超大国の中枢で起きていたことを聞いた。(聞き手アメリカ総局長・沢村亙)

 

―ーあなたは父子2代のブッシュ政権でも高官を務めました。大統領の統治スタイルや資質でトランプ氏はどう違いましたか。
「何もかもです。統治の哲学も大戦略もトランプ氏は持ち合わせていませんでした。政策を立案して施行に至るプロセスを通じて方向性は示されず、一貫性もありませんでした。これほどまでホワイトハウス内がカオスだった政権を私は知りません」

ーーだからこそ補佐官の手腕が問われるのではありませんか。
「政策提言に盛り込まれた利点と欠点を見極めて決断を下すのが大統領の仕事です。トランプ氏の場合は、たとえ国家の安全保障にかかわる話だったとしても、『国内政治にどう影響するか』が判断の物差しでした。トランプ氏が正しい決断をしたケースがあったとすれば、補佐官たちが大統領をうまく説得できたからではなく、そう判断しなければ共和党の議員たちが反発するのをトランプ氏が心配した場合でした」
「明確な目標を設け、首尾一貫した政策を練り、それをぶれずに実行するのがプロの仕事です。しかしトランプ氏はそうしたことに頓着しません。昨日と今日とで食い違うのは日常茶飯事。彼がニューョークで従事していた不動産ビジネスの流儀はそうなのかもしれません。しかし外交や安全保障の世界では通用しません」

ーー補佐官就任直後に米国はイラン核合意から離脱。あなたは米国が温暖化対策のパリ協定から離脱したことも支持しています。国際協調に背を向ける姿勢ではトランプ氏と共通していませんか。
「私の戦略は『プロ・アメリカン』です。米国の国益と価値観を見極め、いかに守り、前進させるかを考える。同盟関係を通じて守れるものもあれば、単独行動で可能な場合もあります。一方でトランプ氏が掲げるアメリカ・ファースト(米国第一主義)は戦略ではなく、スローガンです」
「世界最大の温室効果ガス排出国である中国を縛れないパリ協定のような取り決めは、政治家のお遊びです。私は民主党内にある国連中心の多国間主義にはくみしませんが、共和党内に巣くう孤立主義にも反対です。米国はインターナショナリスト(国際主義者)であるべきだと考えます。世界中に国益を有しているからです」

ーートランプ政権は米軍駐留経費の大幅増額を日韓に求めるなど同盟の行方が心配です。
「米軍が日本に駐留する。米国が日本に武器を売る。一緒に計画を練る。これらは日米の双方に有益です。ところがトランプ氏はこの同盟を根本から理解していません。金銭的な損得勘定がすべてです。『米国は日本を守るために駐留するのだから、相応の対価が支払われるべきだ』と考える。これでは米軍はまるで傭兵です」

ーーなぜ米国は世界の多くの場所に米軍を送っているのか。前方展開は米国の安全に欠かせない『保険』だからです。米本土の海岸線や隣国との国境に兵を置いて守るわけにはいかないのです。それを自国民にきちんと説明するのは政治リーダーの責任です。それを怠るから米国の世論がますます撤退論に傾くのです」

 

ーーそれでも北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談は世界を驚かせました。トランプ氏の功績ではないですか。
「過去2年余の北朝鮮との交渉で米国が得たものは何もありません。むしろ多くを失いました。トランプ氏が『戦争ゲーム』と形容した米韓合同軍事演習の縮小は最たるものです。あの首脳会談そのものが、歴代の北朝鮮指導者が得られなかったレジティマシー(正統性)を金正恩氏に与えてしまうふるまいといえました」

ーーそれでも首脳会談以来、北朝鮮は核実験や大陸間弾道ミサイルの発射は控えています。
「油断はなりません。『時間』は核兵器やミサイルを拡散する国家の側に味方します。その間に技術を革新し、課題を解決できるからです。北朝鮮による新たな長距離弾道ミサイルの実験が差し迫っているとの情報もあります。トランプ外交はその成功に向けて機会を与えたようなものです」

ーーかといって核戦争に発展しかねない北朝鮮に対する武力行使は現実的ではないのでは。
「米国の都市が潜在的にでも北朝鮮の核の脅威にさらされている限り、軍事オプションは常に選択肢です。北朝鮮のような体制に私たちの安全が人質に取られるような事態を認めてはなりません。ただ軍事シナリオには様々なものがあり、ただちに核戦争につながるとの見方は間違っています」

ーー新型コロナウイルスの対応をめぐってトランプ大統領が対中強硬路線にカジを切りました。
「改めて言いますが、トランプ氏にとっては金銭的な損得勘定がすべてです。中国は、知的財産の窃取や技術の強制移転、外国企業への差別的な扱いなどの不公正な手段を積み重ねて、強大な経済力を築きました。これはトランプ氏も認識しています。安全保障の観点から私が懸念するのは、中国がその経済力を背景に軍事強国化を進めていることです。何よりまず不公正なふるまいをやめさせる必要がありますが、これまでの交渉で何も成し遂げられていません」

ーー米中の緊張は今後も高まっていくのでしょうか。
「トランプ氏が大統領再選を果たしたとしましょう。当選の翌日、中国の習近平国家主席から祝福の電話が入ります。トランプ氏はこう返す。『ありがとう。今まで数々の制裁をかけてきたが、ひとまずすべて置いて、ここは大きなディール(取引)をしよう』と。あくまで仮定の話ですが、容易に想像できるシナリオです」

――2期目に大きな政策転換があるということでしょうか。
「再選という足かせが外れたトランプ氏のふるまいは、ますます予測不能になります。一方で彼には『何ごともディールで解決できる』という本能的な確信があります。中身はどうだっていい。いくつディールをまとめたかを自分のレガシーと見なすのです」
「金正恩氏とさっそく対話を再開するでしょう。イランの指導者とも話す用意があるとかねて公言しています。私が恐れるのは米国の国益を損なうディールをまとめてしまうこと。だから私は大統領選でトランプ氏に投票しません」

ーー同盟国との関係がどうなるかも心配です。
「政権2期目で北大西洋条約機構(NATO)からの脱退は十分にありえます。米軍駐留経費の負担交渉で日韓と合意できなければ撤退するかもしれない。1期だけであれば米国外交の修復にさほど時間は要しないでしょう。2期目を務めたら後戻りはできません」

ーーバイデン氏が大統領になれば安心でしょうか。
「そうとは限りません。バイデン氏が掲げる外交政策はオバマ政権と似ていて、私の考えとは違います。例えば北朝鮮問題で、オバマ氏の『戦略的忍耐』は、核・ミサイル技術を向上させる時間を北朝鮮に与えました。同じ道に戻れば、北朝鮮の核保有国としての地位は揺るぎなくなります」

ーー安倍晋三前首相はなぜ上フンプ氏と良好な関係を保ち続けられたのでしょうか。
「安倍氏は、トランプ氏と個人的関係を築くことが日本の国益になると見抜いていました。辛抱強かったとも思います。首脳会談ではトランプ氏の主張にいちいち細かく反論しませんでした。うなずいて、話を先に進める。通商の話題では、日本の対米投資に関する統計や図表を準備するなど用意周到でした。ただ、その胸中はどうだったでしょうか。容易ならざるものもあったでしょう」
 
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取材を終えて
ワシントンでボルトン氏ほど毀誉褒貶の激しい人物は珍しい。米国単独による武力行使も辞さない筋金入りの保守強硬派。歯に梶着せぬ物言いや国際協調嫌いがトランプ氏の米国第一主義と平灰があったのだろう。だが、政権入りしたボルトン氏が目撃したのはあまりに常道を逸脱した大統領のふるまいの数々だった。強権国のリーダーと妥協する。再選支援を外国元首に頼み込む。理念も戦略もない。あるのは直感とエゴだけ。
だがこうも思う。トランプ氏はその直感で国民の非戦指向も感じ取っていた。だからこそディールにいそしんだ。「ボルトンの言うままにしたら、第6次世界大戦になっていた」。トランプ氏のツイートだ。どちらが正しいのか。歴史の検証を待たねばなるまい。

 

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