立民「森裕子」副代表が「北朝鮮にコロナワクチンを送れ」 浅はかな発言の根底にある考え

 

デイリー新潮取材班   2021年6月17日 掲載

立民「森裕子」副代表が「北朝鮮にコロナワクチンを送れ」 浅はかな発言の根底にある考え - ライブドアニュース

 立憲民主党の森裕子副代表(65)が「新型コロナウイルスの問題で、ワクチンの余剰分を人道支援として北朝鮮に提供してはどうか」と提案し、批判を浴びている。

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 問題の発言は6月11日、参議院の「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」で飛びだした。

 森議員の公式サイトを見ると、質疑の様子が紹介されているのが分かる。リンクをクリックすると、YouTubeで動画を視聴することができる。

 動画は彼女の公式チャンネルにアップされているもので、参議院のインターネット審議中継をベースに、参考資料を画面に合成するなどの編集が加えられているようだ。

 この動画の内容や、公式チャンネルに掲載された説明文などを元に、委員会での質疑を再現してみたい。

 森議員は新潟県選挙区の選出議員だ。新潟県の“県紙”はブロック紙の新潟日報。彼女は公式チャンネルにワクチン問題に関する質問の参考資料として、同紙が蓮池薫さん(63)に行ったインタビュー記事を紹介している。

 ご存知の通り、蓮池薫さんは拉致被害者だ。帰国後に中央大学法学部に復学、新潟大学大学院を修了するなどし、現在は新潟産業大学経済学部の准教授を務めている。

 新潟日報は昨年の20年11月に「[祈り]蓮池薫さんインタビュー 日米の政治転換期 拉致解決『待ち』許されぬ 『親世代の存命中』北に主張を」の記事を掲載した。

北を“ハッピー”に

 この記事で蓮池さんは《拉致被害者が多くいる日本が、ずっと「待ち」の姿勢で、手をこまねいていることは許されない》と指摘。北朝鮮を日本と交渉のテーブルにつかせるためにも《具体的な「支援案」の“アメ”をちらりと見せる》必要性を訴え、以下のような提言を行った。

《北朝鮮はとりわけ2021年からの新「5カ年計画」に、単に経済を立て直すというスローガンだけではなく、具体的な施策を盛り込みたいだろう。それには財源と技術が必要だ。新型コロナウイルス禍での医療対応を含め、日本に頼らざるを得ないと北朝鮮が考えていく可能性がある》

 もっとも蓮池さんは「北朝鮮に新型コロナウイルスワクチンを送るべき」と発言したわけではない。あくまで《医療対応》と《財源と技術》を指摘しただけだ。

 その上で、森議員の質問に話を戻す。彼女は委員会で拉致問題の解決には「日本が動くことで、北朝鮮も“ハッピー”になる端緒」が必要だと指摘した。

 蓮池薫さんたち拉致被害者が日本に帰国できたのも、アメリカに「悪の枢軸」と名指しで批判され、北朝鮮の国内経済も極めて厳しい状況だったことが追い風になった可能性があるとした。

ワクチン問題の全発言

 現在の北朝鮮も経済制裁やコロナ禍などで、やはり同じような厳しい状況にある。北朝鮮の心を開かせるためにも、蓮池薫さんの提言をどのように受け止めるか、と森議員は、加藤勝信・拉致問題担当相(65)に質問した。

 加藤担当大臣は「日朝平壌宣言に基づき、拉致・核ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を精算し、国交正常化を目指す考え、これは一貫している」と答弁した。

 つまりは、さらりとかわされたわけだが、森議員は「もっと踏み込んだ、具体的なものを提案」する必要があると反論。日本が3億6400万回分の新型コロナウイルスワクチンを確保しているため、日本人全員が2回打ったとしても余りが出ると厚労省のデータを紹介した。この後に行われた質問は、全発言を動画から引用させていただく。

《北朝鮮の人口は約2500万人でありますけれども、拉致問題解決のための対北交渉についてあらゆる機会を利用すると繰り返し仰っているわけですから、この余剰ワクチンを北朝鮮に対して人道支援ということで提供するということはいかがでしょうか?》

 森議員の“提案”に茂木敏充外相(65)は、ワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み「COVAX」への支援が必要と指摘。更に北朝鮮には国交正常化が行われたのなら経済支援を行うとのメッセージは送っていると答弁した。

「単なる思いつき」

 森議員は「説明は分かります」と一部の答弁には理解を示しながらも、「本気度が感じられない」と強い口調で批判した。これに茂木外相は、次のように反論した。

《北朝鮮自身はですね、コロナの感染者出ていないと言っているわけですよ、そして、現在、ワクチンが欲しいということも国際社会に示していない中でどうするか、という対応にはなると思います》

 森議員は「そんな評論家みたいな答弁を求めているわけじゃないんですよ」と重ねて。「ワクチンを提供ますとメッセージを出せばいいじゃないですか。とにかく動かないんだから」と再び自説を展開した。

 元毎日新聞の論説委員で北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授は、森議員の“提言”を「北朝鮮の実情を知らない人が、単なる思いつきを口にしただけです」と呆れる。

「北朝鮮はロシアや中国にさえ、『ワクチンを供与してほしい』と頼んではいません。日本がワクチンを一方的に北朝鮮へ送ると言えば、彼らは『毒でも入っているんじゃないか』と疑うのが普通でしょう。彼らは、プライドの高い民族です。日本の施しは受けないと反発する。韓国の前外務大臣は北朝鮮にコロナ被害があると述べて、北朝鮮から激しく批判されました。拉致問題の解決には全く役立ちませんし、これまでにも国会議員が思いつきの質問を口にしたことで議論が停滞したことが何度もありました」

幹部はワクチン確保?

 そもそも北朝鮮という国家の体制と文化を考えれば、「我が国にコロナ感染者はいない」という主張を、尊重した上での話をしないといけない。

「北朝鮮は、メンツと大義名分を重んじる国家です。コロナ感染者はいないと言っているのに、ワクチンを贈ると言えば、メンツが潰され大義名分を失います。蓮池さんが言うように、全般的な医療技術や医療支援なら応じるでしょう。その中にワクチンも入れるという方法はあるが、最初からワクチンと言えば『我々を嘘つきというのか』と怒ります。“王族”たる金ファミリーや、朝鮮労働党や軍部の幹部など、『国家にとって必要な人材』に打つワクチンは、とっくに入手しているという情報を流している人々もいます」(同・重村教授)

 世界各国が自国の防疫に懸命だということは、北朝鮮の内部情報を入手しようとする米中韓のスパイ活動が下火になることも意味する。

 中国も「北朝鮮どころではない」という場面が少なくない。

「もしコロナ禍がなければ、中国はバイデン政権非難への同調を強く求めたが、北朝鮮はバイデン政権非難を全くしません。中国の圧力を回避できた面もある。むしろコロナ禍は中国の圧力を抑え、米韓中露への内部情報流出を抑え、外の情報流入を遮断し国民コントロールしやすい好機です。人の流れが止まれば、監視も容易です。北朝鮮の内部事情は、私たちの常識で測れるものではないということを再認識する必要があると思います」(同・重村教授)

帝国主義的発想

 立憲民主党に所属する森議員は否定するだろうが、重村教授は「森さんのアイディアは実のところ、北朝鮮から帝国主義的な発想と批判されると思います」と指摘する。

自分たちより劣った国に善意の施しを与えるというのが、帝国主義の根幹を成す重要な一要素です。無知蒙昧な野蛮人を優れた民族が支配し、義務教育などの善政を施すというロジックです。森さんの“提言”は、北朝鮮の防疫事情を日本より劣っていると決めつけ、ワクチンを施せば言うことを聞くという発想であり、これこそが帝国主義なのです。まさに正真正銘の『上から目線』だからこそ、多くの人から批判されるのだと思います」

 野党第一党の幹部議員として、もっと重要な質問はいくらでもあるという。

「2002年、当時首相だった小泉純一郎さん(79)は平壌を電撃訪問しました。一部拉致被害者の帰国や日朝平壌宣言など成果もありましたが、北朝鮮が『日本は経済協力資金や国交正常化約束で我々を騙した、約束は実行されていないから信用できない』と恨んでいるのも事実です。北朝鮮の高官は「約束の書面を多くもらっている」と述べています。小泉外交の功罪は、まだ研究家の間でも不明な点が少なくありません。例えば森さんが特別委員会に秘密交渉をした田中均アジア局長(当時)を呼んで、どんな秘密約束をしたのかを問いただし、それを政府に履行させれば、拉致問題解決に役立つはずです」(同・重村教授)

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