「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和2年(2020)6月28日(日曜日)弐
書評
ここまで言ってもいいんかい。日本の回復の秘密は山のようにある
國際金融都市としての香港が駄目になれば、東京市場しかないではないか
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エミン・ユルマズ v 渡邊哲也
『アフターコロナ、日本がリードする世界の新秩序』(かや書房)
ユルマズ氏と言えば、トルコからやってきた天才的相場師。日経平均が30万円になるという大胆な予測で知られるが、楽観的世界観の持ち主ではないし、理詰めの思考が前提にあって氏独特な世界観を築いていることは、前作の『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する』でも十分に読み取れる。この本も小覧でまっさきに取り上げた。
カウンターパートの渡邊哲也氏に関しては、いまさら紹介の必要はないだろう。この二人が次の世界秩序をいかに見通しているのかは興味あるところだ。
日本経済が急回復する理由は国際舞台から中国が消えるからだとする。国連は要らないし、日米欧主導のG20が代替できるとするのも、理想とはいえ、まだ先の話ではないだろうか。
國際金融都市としての香港が駄目になれば、東京市場しかないではないか、と誰もが口にしないことを平然と言うのも、業界のしがらみがないからだろう。
エミン・ユルマズ氏は、現在世界に拡大中のコロナ禍は「百年に一度ではない、七百年に一度の悲劇である」と世界史のパースペクティブから予測を立てる。
なぜならエルサレムの聖墳墓教会が閉鎖されたからだ。
「イエス・キリストのお墓のあった場所に建てられた教会で、世界のキリスト教徒の聖地」だが「本格的な閉鎖は1349年のペスト禍以来、679年ぶり」(12p)。
話題はあちこちといきなり北米から南米へ飛び、中東、欧州を駆けめぐるが、ハリウッド映画の次の予測の箇所も興味深い。
リチャード・ギアは、チベット仏教徒、中国批判の映画に主演し、ずっと干されていたのだ。見えないけれども資本の圧力で中国が妨害され、映画に出演できないほどだった。ハリウッドはチャイナマネーに汚染されていた。
アメリカの中国への猛烈な批判がなされ、中国企業のウォール街上場から、アメリカの年金ファンドの中国株投資にまで怒りが集中、これでハリウッドが中国礼賛の映画を撮り続けることは感情的にも、財政的にも不可能となった。
さてエミン氏の大予言の肯綮は「日経平均は五年以内に五万円に到達する」(中略)「株価というのは先を見るので、コロナウィルス収束の兆しが見えれば、後から出来た数字が悪くとも上がるんですよ。これを「『不況下の株高』といいます」(178p)。
渡邊「アメリカの中国に対する戦略によって、ウォールストリートに上場している中国株は消えるんじゃないですか」
エミン「中国株から逃げたグローバルマネーが日本に来ればもっと上に行く」(つまり日経ダウは五万円を突破する)
二人は北朝鮮の挑発的横暴で、さすがに韓国も反米・反日はまずいと気がつき、日米の仲間にふたたび戻ってくるだろうと予測する。また香港が駄目になったらシンガポールがあるじゃないかという業界の予測に対しては「シンガポールは言論の自由のない、民主国家ではなく『明るい北朝鮮』だ」と否定的だ。
これ全編、希望と期待に溢れて愉しくなる本だが、ひとつ不満が残るのは、「日本初のクスリが世界を救う」という惹句があるのに、説明が少ないことだった。
悲観論が巷に溢れ、テレビのショーも新聞も、中国を非難しないで、安部の失政ばかりを報じるのは本末転倒、本質を見つめる作業が必要になるだろう。
したがってものごとの本質、世界の対極的流れを掌握する一助になる。