ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる

 

 

ハンコから脱却しても「電子署名」という遺物が日本のIT化を妨げる(野口 悠紀雄) @gendai_biz

基本的な問題は、20年前に施行された電子署名法が、その後の技術進歩を反映しておらず、古い技術を前提にしていることだ

法で想定されている電子署名は使いにくい

認証サービス者からいちいち認証を受けるのは面倒なので、この方式は実際にはあまり使われていない。実際に使われているのは、以下に述べる「クラウド型」と呼ばれるものだ。

署名と署名に必要な鍵をサーバーに保管し、全ての手続きがクラウド上で済む。本人確認も、メールアドレスや2段階認証を活用すれば短時間で済む。

電子契約利用企業の約80%がクラウド型を利用している

国内で8割のシェアを握る弁護士ドットコムの「クラウドサイン」などは、当事者同士が電子署名をしない「立会人型」と呼ばれる形式

立会人型の電子署名は有効か? 法務省の見解は揺れる

電子署名そのものが古い技術

この方式では、立会人である弁護士などに、真正性の証明を行なう権限を与えている。これは、公証人制度と似たものだ。

しかし、個人が行なう真正性の証明に全幅の信頼を寄せてよいかどうかは、疑問だ

また、この場合の本人確認はメールアドレスなどで行なわれているが、それで十分かどうかという疑問が残る。

エストニア方式を導入すべきだ

公開鍵暗号による電子署名の仕組み自体は、すでに確立された技術であり、仮想通貨を初めとして、インターネット上のさまざまな取引で広く用いられている。

問題は、「ある公開鍵を持っている個人(あるいは法人)と、実在する個人(あるいは法人)とが1対1に対応している」ということの証明なのだ(「公開鍵」とは、公開鍵暗号のシステムで用いられる数字と記号の組み合わせ)。

国民一人一人が「国民ID」(正確には、personal identification code。個人識別コード)という番号を待つ。

電子認証(本人確認)とサインをデジタルに行うために必要なのは、ICチップを埋め込んだeID カードだ。

専用のカードリーダーに差し込み、暗証番号を入力すると、完全に無料で、電子署名を行うことができる。

ブロックチェーン上に契約締結日などのタイムスタンプを記録することによって、改ざん防止を実現できる。また、電子署名を半永久的に記録することが可能となり、有効期限問題も解消している。

このため、インターネット接続環境とパソコン、カードリーダーさえあれば、あらゆる行政手続きを自宅やオフィスから行える。ほぼ100%の国民に普及している。

確定申告の95%、法人設立手続きの98%、薬の処方の99%がオンラインで行われている。

住民登録、年金や各種手当の申請、自動車の登録手続き、国民健康保険の手続き、運転免許の申請と更新、出生届提出や保育園・学校への入学申請、学校の成績表へのアクセス、銀行口座、病院の診療履歴へのアクセスもできる。

さらに、オンライン会社登記や電子投票などもできる

中国では、18桁の身分証番号を用いる身分証のシステムが、すでに1995年に導入されている。 記載項目は、氏名・性別・民族・生年月日・住所などだ。身分証番号は、生まれた日に決定され、終生不変の個人番号となる。満16歳になると、有形の身分証が交付される。

中国は、2019年10月に「暗号法」を制定した。これは、さまざまな目的に用いられる秘密鍵を国家が管理するための基礎を作るのが目的ではないかと想像される。

アメリカでは、SSN(Social Security Number:社会保障番号)が用いられている。アパートの賃貸契約や就労、免許証の取得など、アメリカで生活するにはさまざまな場面で必要とされる。これがなければ、満足に生活をすることができない。

 

マイナンバーを活用すべきだ

日本のマイナンバー制度も、本来は上記のようなことの実現を目指して導入されたものだ。

実際、内閣府の説明サイトをみると、つぎのように書いてある。

「それぞれの機関内では、住民票コード、基礎年金番号、医療保険被保険者番号など、それぞれの番号で個人の情報を管理しているため、機関をまたいだ情報のやりとりでは、氏名、住所などでの個人の特定に時間と労力を費やしていました。社会保障、税、災害対策の3分野について、分野横断的な共通の番号を導入することで、個人の特定を確実かつ迅速に行うことが可能になります」

要するに、実在する個人を、マイナンバーという単一の番号だけで把握することを可能にしようというのである。

これは、エストニアや中国の場合とまったく同じ目的だ。

ただし、マイナンバーの場合には、いまだにそれが孤立して存在しているだけで、他のシステムとの関連付けがなされていない。

このために、実際には何の役にも立たないものになっているのである。

今回の現金給付で、各地方公共団体が、オンラインで送られてきた申請データをプリントアウトし、住民基本台帳のデータとの突き合わせなどを手作業で行なわざるをえず、大変な苦労をしていると伝えられている。信じられないようなことだ。

マイナンバー制度は、何も役に立たないどころか、地方公共団体に余計な労力負担を掛けるだけの制度になってしまっている。

ちなみに、コロナ対策の一環としての現金給付において、アメリカはSSNを用いて迅速に行うことができた。

いま必要なことは、マイナンバー制度を基礎として、これを他の仕組みと有機的に連結させ、エストニアのような制度を確立することだ。

それにもかかわらず有識者会議は、新しい制度を作って屋上屋を重ねるようとしている

現在の電子署名のシステムには、すでに既得権益者が発生してしまっている。それらの人々の職を守るために、古いシステムから脱却できないというようなことはないだろうか?

このまま進むと、「ハンコ文化からは脱却できたものの、今度は別の迷宮入り」といった事態になりかねない。

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