にざかな酒店

夏の魔獣3

っていうか、あれ、今回割とシリアスだと思ったのに、こんな展開なの?の、三話で最終話です。そう、こういうことだったんですねー。ブラッディストワールドは意外と平和だ…。
夏の魔獣3

悲鳴。
「マゼンダ!?レミー、どうした」
扉を勢いよく開ける、と、マゼンダの胸の扉から、黒いシルエットのような獣、なんとなく蛇っぽくもあり、狼っぽくもある―――が、無理やり扉を広げて、出てこようとしていた。
「ななな何これ、どうなってるの」
ジタバタと暴れるのは、レミーも同じだが、この状況。
この、獣が出て行けば、マゼンダは死んでしまうだろう。獣はマゼンダの魂と激しく絡みついていて、マゼンダの一部だ。ここまでわかるのは、俺がグレイから魔王をもらったせい、なのだが。
獣がマゼンダを支配するか、もしくはマゼンダが獣を押さえつけるか、なのだが、なぜマゼンダから出て行こうとしているのか、この獣は。
「もしかして、これ―龍神様!?」
レミーには、これが龍神様に見えるのか。いや。
確かに、龍神様の仕業なら、なんとなくわかる。
「龍神様!やめろ!マゼンダからこの獣、とったら死んじゃうんだぞ!!」
「あれ、なんでわかったの」
しゅるん、と姿を現して、ちっちゃい龍、というか蛇というか、やっぱり龍神様か。
「姉さんが獣のままじゃ具合悪いってサラが言ってたからうまい具合に取れないかなと思ったんやけど…死んじゃうの?」
そんなキュルンとした瞳でいうなっつーねん。
「多分、死んじゃうからこの辺でやめとこ?な、龍神様?」
「でも悪の芽はつんどかないと、暴走したりしたらまたサラが迷惑被るしー」
何言ってんだ。イライラはするが、相手は神様だし下手に出るしかない、か。
「マゼンダは時々サラ助けたりしてるだろ?な、ちゃんとわかってくれよ。」
「ん、え、龍神様…?」
かすれた声で、マゼンダが呟く。
「マゼンダ、しっかりしろ。これ、龍神様の仕業だ。その獣、直せ。」
「これ、どうにかなるって―――」
自分の胸を、絶望的な面持ちで見つめる。
その間も、獣は咆哮をやめない。
「直しちゃダメだってば、出すのー」
「なおせなおせ、出ないと、お前―――死んじゃうぞ、本当」
俺の言葉に、マゼンダの目が光を取り戻す。決意の表情。
「あわわ、これちょっとグロいってこのまま止まってると。っていうか、直るものなの?」
レミーも怯えてるんだか冷静なんだかよく分からないコメントだ。
「そりゃ、兄も不死身なんだし、今更驚かないけど―――それにしても、すごいわ、これ」
そりゃ、胸から蛇っぽい狼のシルエット出てたらびっくりだよなあ…。今更、と、なぜか俺は我に返る。そういえば。
「そう、そうだよ、先にロッドの不死身なんとかしろよって、龍神様」
「ろったん?」んーと、という感じで龍神様は首をかしげる。
「ろったん、再生能力はすごいけど実は不死身じゃないぞあれ」
「なんてーーーー!?」
「いうても寿命はサラとそんなに変わらないからほっといてる」
な、なんだ、そっか。じゃない。獣だ獣。と、思ったらマゼンダは意外と善戦していて、獣はだいぶあと一押しくらいのところまで、直ってきていた。
「おとなしく、していなさい。迷惑なんてかけないのが。私、でしょう…!」
っていうか、と、腕でもろに獣を押しながら、いう。
「あなたが直らないと、龍神様にお仕置きできないじゃない…!!神様だからって、やりたい放題、何よあれ!!サラの安穏とした生活ごときのために私が死んでどうするのよって話よ」
あれ、マゼンダはマゼンダでえらい話になってる。
「何が何でも、この獣がいても普通の生活送るんだから!そのくらいの根性はあるわよ」
んーでも、ここは乗っといた方が良さそうだ。
「そうだぞ、龍神様。神様が良かれとしてしたことって、結構人間にはエライコッチャなんだからな。俺も魔王もらってるから、マゼンダに加勢しちゃうぞ。」
「え、ふえ?」
いつの間にか、マゼンダは余裕の笑顔だ。獣は扉の中へ、直って言ったらしい。
「そうそう、直ったところで、龍神様?ちょっと覚悟、よろしいかしら?」
「ひえ、ちょっと待って、わし、マゼンダのことも思ってこうしたのに~」
「言い訳無用!天誅!!」
「俺も便乗!てんちゅーーーー!!」
「わ、わーーーん神様悪者にしないでええー」

と、いう具合で、龍神様の珍しい悪行は、帰ってきたサラやロッドにも伝えられたようなのだが。
「わーん、ろったん、わしあの二人にいじめられたのー」
「いらんことしたんだろう!!何ヶ月前だった?お前、サラをいきなり14歳に戻したのは!!力戻した神だからって言って、いきなり積極的にいらんことするからだ、ぼけ!!」
と、泣きついたところでロッドにしっかりと叱られ、逆に龍神様は頭を下げさせられる羽目になったのだった。
「そうだよ、マゼンダ死ぬとこだったんだぞ」
俺の加勢の言葉に、ロッドが恐ろしく怖い顔で龍神様を覗き込む。
「何ぃ?」
「もう、龍神様なにしたのよー!神様って基本的には能動的にあれこれしちゃダメなんだよ!!おとなしく民衆を見守ってないと!」
「サラー、えーん」
「ちゃんと自白しなさい、したことを!したら、ちゃんと二級酒振舞ってあげるから」
「にきゅうしゅー?」
不満そうだな、龍神様。
「合成酒でいいだろ、サラ」冷たくロッドがいう。
「ダメだよ、合成酒だったら悪酔いしてまた悪いことしちゃうよ?」
「仕方ないな…」
とか言ってる二人の間で、エルムが「私がいない間になんでそんなことになってるのかしら、とにもう」とブツブツ言っている。
まあとりあえずの平和は訪れたようでホッとはしたが…、しかし知らん間にブライダル家でいきなりサラが14歳に戻されてたなんて、初耳だぞ。そんなこと知ってたらもうちょっと早く龍神様が危ないってわかってたのに、とにもう。本当に、情報のクローズドは危ないもんだなあ。
やばい系の情報は早く回してくれないと、困るぞ。
「まあそんなわけで、龍神はこっちでも叱っておくから、今日のところはこれまでにしておいてくれないか?悪かったな、マゼンダ、エルス。」
「監督よろしくお願いするわよ、本当。昨日はほんと疲れたわ。」
「んじゃ、快眠のおまじないかけてあげるー」
と、龍神様がやってきて、マゼンダにぽん、と叩かれた。
「懲りないのね?龍神様?」
ああ。怖いなあ。つか、もう色々みんな怒らすなよ、龍神様…。
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