日日之爺日

やほおが無くなったので、こちらで少し息抜きを

ブリトラさんの1日:その14

2020-12-14 13:08:28 | 夫庵多爺
会長の家を出てから、自分がどこに向かっているかも分からずに、ブリトラさんは歩く。
家には帰りたくなかった。でも、夕飯の支度をしなければ。
息子には何と言おう。正面から話そうか、話さずにそのままにしようか。
思い足取りでも、ブリトラさんはもう家の前に立っていた。
何かをしなければ、でも、今は何もできない。
ブリトラさんは、他に思い付くこともなく、なるべく笑顔でいようと心に決め、
玄関の鍵を開け、扉を開けた、少し震えながらも、
「ただいま。今からご飯準備するよ」と極力普段の気持ちになろうとしながら。

ブリトラさんの1日:その13

2020-12-14 12:53:38 | 夫庵多爺
「遊びに来た小学生か中学生がからかう時があるみたいです。」
「最初はちょっと声を掛けてただけみたいですが、口答えも抵抗もされない息子さんの様子を見て、段々と悪口が酷くなってきてる様です。」
ブリトラさんは、顔を上げ、会長さんの顔を見ていた。まじまじと見た。そこに何か答えがあって、何かを探している様だった。
会長さんは目線をそらし、「残念なことです、」とため息をついた。
「正直、どうすれば良いのか分かりません。」会長さんは声を震わせながら続けた。
「私があなたの立場だったとしても、どうするのがベストか分かりませんが、息子さんに暫く公園から離れて貰うのが良いかも知れません。」
ブリトラさんは、少し涙の溜った目を相手に悟られまいとしながら、ゆっくりと「そうですね、」と答えた。

ブリトラさんの1日:その12

2020-12-14 11:57:19 | 夫庵多爺
「本当に言いにくいことなんですが、」会長さんはもう一度そう言って、「この頃公園で」と続けた、
「子供を遊びに連れていってる奥様方から、何とかして欲しいと。」
ブリトラさんは、少し訳が分からずに目をパチクリさせる。
「お宅の息子さんが居られるでしょう。」
「はぁ、ウチに居りますが。」
「公園に散歩に行かれることもおありでしょう。」
「行くかも知れません。」
「子供たちの遊具のそばにいて、お見掛けした時に、お母さん方が声を掛けても、返事をされない様です。一部の方からは、気味が悪いと。」
ブリトラさんは、頭に湧いてくる公園での息子の悪いイメージを振りはらおうと、首を横に振った。
「それから、」会長さんは、少し間を置いてから言葉を続ける。
まだあるのかという気持ちで、ブリトラさんは拳を握る。

ブリトラさんの1日:その11

2020-12-10 13:23:39 | 夫庵多爺
「面倒なことでなければ良いが」と思いながら、ブリトラさんは、会長さんの後を無言で歩く。
会長さんの家に着き、居間に案内され、少し色褪せたソファに腰を下ろしながら、ブリトラさんは、
「何のお話でしょう?」と切り出す。
「お茶かコーヒーでも飲みますか?」と会長さん真面目な面持ちで、ゆっくりと質問をする。
「いいえ、夕飯を作らないといけないので、早めに帰りたいので。」ブリトラさんが答える。
ずっと僕を待ってたんだろうか、声には出さずに、ブリトラさんは会長の口元を見つめる。
少し間を置いて、「言い難いことなんだが」と会長さんが言い出すと、ブリトラさんはドキッとした。
何か非常に悪いことを知らなければいけないような、嫌な気持ちが湧きあがってきた。
ブリトラさんは目を逸らした。木製のテーブルの模様が見るともなくブリトラさんの目に映った。

ブリトラさんの1日:その10

2020-12-10 13:00:08 | 夫庵多爺
声の方向を向いたブリトラさんに、「町内会の会長の下田加ですが」と、男の声が続いた。
少し構えながら、暗がりの中の顔を見極めようと、ブリトラさんは見つめた。
「お話があるんですが、」会長さんは、顔を近付け小声にしながら言った。
「えっ」と、少し驚いて、ブリトラさんは「役員改選の時期でも無いのに、なんだろう」と思った。
「何のお話でしょうか?」丁寧に答える。
「私のところで、少し時間をいただけませんでしょうか?」会長さんは言った。
ちょっと不思議に思いながらも、ブリトラさんは門扉を開けながら「はい」と言った、「車を入れてから。」
会長さんは邪魔にならない様に、道の隅に避けた。
ブリトラさんは車を車庫に入れ、荷物を持って玄関の戸を開け、「ただいま」と2階に居るはずの息子に声を掛ける。
いつもの様に返事は無い。「ちょっと町内会の会長さんのとこに行ってくるから、夕飯待ってて。」
叫ぶ様に言っても、やっぱり返事は無い。玄関の扉の鍵を掛け、門扉を閉め、ブリトラさんは会長さんと共に歩き出す。