日本共産党明和支部が発行する「みんぽう明和」第81号(2013年7月号)に掲載された投稿をUPします。
「名張毒ぶどう酒事件」を覚えているだろうか。
1961年(昭和36年)、三重県名張市の葛尾という小さな村の毎年行われる懇親会で男性には日本酒、女性にはぶどう酒が振舞われ、そのぶどう酒を飲んだ女性15人が倒れ、内5人が亡くなった。
犯人とされたのはその時やはり妻を亡くした奥西勝死刑囚。
三角関係を清算するため妻と愛人の両方を毒殺することを計画し、懇親会の会場で一人になった時に農薬を入れたと自白した。いや、その後自白を強要されたとして無罪を主張し始めた。
この事件は物的証拠がほとんどなく自白だけが頼りの逮捕だった。
1964年(S39)津地方裁判所は無罪を言い渡した。
しかし検察側が控訴し、1969年(S44)名古屋高等裁判所は一審の無罪判決の破棄を言い渡し、1972年(S47)最高裁で死刑が確定した。
以来、日本国民救援会の支援や弁護団によって第7再審請求が出されたのが2002年(H14)。
奥西はすでに76才。これが最後かもしれないと弁護団は入れられた農薬がニッカリンTではないこと、1800個の王冠を復元し当時と同じ瓶と蓋をする器具を入手し、奥西が言った方法で開けてみる実験をした。
奥西が開けたとされる王冠のようになったものは一つもなかった。
2005年(H17)4月、名古屋高裁の小出裁判長は再審開始決定を下した。そしてこの裁判官は辞めた。
再び検察が異議申し立て。2006年(H18)12月、「原決定を取り消す、再審請求を取り消す」。
小出裁判長が認めた新証拠を全て否定した裁判長は翌年東京高裁に栄転した。
2010年(H22)弁護団の特別抗告により最高裁は毒物を詳しく検証するよう名古屋高裁に審理を差し戻したが、2012年(H24)五月、「毒物は奥西が自白した物と矛盾しない」と再審請求の取り消しを決定。
新証拠はやたらに出したわけではない。実験に実験を重ねた結果だ。
近年、足利事件、布川事件など無罪を勝ち取った事例もあるのだが。
事件からすでに52年。
奥西が自白したら証言をそれにあわせて翻した村人の何人も、無罪判決を下した一審の裁判長、死刑判決を下した二審の裁判長、初代の弁護団長など多くが亡くなっている。奥西の長男も。
映画「約束―名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯―」で奥西役を演じる仲代達矢、母親役の樹木希林などの好演で、見る者に司法とは何なのかを違和感なく考えさせてくれる。
いま奥西は病院のベットの上にいる。
弁護団長の鈴木弁護士は悔しさをにじませながら言った。
「裁判所というよりも、裁判官一人一人ですよ。奥西さんに死刑宣告し、その宣告を維持し続けた裁判官は50人以上。私は彼らの責任を問いたい」。
(明和町在住 一主婦)
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