3月18日日本糖尿病学会は『重要なお知らせ』と題し『日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言』を発表した。
http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=40
この提言に対する反論は下記URLを参照されたい。
江部Dr.のブログ
日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言への反論
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2456.html
糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言への反論(2)
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2457.html
Dr.カルピンチョのブログ
http://低糖質.com/review/cat10/post_76.html#comment-696
http://低糖質.com/review/cat22/post_160.html
以下、糖尿病学会からの重要なお知らせ
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重要なお知らせ
日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現状と課題~
2013年3月18日
一般社団法人日本糖尿病学会
理事長 門脇 孝
食事療法に関する委員会
委員長 宇都宮 一典
日本糖尿病学会では、日本人の糖尿病患者の食事療法についての考え方を指し示すため、2012年8月に「食事療法に関する委員会」を設置し、さまざまな検討を行って参りました。本委員会からの報告をもとに、学会内の学術評議員からのパブリックコメントや関連する他学会からのご意見などを参考にし、「糖尿病における食事療法の現状と課題」のとりまとめ(案)を作成しました。
それらを踏まえ、本学会では2013年3月17日に食事療法に関するシンポジウム「日本人にふさわしい糖尿病食事療法を考える~食品交換表の改訂に合わせて~」を開催し、意見交換の場として学会内外からの参加を募り、関連する学会代表者とのパネル・ディスカッションなどでの活発な討論でのご意見も反映し、公表致しました。その内容を以下に掲載致します。
本学会は、本提言内容を会誌にも公開するとともに、提言にもあるように、今後食事療法に関する更なるエビデンスの構築に努めていく所存です。
日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言.pdf
http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_E697A5E69CACE4BABAE381AEE7B396E5B0BFE79785E381AEE9A39FE4BA8BE79982E6B395E381ABE996A2E38199E3828BE697A5E69CACE7B396E5B0BFE79785E5ADA6E4BC9AE381AEE68F90E8A8802E706466
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提言(PDF)の内容は以下の通り。
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【PRESS RELEASE 】日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言
糖尿病における 食事療法の現状と課題
2013 年3月
日本糖尿病学会
(はじめに)
現在の我が国における2型糖尿病の増加は 、インスリン分泌能の低下をきたしやすい体質的素因の上に、内臓脂肪蓄積型肥満によるインスリン抵抗性状態 が加わったこと に起因するところが大きい と言われている 。その原因は、戦後の我が国における生活習慣 の変化、身体活動度の低下に加え、 特に脂質を中心とする栄養摂取のバランスの 崩れにあると考えられている。2型糖尿病の予防と治療 には、生活習慣の是正が 第一義的な意味を有する。
日本糖尿病学会は 当初から食事療法を重視し、その実効性 を高める目的で糖尿病食事療法のための食品交換表(食品交換表) の策定に早くから取り組み、今日まで改訂を重ねてきた。
一方 で、食に対する価値観 や食品・食習慣・食環境は、 日々多様化してきており 、食事指導においても、より柔軟に患者の病態や嗜好 性などに対応することが必要となってきている。また、日本人の2型糖尿病の病態が大きく変貌しつつあること も鑑み、適正な栄養素摂取の在り方とその指導法について、 継続的に検討を加えていかなければならない 。
最近では、炭水化物について、 血糖に対する直接的な影響 ばかりでなく、肥満の是正 に対する効果などからその摂取量に関心 が高まっているが、各栄養素の意義はエネルギー代謝 に関する包括的な視野に立って評価すべきであり 、決して個々 の栄養素に限定して 論じることはできない。
インスリン作用不足 を主病態とする 糖尿病にあって は、その治療的意義はより慎重に論議されなければならない。 かかる認識に立って 本学会は、我が国及び各国の栄養素摂取量の現状 も踏まえて、糖尿病における食事療法に在り方について、 提言を行うものである。
1. 我が国の一般人口 における栄養 素摂取量の現況
日本人の総エネルギーと各栄養素の摂取量は、戦後大きく変化してきた。 2型糖尿病の有病率には経済成長に伴う諸種の 要因が関与しているが 、食習慣の変貌が 日本人の肥満を 増加させ、その結果、糖尿病患者の増加に至っていることは 論を待たない。 国民健康・栄養調査によれば、1960 年代に比較して、 日本人の総エネルギー摂取量は、次第に減少に転じており、2010 年の調査では、平均 1840kcal とされている。
一方、 三大栄養素の摂取量をみると、炭水化物の摂取量は減少し、 脂質の摂取量が増加し、 2010 年の調査では 炭水化物と 脂質のエネルギー比率はそれぞれ 59.4% 、25.9% とされている( 1 )。また、食塩摂取量は減少し、2010 年には平均10.6g/ 日となっている。 この他、食物繊維摂取量の低下などが指摘できるが、際立った特徴は脂質摂取量の増加である 。脂質栄養の変化が疾患動態に密接に関係することは、 沖縄県の事例に顕著に現れている。
沖縄県は従来、我が国の最長寿県とされてきたが、生活環境の欧米化に伴ってその 地位を落とした。その主たる原因は心血管疾患 の増加にあるが、 この間に肥満者の割合は全国でトップとなった。 平成18年の調査で栄養摂取状況を全国平均と比較すると、総エネルギ ー摂取量には差はないが、 脂肪エネルギー比率が25%以上の者の割合 は男女ともに60% を越えており、 全国平均の40~50% をはるかに上回っている( 2 )。
この間の交通手段の発達などによる身体活動の低下 に加えて、 このような脂質栄養の過剰摂取 が日本人における肥満そして糖尿病の増加に大きく関与して いるのではないかと考えられており 、糖尿病の予防の観点から も対処すべき大きな 栄養学的課題となっている。
健康な個人または集団を対象として、国民の健康の維持・増進 、生活習慣病の予防を目的とし、総エネルギー及び各栄養素の摂取 量の基準を示したものが 、「日本人の食事摂取基準(2010 年度版)」である( 3 )。推定エネルギー必要量を基礎代謝量 kcal/ 日×身体活動レベルとし、炭水化物摂取量は概ね 50~70% エネルギー未満を推奨し ている。
また、 この食事摂取基準では健常人の 消化性炭水化物の最低必要量は その基礎代謝量の20% とし、およそ100 g/ 日と推計している 。たんぱく質摂取量については推定 平均必要量を0.72g/kg/ 日とし、明確な上限の設定はないが 、2.0g/kg 体重/日未満に留めることが適当であるとしている 。脂質摂取量 は30歳以上では25%エネルギーを上限としている。これらの 健常人に対する 基準は、我が国のデータや海外の文献に基づいて算出されており、 コンセンサスとしての社会的価値も高い。しかしながら、疾病を有する個人または集団に 対して、必ずしもそのままあてはめてよいとは言えない。
2. 糖尿病における栄養摂取指針に関する現況
1)2型糖尿病における食事療法の意義
2型糖尿病における食事療法は、 総エネルギー摂取量 の適正化によって肥満 を解消し、インスリン作用からみた需要と供給のバランスを 円滑にし、高血糖のみならず 糖尿病の種々の病態を是正することを目的としている。 インスリンの作用は糖代謝のみならず、脂質ならびに蛋白質代謝など多岐に及んでおり、 これらは相互に密接な連関をもつことから、 食事療法を実践するにあたっては、 個々の病態に合わせ、 高血糖のみならず 、あらゆる側面からその妥当性が検証されなければならない。
さらに、長期にわたる継続を可能にするためには、安全性とともに 我が国の食文化あるいは患者の嗜好性に 対する配慮が必須である。諸外国においても 、生活習慣の介入による 肥満の是正を重要視し、そのために総エネルギーを調整し、合併症に対する配慮の上で三大栄養 素のバランスを図ることが推奨されている。
しかし、各栄養素についての 推定必要量 の規定はあっても、 相互の関係に基づく適正比率を一意に定めるに 十分なエビデンスに乏しい。このため、 三大栄養素のバランスの目安は健常人の平均摂取量 に基づいているの が現状である が、糖尿病では 動脈硬化性疾患や糖尿病腎症など 種々の臓器障害を合併することから、 予防のためのそれぞれの食事療法が設定されており、 その中で栄養素摂取比率を勘案することが求められている。
2)栄養素摂取比率 について
諸外国における2型糖尿病の推奨栄養素 摂取比率(%エネルギー)の目安は、以前には、概
ね炭水化物45~60% 、脂質25~35%、たんぱく質10~20% とされることが多く 、メタ解析により炭水化物55% 以上、脂質30% 未満、たんぱく質12~16%を推奨値とする報告もある( 4 )。
一方、最近では、炭水化物の最低 必要量のみを定めるものや、特に一定の数値を示さないガイドラインも見られるようになってきている ( 5, 6 )。欧米と比較して脂質摂取量の少ない我が国では、 従来から脂肪エネルギー比率 の上限として25% を採用することが一般的であり、動脈硬化性疾患 予防ガイドライン2012 年度版は20~25%にすべきであるとしている( 7 )。
この値は、我が国の 実情にほぼ即しているといえるが、動物性脂肪に比して植物性脂肪を増加させた場合の 総脂質摂取量の上限などについては、 さらに検討の余地がある。日本糖尿病学会による 糖尿病治療ガイドでは、 たんぱく質を標準体重1kg 当たり1.0~1.2g (50~80 g/ 日)とするよう指示している ( 8 )。摂取比率としては 20%以下になり、諸外国の推奨値とほぼ一致している。 たんぱく質の上限 設定については従来、腎臓への負荷が懸念されている。腎障害がない場 合、たんぱく質の過剰摂取が腎症発症のリスクになるとする明確なエビデンスはない が、たんぱく質摂取量と心血管疾患発症率との間に相関が
あるとする報告がある ( 9 )。
米国糖尿病学会 は、糖尿病における たんぱく質の摂取比率は20% 以下にすべきであると し、その根拠として 、合併症に対する長期的な影響が確認されていないことをあげている ( 10 )。
このようにみると、 糖尿病に推奨される 炭水化物の摂取比率は、 脂質ならびにたんぱく質の推奨摂取比率からも制約を受け、 50~60% と計算される。実際にその値は日本人の一般的な栄養素摂取比率に合致することから、嗜好性あるいは 遵守性を担保すると理解されてきたと言えよう 。社会的なコンセンサスを得る 点においても、これは妥当と言える 。
しかしながら、日本人の糖尿病の 病態の変化や 今日の食に対する価値観の多様性 を踏まえて、我が国における新たなエビデンスを構築していかなければならない。
3. 糖尿病治療における炭水化物 制限の意義と課題
2型糖尿病の治療には、体重の適正化が第一義的な意味をもつ。 肥満者の減量を目的とした食事療法について、 主として脂質を制限すべきか炭水化物 を制限すべきか、 欧米では歴史的に長い論議 がある。これは、炭水化物 摂取量を50g/ 日以下とするアトキン スダイエットの是非 論に象徴されているが、 2003 年のFoster らの報告( 11 )、2004 年のStern らの報告( 12 )は、国際的な一流誌に 掲載されたことから 注目を浴びた。
両研究ともに 、BMI30 以上の肥満者に50~60g/日を目指す炭水化物制限を指導し、エネルギーを自由に摂取させたところ、総エネルギー制限と脂質制限を指導した群より 6ヵ月目で有意な体重減少をきたしたとしている。
しかし、2006 年に報告されたメタ解析は、低炭水化物食は6ヵ月までに有意な体重減少をもたらすが、1年で両群に差はなくなり、 低炭水化物食 では血中LDL コレステロールの増加をきたすと指摘している ( 13 )。低炭水化物食の 長期効果を見出し得なかった理由と
て、症例数の少なさと 30~50% におよぶ高い脱落率をあげている。 また、炭水化物のみを 制限し、エネルギー を自由に摂取させたとしている 研究の多くは 、総エネルギー摂取 量に関する記載に乏しいことに留意する必要がある。
実際、 Stern らの報告( 12 )では総エネルギー摂取量 が低下しており、「総エネルギー摂取量は 過剰であっても、炭 水化物さえ制限すれば減量効果がある」という 解釈は短絡的である。また、 いずれの研究も 観察期間が短く、脱落例が多いため、 intent ion -to-treat 解析による有意差の検出は困難となっている。
血中脂質異常については、その後悪影響はないとする報告も出されている。しかし、 全例、血清クレアチニンの上昇例は除外しているので、腎機能障害例についての有効性・安全性は確認されていない。さらに、炭水化物を制限することによって起きる、たんぱく質あるいは脂質摂取増加の影響が調整されていない。これらの点は、食事療法研究に一般的 に内在する課題でもある。
2008 年に報告された DIRECT 研究では、低脂肪食、低炭水化物食そして地中海食の体重減量効果を2年間にわたって追跡している 。低炭水化物食においては 、炭水化物摂取量 が最大 120g/ 日以下になるよう段階的に指導し、実際の炭水化物の 摂取比率は40%エネルギー強と従来の研究に比較して 緩やかで、脱落率も20%を下回っている。
本研究では2年間を通し、低脂肪食に比較して地中海食と低炭水化物食では減量効果が優っていたとし 、両群では血中脂質やインスリン抵抗性が改善したとしている ( 14 )。本研究は最近 、その後4年間の観察をまとめ、研究終了後にそのまま の食事療法を維持したものでは、研究終了時の傾向が残っていたと報じている ( 15 )。
2012 年にDiabetes Care 誌に掲載されたsystematic review は、2001 年から2010 年にかけて発表された炭水化物摂取量と血糖ならびに心血管 疾患発症リスクに関する研究を網羅している( 16 )。本論文では、これまでの研究に は多くの交絡因子があり、 特定の栄養素の糖尿病状態に及ぼす 影響を見出すことは 困難であることを指摘している。
その中で、炭水化物の摂取量を70g/ 日以下もしくは摂取比率を40% エネルギー以下とした制限食に関する研究の要約として 、炭水化物制限が 高血糖ならびにインスリン感受性の改善をもたらすとしながらも、いずれも症例数と観察期間が不十分であって 脱落率が高 く、無作為化されていない研究もあること など、エビデンスとしての質的な問題点 を指摘している 。
また、炭水化物の摂取比率 を40~65% ないしは65% 以上とした食事療法に関する研究 の要約として、観察期間や他の栄養素の摂取比率が多様であり、 炭水化物の摂取比率がもたらすHbA1cの変化は一致し ていないことを指摘している。 能登らは最近 、炭水化物摂取量と心血管疾患のリスクならびに死亡率との関係について 従来の研究のメタ解析を行い、低炭水化物食では心血管疾患のリスクは低減せず、総死亡率は有意に 増加したと報告している ( 17 )。
そして、英国糖尿病学会の 2011 年のガイドラインは、2型糖尿病における血糖ならびに体重の是正における炭水化物制限の意義につき、最近これを支持する報告があることを認めながらも、長期的な効果と安全性について のエビデンスのないことに注意を喚起している( 5 )。
米国糖尿病 学会による2013年のstatementは、肥満者の減量を図るためには、低炭水化物食、低脂肪食あるいは地中海食は、短期間 (2年間まで)では有効であるかもしれないとしている( 6 )。但し、最適の栄養素摂取比率は病態によって異なり、栄養素摂取比率に関わらず、総エネルギー摂取量の適正化を優先すべき であると述べている。
4. 糖尿病における食事療法の 在り方と課題
以上の現状認識 を踏まえ、以下を提言としてまとめる 。
1) 糖尿病における炭水化物 摂取について
肥満の是正は、糖尿病の予防ならびに治療において重要な意義を有する。 体重の適正化を図るためには、運動療法とともに積極的な食事療法を指導すべきであ り、総エネルギー摂取量 の制限 を最 優先とする。総エネルギー摂取量 を制限せずに、 炭水化物のみを 極端に制限して減量を図ることは 、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など 重要な点について これを担保するエビデンスが不足しており、現時点では薦められない。
特に、インスリン作用が著しく不足した 状態において想定される、体たんぱく異化亢進などの栄養学的問題 は、これを避けなければならない。一方で 、先に述べたように、体重を効果的に減量させるための 一つの手段として 炭水化物摂取量について論議がなされている。しかし、 欧米の研究においては対象となる BMI は30~35以上のことが多く、肥満度の異なる日本人の糖尿病 の病態に立脚した 適正な炭水化物 摂取量については、いまだ十分なエビデンスが揃っているとは言えない。
社会的なコンセンサス を得る上においても、今後日本糖尿病学会として 積極的に調査・研究の対象とすべき課題である。
2) 栄養素摂取比率について
糖尿病における 三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、 炭水化物50~60% エネルギー( 150 g/日以上 )、たんぱく質20% エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする。この炭水化物の推奨摂取比率は、現在の日本人の平均摂取 比率がこの範囲にあり、他の栄養素との関係からも妥当と考えられる が、糖尿病腎症などの合併症の有無や他の栄養素 の摂取比率・総エネルギー摂取量 との関係の中 で、炭水化物の摂取比率を 増減させること を考慮しても良い。
例えば、身体活動量が多い場合には 、炭水化物の摂取比率を 60% エネルギー以上に高めることも考慮されるが、食後高血糖 や単純糖質の過剰摂取 などには十分な注意が必要である。一方、 腎障害や脂質異常症の有無に留意して、 たんぱく質、脂質の摂取量を勘案し、大きな齟齬がなければ、患者の嗜好性 や病態に応じて 炭水化物の摂取比率が 50%エネルギーを下回ることもありうる。
また、脂質摂取量の変化とともに糖尿病が増加してること、糖尿病が心血管疾患の 大きな危険因子であることから、 脂質摂取比率の上限は可能な限り25%エネルギーとするが、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やし、トランス脂肪酸の摂取を抑えるなど、脂肪酸構成にも十分な配慮が 必要であり、その場合の総脂質摂取量については検討を要する 。
たんぱく質については、糖尿病患者の高齢化に伴い、潜在的な腎障害の合併例が増していることに 留意し、CKD にあってはその指針に従う ( 18 )。また、炭水化物摂取 量の多寡によらず、食物繊維は 20g/ 日以上の摂取を促す。 食塩制限は、高血圧合併例では6g/日未満とする。 これらの基準は2型糖尿病を対象としたものであって、1型糖尿病では病態に合わせて別個に検討 を要する。
(結語)
生活習慣病の食事療法を論じるに際しては、日本人の身体活動度の変化と、食生活の変容を総合的に考慮しなければならない。その上で、 患者が家族をはじめとする社会生活の中で、食を楽しみながら食事療法を実践・継続していくことを勘案すると、現時点では日本人がこれまで 培ってきた伝統的な食文化を基軸に して、かつ現在の食生活の変化にも柔軟に対応していくことが重要である。
また、日本人の糖尿病の病態 が欧米化しつつある現在、日本人の病態と嗜好 性に相応しい食事療法の継続的な検討が必要である。 食事療法は実行され、継続できなければ意味をなさない。 栄養素組成のみ にとどまらず、食事療法の実践を促すマテリアルあるいは チームケアの在り方 についても、 さらに調査・研究を要する。
食事療法は、患者の病態・嗜好 性に応じて、医師・管理栄養士などの医療従事者が患者と共に考え、それが有効かつ安全に実践されていることを常にモニターしていく必要があり、その中から、新しいエビデンスを構築していかなければならない。
(文献)
1. 厚生労働省 平成22年国民健康・栄養調査結果の概要
2. 平成18年度沖縄県民健康・栄養調査成績 . 沖縄県福祉健康部、平成 20年.
3. 厚生労働省:日本人の食事摂取基準 2010 年版,第一出版, 2010 年
4. Anderson JW, Randles KM, Kendall CWC, et al : Carbohydrate and fiber recommendations for individuals with diabetes: A quantitative assessment and meta -analysis of evidence. J Am Coll Nutr 23: 5 -17, 2004
5. Evidence -based nutrition guideline for the prevention and management of diabetes, www.diabetes.org.uk/nutrituion -guidelines . 2011
6. Standards of Medical Care in Diabetes 2013 Diabetes Care 36(Supple1), 2013
7. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版、日本動脈硬化学会、 2012 年
8. 糖尿病治療ガイド 2012 -2013 、日本糖尿病学会、 2012 年
9. Halbesma N, Bakker SL, Gansevoort RT, et al: High protein intake associates with c ardiovascular events but not with Loss of Renal Function . J Am SocNephrol 20: 1797 ?1804, 2009.
10. Nutrition Recommendations and Interventi on for Diabetes. A position statemen t of ADA. Diabetes Care, 31 : s61 -78, 2008
11. Foster GD, Wyatt HR, Klein S, et al: A randomized trial of a low -carbohydrate diet for o besity . N Engl J Med 348:2082 -2090, 2003
12. Stern L, Iqbal N, Seshadri P, Chicano KL, et al: The effects of low -carbohyd rate versus
conventional weight loss diets in severely obese adults: One -year follow -up of a randomized trial. Annals Intern Med 140: 778 -786, 2004
13. Nordmann AJ, A Nordmann, M Briel, et al: Effects of low -carbohydrate vs low -fat diets on weight loss and cardiovascular risk factors: A meta -analysis of randomized controlled t rials. Arch Intern Med 166: 285 -293, 2006
14. Shai I, Schwarzfuchs D, Henkin Y, et al : Weight loss with a Low -Carbohydrate, Mediterranean, or Low -Fat Diet : Dietary Intervention Rando mized Controlled Trial (DIRECT )Group. N Engl J Med 359: 229 -241, 2008
15. Schwarzfuchs D, Golan R, Shai I : Four -year follow -up after two -year di etary interventions . N Engl J Med 367: 1373 -1374, 2012
16. Wheeler ML, Mayer -Davis EJ, Karmally W, et al. Macro nutrients, food groups, and eating patterns in the management of diabetes. A systematic review of the literature 2010, Diabetes Care 35:434 -445, 2012
17. Noto H, Goto A, Noda M, et al. Low -carbohydrate diets and all -cause mortality: A systemic review and m eta-analysis of observational studies. PLoS ONE 8(1):e5503 0, 2013
18. CKD 診療ガイド2012 、日本腎臓学会、 2012 年
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この提言に対する反論は下記URLを参照されたい。
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日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言への反論
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重要なお知らせ
日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言 ~糖尿病における食事療法の現状と課題~
2013年3月18日
一般社団法人日本糖尿病学会
理事長 門脇 孝
食事療法に関する委員会
委員長 宇都宮 一典
日本糖尿病学会では、日本人の糖尿病患者の食事療法についての考え方を指し示すため、2012年8月に「食事療法に関する委員会」を設置し、さまざまな検討を行って参りました。本委員会からの報告をもとに、学会内の学術評議員からのパブリックコメントや関連する他学会からのご意見などを参考にし、「糖尿病における食事療法の現状と課題」のとりまとめ(案)を作成しました。
それらを踏まえ、本学会では2013年3月17日に食事療法に関するシンポジウム「日本人にふさわしい糖尿病食事療法を考える~食品交換表の改訂に合わせて~」を開催し、意見交換の場として学会内外からの参加を募り、関連する学会代表者とのパネル・ディスカッションなどでの活発な討論でのご意見も反映し、公表致しました。その内容を以下に掲載致します。
本学会は、本提言内容を会誌にも公開するとともに、提言にもあるように、今後食事療法に関する更なるエビデンスの構築に努めていく所存です。
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提言(PDF)の内容は以下の通り。
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【PRESS RELEASE 】日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言
糖尿病における 食事療法の現状と課題
2013 年3月
日本糖尿病学会
(はじめに)
現在の我が国における2型糖尿病の増加は 、インスリン分泌能の低下をきたしやすい体質的素因の上に、内臓脂肪蓄積型肥満によるインスリン抵抗性状態 が加わったこと に起因するところが大きい と言われている 。その原因は、戦後の我が国における生活習慣 の変化、身体活動度の低下に加え、 特に脂質を中心とする栄養摂取のバランスの 崩れにあると考えられている。2型糖尿病の予防と治療 には、生活習慣の是正が 第一義的な意味を有する。
日本糖尿病学会は 当初から食事療法を重視し、その実効性 を高める目的で糖尿病食事療法のための食品交換表(食品交換表) の策定に早くから取り組み、今日まで改訂を重ねてきた。
一方 で、食に対する価値観 や食品・食習慣・食環境は、 日々多様化してきており 、食事指導においても、より柔軟に患者の病態や嗜好 性などに対応することが必要となってきている。また、日本人の2型糖尿病の病態が大きく変貌しつつあること も鑑み、適正な栄養素摂取の在り方とその指導法について、 継続的に検討を加えていかなければならない 。
最近では、炭水化物について、 血糖に対する直接的な影響 ばかりでなく、肥満の是正 に対する効果などからその摂取量に関心 が高まっているが、各栄養素の意義はエネルギー代謝 に関する包括的な視野に立って評価すべきであり 、決して個々 の栄養素に限定して 論じることはできない。
インスリン作用不足 を主病態とする 糖尿病にあって は、その治療的意義はより慎重に論議されなければならない。 かかる認識に立って 本学会は、我が国及び各国の栄養素摂取量の現状 も踏まえて、糖尿病における食事療法に在り方について、 提言を行うものである。
1. 我が国の一般人口 における栄養 素摂取量の現況
日本人の総エネルギーと各栄養素の摂取量は、戦後大きく変化してきた。 2型糖尿病の有病率には経済成長に伴う諸種の 要因が関与しているが 、食習慣の変貌が 日本人の肥満を 増加させ、その結果、糖尿病患者の増加に至っていることは 論を待たない。 国民健康・栄養調査によれば、1960 年代に比較して、 日本人の総エネルギー摂取量は、次第に減少に転じており、2010 年の調査では、平均 1840kcal とされている。
一方、 三大栄養素の摂取量をみると、炭水化物の摂取量は減少し、 脂質の摂取量が増加し、 2010 年の調査では 炭水化物と 脂質のエネルギー比率はそれぞれ 59.4% 、25.9% とされている( 1 )。また、食塩摂取量は減少し、2010 年には平均10.6g/ 日となっている。 この他、食物繊維摂取量の低下などが指摘できるが、際立った特徴は脂質摂取量の増加である 。脂質栄養の変化が疾患動態に密接に関係することは、 沖縄県の事例に顕著に現れている。
沖縄県は従来、我が国の最長寿県とされてきたが、生活環境の欧米化に伴ってその 地位を落とした。その主たる原因は心血管疾患 の増加にあるが、 この間に肥満者の割合は全国でトップとなった。 平成18年の調査で栄養摂取状況を全国平均と比較すると、総エネルギ ー摂取量には差はないが、 脂肪エネルギー比率が25%以上の者の割合 は男女ともに60% を越えており、 全国平均の40~50% をはるかに上回っている( 2 )。
この間の交通手段の発達などによる身体活動の低下 に加えて、 このような脂質栄養の過剰摂取 が日本人における肥満そして糖尿病の増加に大きく関与して いるのではないかと考えられており 、糖尿病の予防の観点から も対処すべき大きな 栄養学的課題となっている。
健康な個人または集団を対象として、国民の健康の維持・増進 、生活習慣病の予防を目的とし、総エネルギー及び各栄養素の摂取 量の基準を示したものが 、「日本人の食事摂取基準(2010 年度版)」である( 3 )。推定エネルギー必要量を基礎代謝量 kcal/ 日×身体活動レベルとし、炭水化物摂取量は概ね 50~70% エネルギー未満を推奨し ている。
また、 この食事摂取基準では健常人の 消化性炭水化物の最低必要量は その基礎代謝量の20% とし、およそ100 g/ 日と推計している 。たんぱく質摂取量については推定 平均必要量を0.72g/kg/ 日とし、明確な上限の設定はないが 、2.0g/kg 体重/日未満に留めることが適当であるとしている 。脂質摂取量 は30歳以上では25%エネルギーを上限としている。これらの 健常人に対する 基準は、我が国のデータや海外の文献に基づいて算出されており、 コンセンサスとしての社会的価値も高い。しかしながら、疾病を有する個人または集団に 対して、必ずしもそのままあてはめてよいとは言えない。
2. 糖尿病における栄養摂取指針に関する現況
1)2型糖尿病における食事療法の意義
2型糖尿病における食事療法は、 総エネルギー摂取量 の適正化によって肥満 を解消し、インスリン作用からみた需要と供給のバランスを 円滑にし、高血糖のみならず 糖尿病の種々の病態を是正することを目的としている。 インスリンの作用は糖代謝のみならず、脂質ならびに蛋白質代謝など多岐に及んでおり、 これらは相互に密接な連関をもつことから、 食事療法を実践するにあたっては、 個々の病態に合わせ、 高血糖のみならず 、あらゆる側面からその妥当性が検証されなければならない。
さらに、長期にわたる継続を可能にするためには、安全性とともに 我が国の食文化あるいは患者の嗜好性に 対する配慮が必須である。諸外国においても 、生活習慣の介入による 肥満の是正を重要視し、そのために総エネルギーを調整し、合併症に対する配慮の上で三大栄養 素のバランスを図ることが推奨されている。
しかし、各栄養素についての 推定必要量 の規定はあっても、 相互の関係に基づく適正比率を一意に定めるに 十分なエビデンスに乏しい。このため、 三大栄養素のバランスの目安は健常人の平均摂取量 に基づいているの が現状である が、糖尿病では 動脈硬化性疾患や糖尿病腎症など 種々の臓器障害を合併することから、 予防のためのそれぞれの食事療法が設定されており、 その中で栄養素摂取比率を勘案することが求められている。
2)栄養素摂取比率 について
諸外国における2型糖尿病の推奨栄養素 摂取比率(%エネルギー)の目安は、以前には、概
ね炭水化物45~60% 、脂質25~35%、たんぱく質10~20% とされることが多く 、メタ解析により炭水化物55% 以上、脂質30% 未満、たんぱく質12~16%を推奨値とする報告もある( 4 )。
一方、最近では、炭水化物の最低 必要量のみを定めるものや、特に一定の数値を示さないガイドラインも見られるようになってきている ( 5, 6 )。欧米と比較して脂質摂取量の少ない我が国では、 従来から脂肪エネルギー比率 の上限として25% を採用することが一般的であり、動脈硬化性疾患 予防ガイドライン2012 年度版は20~25%にすべきであるとしている( 7 )。
この値は、我が国の 実情にほぼ即しているといえるが、動物性脂肪に比して植物性脂肪を増加させた場合の 総脂質摂取量の上限などについては、 さらに検討の余地がある。日本糖尿病学会による 糖尿病治療ガイドでは、 たんぱく質を標準体重1kg 当たり1.0~1.2g (50~80 g/ 日)とするよう指示している ( 8 )。摂取比率としては 20%以下になり、諸外国の推奨値とほぼ一致している。 たんぱく質の上限 設定については従来、腎臓への負荷が懸念されている。腎障害がない場 合、たんぱく質の過剰摂取が腎症発症のリスクになるとする明確なエビデンスはない が、たんぱく質摂取量と心血管疾患発症率との間に相関が
あるとする報告がある ( 9 )。
米国糖尿病学会 は、糖尿病における たんぱく質の摂取比率は20% 以下にすべきであると し、その根拠として 、合併症に対する長期的な影響が確認されていないことをあげている ( 10 )。
このようにみると、 糖尿病に推奨される 炭水化物の摂取比率は、 脂質ならびにたんぱく質の推奨摂取比率からも制約を受け、 50~60% と計算される。実際にその値は日本人の一般的な栄養素摂取比率に合致することから、嗜好性あるいは 遵守性を担保すると理解されてきたと言えよう 。社会的なコンセンサスを得る 点においても、これは妥当と言える 。
しかしながら、日本人の糖尿病の 病態の変化や 今日の食に対する価値観の多様性 を踏まえて、我が国における新たなエビデンスを構築していかなければならない。
3. 糖尿病治療における炭水化物 制限の意義と課題
2型糖尿病の治療には、体重の適正化が第一義的な意味をもつ。 肥満者の減量を目的とした食事療法について、 主として脂質を制限すべきか炭水化物 を制限すべきか、 欧米では歴史的に長い論議 がある。これは、炭水化物 摂取量を50g/ 日以下とするアトキン スダイエットの是非 論に象徴されているが、 2003 年のFoster らの報告( 11 )、2004 年のStern らの報告( 12 )は、国際的な一流誌に 掲載されたことから 注目を浴びた。
両研究ともに 、BMI30 以上の肥満者に50~60g/日を目指す炭水化物制限を指導し、エネルギーを自由に摂取させたところ、総エネルギー制限と脂質制限を指導した群より 6ヵ月目で有意な体重減少をきたしたとしている。
しかし、2006 年に報告されたメタ解析は、低炭水化物食は6ヵ月までに有意な体重減少をもたらすが、1年で両群に差はなくなり、 低炭水化物食 では血中LDL コレステロールの増加をきたすと指摘している ( 13 )。低炭水化物食の 長期効果を見出し得なかった理由と
て、症例数の少なさと 30~50% におよぶ高い脱落率をあげている。 また、炭水化物のみを 制限し、エネルギー を自由に摂取させたとしている 研究の多くは 、総エネルギー摂取 量に関する記載に乏しいことに留意する必要がある。
実際、 Stern らの報告( 12 )では総エネルギー摂取量 が低下しており、「総エネルギー摂取量は 過剰であっても、炭 水化物さえ制限すれば減量効果がある」という 解釈は短絡的である。また、 いずれの研究も 観察期間が短く、脱落例が多いため、 intent ion -to-treat 解析による有意差の検出は困難となっている。
血中脂質異常については、その後悪影響はないとする報告も出されている。しかし、 全例、血清クレアチニンの上昇例は除外しているので、腎機能障害例についての有効性・安全性は確認されていない。さらに、炭水化物を制限することによって起きる、たんぱく質あるいは脂質摂取増加の影響が調整されていない。これらの点は、食事療法研究に一般的 に内在する課題でもある。
2008 年に報告された DIRECT 研究では、低脂肪食、低炭水化物食そして地中海食の体重減量効果を2年間にわたって追跡している 。低炭水化物食においては 、炭水化物摂取量 が最大 120g/ 日以下になるよう段階的に指導し、実際の炭水化物の 摂取比率は40%エネルギー強と従来の研究に比較して 緩やかで、脱落率も20%を下回っている。
本研究では2年間を通し、低脂肪食に比較して地中海食と低炭水化物食では減量効果が優っていたとし 、両群では血中脂質やインスリン抵抗性が改善したとしている ( 14 )。本研究は最近 、その後4年間の観察をまとめ、研究終了後にそのまま の食事療法を維持したものでは、研究終了時の傾向が残っていたと報じている ( 15 )。
2012 年にDiabetes Care 誌に掲載されたsystematic review は、2001 年から2010 年にかけて発表された炭水化物摂取量と血糖ならびに心血管 疾患発症リスクに関する研究を網羅している( 16 )。本論文では、これまでの研究に は多くの交絡因子があり、 特定の栄養素の糖尿病状態に及ぼす 影響を見出すことは 困難であることを指摘している。
その中で、炭水化物の摂取量を70g/ 日以下もしくは摂取比率を40% エネルギー以下とした制限食に関する研究の要約として 、炭水化物制限が 高血糖ならびにインスリン感受性の改善をもたらすとしながらも、いずれも症例数と観察期間が不十分であって 脱落率が高 く、無作為化されていない研究もあること など、エビデンスとしての質的な問題点 を指摘している 。
また、炭水化物の摂取比率 を40~65% ないしは65% 以上とした食事療法に関する研究 の要約として、観察期間や他の栄養素の摂取比率が多様であり、 炭水化物の摂取比率がもたらすHbA1cの変化は一致し ていないことを指摘している。 能登らは最近 、炭水化物摂取量と心血管疾患のリスクならびに死亡率との関係について 従来の研究のメタ解析を行い、低炭水化物食では心血管疾患のリスクは低減せず、総死亡率は有意に 増加したと報告している ( 17 )。
そして、英国糖尿病学会の 2011 年のガイドラインは、2型糖尿病における血糖ならびに体重の是正における炭水化物制限の意義につき、最近これを支持する報告があることを認めながらも、長期的な効果と安全性について のエビデンスのないことに注意を喚起している( 5 )。
米国糖尿病 学会による2013年のstatementは、肥満者の減量を図るためには、低炭水化物食、低脂肪食あるいは地中海食は、短期間 (2年間まで)では有効であるかもしれないとしている( 6 )。但し、最適の栄養素摂取比率は病態によって異なり、栄養素摂取比率に関わらず、総エネルギー摂取量の適正化を優先すべき であると述べている。
4. 糖尿病における食事療法の 在り方と課題
以上の現状認識 を踏まえ、以下を提言としてまとめる 。
1) 糖尿病における炭水化物 摂取について
肥満の是正は、糖尿病の予防ならびに治療において重要な意義を有する。 体重の適正化を図るためには、運動療法とともに積極的な食事療法を指導すべきであ り、総エネルギー摂取量 の制限 を最 優先とする。総エネルギー摂取量 を制限せずに、 炭水化物のみを 極端に制限して減量を図ることは 、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など 重要な点について これを担保するエビデンスが不足しており、現時点では薦められない。
特に、インスリン作用が著しく不足した 状態において想定される、体たんぱく異化亢進などの栄養学的問題 は、これを避けなければならない。一方で 、先に述べたように、体重を効果的に減量させるための 一つの手段として 炭水化物摂取量について論議がなされている。しかし、 欧米の研究においては対象となる BMI は30~35以上のことが多く、肥満度の異なる日本人の糖尿病 の病態に立脚した 適正な炭水化物 摂取量については、いまだ十分なエビデンスが揃っているとは言えない。
社会的なコンセンサス を得る上においても、今後日本糖尿病学会として 積極的に調査・研究の対象とすべき課題である。
2) 栄養素摂取比率について
糖尿病における 三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、 炭水化物50~60% エネルギー( 150 g/日以上 )、たんぱく質20% エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする。この炭水化物の推奨摂取比率は、現在の日本人の平均摂取 比率がこの範囲にあり、他の栄養素との関係からも妥当と考えられる が、糖尿病腎症などの合併症の有無や他の栄養素 の摂取比率・総エネルギー摂取量 との関係の中 で、炭水化物の摂取比率を 増減させること を考慮しても良い。
例えば、身体活動量が多い場合には 、炭水化物の摂取比率を 60% エネルギー以上に高めることも考慮されるが、食後高血糖 や単純糖質の過剰摂取 などには十分な注意が必要である。一方、 腎障害や脂質異常症の有無に留意して、 たんぱく質、脂質の摂取量を勘案し、大きな齟齬がなければ、患者の嗜好性 や病態に応じて 炭水化物の摂取比率が 50%エネルギーを下回ることもありうる。
また、脂質摂取量の変化とともに糖尿病が増加してること、糖尿病が心血管疾患の 大きな危険因子であることから、 脂質摂取比率の上限は可能な限り25%エネルギーとするが、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やし、トランス脂肪酸の摂取を抑えるなど、脂肪酸構成にも十分な配慮が 必要であり、その場合の総脂質摂取量については検討を要する 。
たんぱく質については、糖尿病患者の高齢化に伴い、潜在的な腎障害の合併例が増していることに 留意し、CKD にあってはその指針に従う ( 18 )。また、炭水化物摂取 量の多寡によらず、食物繊維は 20g/ 日以上の摂取を促す。 食塩制限は、高血圧合併例では6g/日未満とする。 これらの基準は2型糖尿病を対象としたものであって、1型糖尿病では病態に合わせて別個に検討 を要する。
(結語)
生活習慣病の食事療法を論じるに際しては、日本人の身体活動度の変化と、食生活の変容を総合的に考慮しなければならない。その上で、 患者が家族をはじめとする社会生活の中で、食を楽しみながら食事療法を実践・継続していくことを勘案すると、現時点では日本人がこれまで 培ってきた伝統的な食文化を基軸に して、かつ現在の食生活の変化にも柔軟に対応していくことが重要である。
また、日本人の糖尿病の病態 が欧米化しつつある現在、日本人の病態と嗜好 性に相応しい食事療法の継続的な検討が必要である。 食事療法は実行され、継続できなければ意味をなさない。 栄養素組成のみ にとどまらず、食事療法の実践を促すマテリアルあるいは チームケアの在り方 についても、 さらに調査・研究を要する。
食事療法は、患者の病態・嗜好 性に応じて、医師・管理栄養士などの医療従事者が患者と共に考え、それが有効かつ安全に実践されていることを常にモニターしていく必要があり、その中から、新しいエビデンスを構築していかなければならない。
(文献)
1. 厚生労働省 平成22年国民健康・栄養調査結果の概要
2. 平成18年度沖縄県民健康・栄養調査成績 . 沖縄県福祉健康部、平成 20年.
3. 厚生労働省:日本人の食事摂取基準 2010 年版,第一出版, 2010 年
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