ねここねこの家

Canaries 〜心の囀り〜 第9話 「思い出話」

第9話 「思い出話」

 

「ねえ、サラ。一緒に昼食なんてどう?」

 

サラはリノと食事をするとは考えていなかった。

毎日運転をしながら、リノの存在が大きいことを痛感していたからだ。

テキパキ働くキャリアウーマン、サラ自身は運転のみ。

 

たまにコピーを頼まれるも、秘書に冷たい目で見られるのも慣れてきている。

おそらくそんな秘書も、リノと食事はしたことがないだろう。

 

運転をするといってもきちんとスーツは着ている。

でも…

 

「場違いじゃないですか?高級なところですよね?」

 

サラの質問に後部座席で書類を見ながら、リノが答える。

 

「私のお気に入りでよければだけど?」

 

サラに断る理由もなく、車でホテルでも向かうのかと思ったら会社に戻る。

 

「歩いてすぐなのよ」

 

順応性が高いサラも見当がつかないまま、小さなお店に入った。

 

「わ!隠れた名店!」

 

思わずサラが言うと、リノが笑う。

何度かしか笑うのを見たことがない。

頼んだのはナポリタンだった。

 

「このナポリタンにね、思い出があるのよ」

 

リノが嬉しそうにしていると、年配のおばあちゃんが持ってくる。

食べてみるとめちゃくちゃ美味しい。

 

「誰にも話していない場所なの。でもあと1時間もすればここも混むわ」

 

小さく、3つほどしか机がないが味があるお店。

 

「お金のためじゃなく、夫のために守っているお店の味よ」



なるほど。

サラはこのお店が気に入った。

 

「また来ても良いんですか?」

 

サラの言葉に笑顔でリノは答えた。

 

「当たり前よ。私だけのお店じゃないんだから」

 

そして続けた。

 

「昔話だけどね。あれは高校生の頃、ここで勉強中にうたた寝してね、その時夢を見たの」

 

サラも食べ終えていて、これまた美味しいコーヒーを飲んでいた。

リノも飲みながら懐かしそうに話し出す。

 

「1人の当時同じ年くらいの少年がこっちを見て微笑んでいたの。どうしたと思う?」

 

サラはアイザックのことが浮かんで、同じ?と思った。

 

「何見てるのよ!こっち来なさいよ!って怒ったら黒くなって消えたわ。そのあとよく見たらコーヒーこぼしていたのね。だから黒かったのかと思ったわ。話しだとこのお店相当長いらしいから、未だにおばあちゃんが話すのよ。私も印象だけはあるわ」

 

クスッと笑って話すのを同じく返すが内心は違った。

 

黒い影って…ザメフィスって存在?

考えつつも、リノには笑いながら話す。

 

「懐かしい思い出ですか?」

 

「私は、って言うよりおばあちゃんが、今はお客さんの相手をしているけど毎回話すのよ」

 

リノが時間を気にしだしたので、早々と準備を始める。

支払いは必要ないと手でそぶりをして。

 

「そのあと、その黒いのって…」

 

までサラが話すと、リノが電話で話しだした。

少し離れた位置にいると、すぐにリノがくる。

 

「ごめんなさいね。午後はかなり忙しくなりそう!」

 

話をする暇もなく、会社に戻ると車の支度をする。

ただサラは気付いていた。

おばあちゃんが寂しそうに帰るのを見ていて、不思議そうにサラを見ていたことを。



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優しく頼もしい主人とねここねこ。猫ちゃんず(しまちゃん♀おおちゃん♂さきちゃん♀)と生活中。

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