第10話 「囀り(さえずり)」
夢かと思ったけど違う。
ここは間違いなくノクス。
セセリナの話だと他にも誰かいるって言っていたけど…
鳥の声がした。
風とともにアイザックが現れた。
「普通に考えれば長い時間だろうけどひとときのこと。あれは鳥。サラと同じ。」
アイザックが言うとサラは不思議そうに聞いた。
「私と同じ?」
アイザックは微笑みながら答える。
「心の中で叫んでいた。でも誰にも届かない囀り(さえずり)だよね」
サラは真剣に話し出す。
「父親や母親にとって私はいるだけの存在。稼いで家にいて…その繰り返し。親子だから愛情が全くないわけじゃないって人は言うけど、とりあえずの存在なのは確か。その辺は…」
アイザックは分かっていると頷く。
そして微笑みながら言った。
「好きだと使えたけど、返事はないね」
サラが答える。
「愛情に飢えているってカウンセラーにも言われたから、本当なのか知りたい。いつも考えている。会いたいって本当に思う。抱きついて離れたくないって伝えたいって…それって好きってこと?」
アイザックが抱きしめた。
温もりがある。
ドキドキしながら、どこかホッとしている。
「ありがとう。それは好きって意味だから」
その時声がした。
「お邪魔様、二人の世界の邪魔だよね。でもね伝えたいことがあるんだよ」
見たことがあると思ったら、抱きしめながらアイザックが答えた。
「ラト…何しにここに?」
こわばった顔で話し出す。
「ザメフィスだけが邪魔をしているわけじゃ…」
セセリナが現れた。
抱きしめている光景に驚いている。
「離れたら?」
セセリナが話すと二人は離れた。
アイザックはラトに話し出す。
「何だか同時に現れるっておかしいけどね」
セセリナが機嫌悪そうにしている。
ラトは困った様子でサラに一言。
「全部注意だよ。全てね。サラの場合アイザック以外かな」
流石にサラも反論する。
「ラト…あなたもね!」
たじろいでいると二人とも消えた。
アイザックが言った。
「ここは平和な場所だった。邪魔をしているのはザメフィス。惑わしているんだろう」
確かにどこか最初より違和感を感じる。
謎の存在…
アイザックが言った。
「そろそろ歪んで来る。こんなこともなかった。サラ…また会おう」
温もりだけを感じたまま、サラは歪みから抜け出した。
いつの間にか空間の行き来が分かってきた気がした。