ある牛飼いがものがたる

牛乳を搾っている女の徒然ブログです。

ギャーーー!搾乳ってかなり大変

2024-10-01 10:45:00 | 日記
こんにちは!

最近はとんと秋になってきましたね。気がつけば今年も終わっちゃって、そりゃ人生ってたぶんいつか終わりますわな!というのが身に迫ってきました!



今日のお話は

搾乳の話!

どうやら、とうとう仕事の話をするらしいです。
いや、今までも仕事の話してたんだけど。

搾乳は我々乳牛酪農のど真ん中の仕事。一日に二回行われるため、業務時間のほとんどがこの作業。ちなみに、次に長いのは「獣医待ち」の時間です。如何なものか。

私の会社では、搾乳を朝5時からと、夕方4時から行なっています。

なお、私がいつも行なっている搾乳方法は「パラレルパーラー」というもの。

オリオンさんのページから引用。こんな感じです。





私の会社にあるパーラーは、「一列10頭×二列」なので、一回に20頭はいります。

この20頭にミルカーという機械をつけて、バーッと搾乳するわけですが、一筋縄ではいきません。

シンプルに手順を説明すると

①牛がパーラーに入る
②乳頭を消毒する
③水で洗いながら前搾り(五回ほど搾る。乳房炎になっていないか、異常はないかの確認や、刺激を与えて牛乳を出やすくするなどの意味がある)をする
④タオルで乳頭を拭く
⑤ミルカーをつける
⑥搾乳が終わったらミルカーを外し、消毒する
⑦一列(10頭)が終わったらパーラーから出す

これを大体2〜3人で繰り返すわけですな。

しかし、生き物ですからトラブルはつきもの。

①牛がパーラーに入る

↑入らない!!!!!!!

頑固な牛、臆病な牛、牛にも性格があります。
「1番最初はちょっと嫌だモ〜ね」
「全部の牛が入った後に入りたいモウ」
と、いう性格。

そういう性格を記憶して、

「この牛は1番に入らない」や、
「この牛は大体搾乳三回目の右列にしか入らない」

などを叩き込み、しかるべき牛を選んでパーラーに追い込んでいます。


⑤ミルカーをつける

次はこれについて。
基本的には端と端から真ん中に向かって搾乳していきます。

しかし、この一列(10頭)の中に、「異様に搾乳時間が長い(乳量が多い、乳の出が悪い、ミルカーをよく蹴り落としてしまう等)」ような牛がいたらどうなるでしょう?

それがもしも真ん中にいて、最後にミルカーをつけられてしまったらどうなるでしょう?

そう。全体の搾乳時間、拘束時間が長くなってしまうのです。

私の感覚として、搾乳時間が1番短い牛で大体2分

1番長い牛で15分ほどかかります

搾乳時間がかかる牛に、最後にミルカーをつけてしまうと、そこに入っている10頭の拘束時間が長くなり、パーラー作業の時間も長くなってしまうということになります。

そうならないように、私たちは皆「搾乳時間が長い牛を全て暗記」しています。

また、「搾乳時間がどの程度長いのか」のランクも大体頭の中に構築しているので、

「長い牛が同時に何頭も入った場合、どの牛からミルカーを付けるべきか」を各自で考えて動いています。

これの思考はおそらく「②乳頭の消毒」のあたりで、パーラーに入ってきた牛の番号を見て確認していますが、

それだけでは不十分なので、先ほど説明したような牛の性格を鑑みて、

「この搾乳は◯回目だから、△番(牛の番号)がパーラーに入ってきそうだな」という予想をしたり、シンプルに牛の顔、色、乳頭の形などで数字を見るよりも早く判断していたりします。

つまりとにかく、「どの牛がどういう性格で、搾乳時間はどれくらいなのか」を全て覚えているわけです。

それに加えて、

「この牛は右前の乳房に搾り残しが多いから、洗濯バサミをこう付けると効率が良い
とか、
「この牛は左後ろが1番早く搾り終えるから、キャップ(ミルカーそれぞれに蓋をするもの)をつけて乳房に負担をかけないようにしよう
「この牛はこの前右前が乳房炎になったから、気をつけて搾ろう」
「この牛はかなりおばあちゃんだし分娩直後から、搾りすぎないようにしよう(低カルシウムにならないように)」
「この牛は身体が大きくて入らないからバーをあげよう」

とかも一頭一頭覚えています。
かなり頭フル回転です。

また、危ないのが「乳量の低下」。

いつもより乳量が出ていない、というのは、牛からのなんらかのサインなんです。

果たしてなぜなのか?それについてはこういう風に考えます。

・乾乳?(分娩が近いから?)
・発情している?(周期に合っているか?)
・乳房炎?(牛乳に異常はないか?乳房が固くないか?)
・餌が食べれていないから?(内臓が悪いのか?それとも足が痛いのか?歩き方は変じゃないか?)

一つ一つ可能性を潰して、場合によっては獣医さんに見せます。



しかし、頭だけでは終わらない搾乳。

パーラーに入らない牛を力づくで押し込んだり、ミルカーをつけるために肘などで思い切り足を押したり(※ホルスタインの重量は約600キロ)

というかそもそもパーラーの作業時間は片付けも含めると二時間半ぐらい。その間ずっと歩き回りつつ牛を相手しているので、結構疲れます。

そして何より…

パーラーで作業をすると、目の前に牛のヒヅメ、乳がありますね。

つまり、言いたいことはわかるな…?

そう。ミルカーはよく蹴り落とされます。
それどころか腕とか肘とか指とかもよく蹴られます。

そして…何より、目の前に糞と尿が落ちてくるんですね。

ブババババと放尿、脱糞、人間にできることなどなく、毎秒汚れます。
よく「あー、うんこが目に入った」とか言ってます。大体このせいです。

あと牛って尻尾をバシバシするんですよね。
消毒→前搾り→ミルカーをつけるの間に尻尾をバシバシバシバシィってされるので、顔中うんことしっこまみれになります。ダハハ 

こういうとき「今私に人間たる場所はあるだろうか?」と思ったりします。あるよ。汚れなき脳が。

そして、特筆すべきなのが、「この作業を2〜3人で行なっている」ということ。

「他の人が何の作業をしているのか?」「どこまで前搾りを行なっているか?」「×番がパーラーに入ったからその牛を搾っているんだな、じゃあこっちに行こう」

など、とにかく自分以外の誰が何をしているのかを認識し続けないと、パーラーが上手く回らないんです。

これを、今搾っているのが130頭ですから、13列繰り返します。

つまり、130頭の記憶と、体力で搾乳をしています。


これを毎日毎日繰り返し牛乳を作り続けています。
誇れる仕事に違いないのですが、休みも無い上賃金も低いのが現状。
体力仕事なのに、体力を回復させる暇がない…

また、今年四月にはこのようなニュースもありました。
前静岡県知事が静岡県の新規採用職員に対して行なった訓示に、職業差別的な言葉が含まれている、というニュースです。
川勝知事の訓示全文 静岡県の新規採用職員へ「県庁はシンクタンク」:朝日新聞デジタル

川勝知事の訓示全文 静岡県の新規採用職員へ「県庁はシンクタンク」:朝日新聞デジタル

 静岡県の川勝平太知事(75)が1日に県庁であった新規採用職員に対する訓示で、特定の職業に携わる人などへの差別とも受け止められかねない発言をした。訓示の全文は以下の...

朝日新聞デジタル

 
以下引用。

>毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね。

頭を使わない仕事など存在しません。毎日毎日知能と体力を削って、日本の食を支える人間が、少なくとも下に見られて良いはずがない。

ただ。それを叫んだところで、こういう考えの人は少なからず存在する。

だから、どうか、このブログを読む人だけは、わかってほしいのです。

勉強したり、仕事したり、毎日不安になりながらも一生懸命頑張っている皆と地続きのどこかで、

同じように、不安になりながらも、一生懸命働いて、日本の食を支えている人が確かにいるということを。

牛乳って美味しいですよ。
飲んでね。


それではまたいつか!