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毎日新聞:佐藤幸治氏 / 「憲法は権力者に好き勝手を許さぬルール」

2015年08月21日 12時28分56秒 | 憲法解釈論
〔資料〕

「戦後70年:憲法は権力者に好き勝手を許さぬルール 「立憲制へ敬意不可欠」 佐藤幸治・京都大名誉教授に聞く」

   毎日新聞(2015年08月16日 東京朝刊)

☆ 記事URL:http://mainichi.jp/shimen/news/20150816ddm003010035000c.html

 70年前、日本は再興を目指して困難に満ちた道のりを歩き始めた。その中で生まれた日本国憲法がいま、大きく揺らいでいる。節目の年の8月15日。私たちは憲法とどう向き合うべきか。そもそも、憲法とは何か。日本の指導的な憲法学者である佐藤幸治・京都大名誉教授に聞いた。【聞き手・井上英介】

 −−「終戦の日」に、何を思いますか。

 ◆1945年8月15日は、300万人以上の犠牲者を出した戦争がようやく終わった日ですが、もう一つ、きわめて重要な意味を持つ日だったと考えます。

 日本の政府や国民は、明治憲法下で立憲主義を掲げて一定の成果を上げました。「大正デモクラシー」です。にもかかわらず、その後なぜ簡単に軍国主義を奉じ、無謀な戦争へ突き進んだのか。それを根底から反省し、「国のかたち」の抜本的な再構築に取り組む決意を固めたはずの日でもありました。

 −−立憲主義とは何でしょうか。そもそも、憲法とは何でしょうか。

 ◆権力者に好き勝手を許さず、自由で公正な社会をつくるために、基本的なルール、いわば「おきて」を決める。このルールが憲法であり、憲法を土台に政治を行うのが立憲主義です。

 古代ギリシャ・ローマを起源とし、17世紀のイギリスで清教徒革命など政治変革のうねりがあり、法の支配と議会主権の結合した近代立憲主義が誕生する。さらに、18世紀のアメリカ独立革命やフランス革命により、人民が人権保障や権力分立制をうたう成文憲法を制定し、そのもとに政府をつくり、かつ縛る現代立憲主義が確立しました。

 ただし、人権観念は19世紀に姿を消し、20世紀半ばには日独の全体主義が第二次世界大戦を引き起こします。その反省から立憲主義をいかに復活させ、強化するかが20世紀後半に世界の関心事となり、人権思想がよみがえりました。

 国連憲章や、日本の受諾したポツダム宣言がその証しです。

 −−今の憲法を「米国の押しつけだ」と批判する人たちがいます。

 ◆現行憲法は、単なる占領政策の産物ではありません。世界史上でも意義深い大戦後の人権思想や平和志向の理念をよく体現しています。そして、国民も70年近く支持してきました。憲政の常道を築いた大正デモクラシーを考えれば、現憲法は「押しつけ」ではなく「復活」というべきです。

 −−反省から出発して70年たち、政府は憲法解釈を変え、他国を攻撃した国に武力行使する集団的自衛権を柱とする安保法制に踏み出そうとしています。

 ◆断っておきますが、私は憲法を変える必要があるならば、手続きを踏んで変えたらよいと思います。でも、憲法の根幹は安易に揺るがしてはならないと強く考えています。

 −−変えてはならない「憲法の根幹」とは?

 ◆人権や、それを守る統治の仕組みです。さらには戦争こそ立憲主義の“敵”だとして、現代憲法の根幹には平和志向もあります。

 −−根幹である平和主義の規定の解釈を、一政権の閣議決定で変えてしまってもよいのでしょうか。

 ◆憲法が基本とするのは自国を守る個別的自衛権です。集団的自衛権の行使を歴代内閣が法制局を通じて「認めない」としてきたのは大きな重みをもちます。それを変えるにはよほどの理由が必要で、国民に十分説明しなければならない。

 自由社会を維持するには土台となる立憲制へのリスペクト(敬意)が不可欠です。しかし、日本では近年リスペクトが希薄です。立憲主義を掲げる代表的な国々は、その根幹を傷つけないよう努力してきました。昨年の閣議決定に始まる政府の一連のやり方は、日本の立憲主義にとって憂慮すべきものと考えます。

 −−今年6月6日の講演で「いつまで(憲法の根幹を揺るがすようなことを)ぐだぐだ言うのか、腹立たしくなる」と、日本の憲法状況を嘆かれました。

 ◆憲法の根幹が揺らげば言論の自由も司法権の独立も危うくなります。責任ある立場の政治家のリスペクト欠如を思わせる言動に深い悲しみを抱いてきたことが、ついあのような表現になったのだと思います。

 責任ある公職(権力)の正統性の根拠は現憲法にある。それをもっと自覚していただきたい。「(安保法制で)法的安定性は関係ない」という礒崎陽輔首相補佐官の発言には、評する言葉もありません。

 日本の長期的繁栄のために、立憲主義へのリスペクトをどう保持し、高めていけるか。正念場です。

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 ◇歴代首相指南役、言葉重く

 安全保障関連法案を取材する中、世の中の「潮目が変わった」と感じる局面があった。今年6月4日の衆院憲法審査会だ。参考人の憲法学者3人全員が法案を違憲だと批判した。そのうち一人は自民党推薦の参考人だった。

 2日後、東京大学であった憲法学者たちの討論会では700人収容の教室があふれ、急きょ300人収容の教室が用意されたがそこもあふれて、最終的に約1400人が詰めかけた。そこで基調講演したのが佐藤氏であり、記事で紹介したセリフが飛び出した。いらだつ理由を聞こうと自宅を訪ねると、4時間近くも丁寧な説明を受けた。

 佐藤氏は、憲法学の権威であるばかりではない。司法制度改革をけん引し、90年代後半に橋本龍太郎政権の行政改革(橋本行革)でも活躍。アカデミズムを飛び出し、自民党政権下で6人の首相の指南役を務めた。そんな人物の言葉は重い。

 憲法は権力者の手を縛るルールであり、一内閣が閣議決定で変えてしまうことの悪影響は安保法制の問題を超え、広範囲に及ぶと教わった。

 安倍晋三首相側近が「法的安定性は関係ない」と語った。首相が勝手なことをするとは思わないが、憲法の安定性が揺らげば、いつか権力者が徴兵制導入など好き勝手なことを始めかねない−−そんな漠然とした不安が、国民の間に広がっている。【井上英介】

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 ■人物略歴

 ◇さとう・こうじ

 1937年新潟市生まれ。京都大法学部を卒業し、75年に同学部教授(憲法学)。司法権と基本的人権を軸に憲法理論を展開する。99〜2001年に司法制度改革審議会長を務め、裁判員制度の導入などを提言した。著書は「現代国家と司法権」「憲法」など多数。

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