〔資料〕
「【京都】『1人でも子どもを殺したら、16億のムスリムは日本を信頼しない』
~ 内藤正典氏 イスラム情勢と集団的自衛権 」
IWJ(2014/06/04)
☆ 記事URL:http://iwj.co.jp/wj/open/archives/144653
「アメリカは、ガセネタで戦争をする国。象がアリを踏み殺しても、象は何も痛みを感じないが、アリは一貫の終わりだ。日本はアメリカの影にかくれて、象のふりをするのか」──。
2014年6月4日、京都市上京区の同志社大学鳥丸キャンパスで、シリーズ「グローバル・ジャスティス」第44回が開催され、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科長・教授の内藤正典氏が「イスラーム諸国から考える、日本の集団的自衛権」と題した講演を行った。日本が将来、アメリカの同盟国として同行する可能性も高いイスラム諸国の情勢と、イスラム教徒の独自性について話し、集団的自衛権が招くであろう日本の危機をあぶり出した。
内藤氏はイスラム教徒について、「ムスリムは、民主主義を否定しない。人間が一番だとも、理性や合理主義が絶対だとも見なさない」と説明し、「信頼関係は、市民の間でしか熟成できない」と訴えた。
大失敗を繰り返す同盟国、アメリカ
冒頭、同志社大学教授の岡野八代氏が、「1991年、湾岸戦争の時、自衛隊の派兵要請があったが、後方支援で終えた。その結果、日本はクエートから感謝されず、禍根を残した。現在、政治家は東アジアの地域紛争ばかりに目を向けるが、本来、イスラム諸国への目配りも欠かせない」と語った。
続いて、内藤正典氏が登壇。「私は、日本の集団的自衛権に対して、強く反対している。なぜかというと、日本の同盟国のアメリカは、これまで大失敗を繰り返して、屍を山のように築いてきたからだ」と話し始めた。
「テヘランのアメリカ大使館員人質事件(1980年)では、人質救出失敗で米兵8名死亡。ソマリア内戦(1993年)に介入し、モガディシュの戦闘で米軍ヘリが撃墜、米兵18人死亡。その時、ソマリア市民が米兵の遺体を裸にして町を引きずり回す映像が世界に流れ、クリントン米大統領は撤退を決めた」。
「アフガニスタン侵攻は、アメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)の首謀者とされたヴィン・ラディンとアル・カイダが、アフガニスタンに潜伏しており、彼らをかくまっているタリバン政権ごと倒す、という理由で行った」と述べた。
タリバンが911テロを起こしたのではない
内藤氏は、米軍の戦闘地域と非戦闘地域での自爆テロや、IED(即席爆発装置)の衝撃的な映像を見せて、「安倍政権は『非戦闘地域と戦闘地域の区別はしない』と言ったが、非戦闘地域もとても危険だ。ある意味では、安倍首相は正しいとも言える」と皮肉った。また、「自衛隊は後方支援だけをすると言うが、敵とみなされて攻撃対象になる」と述べた。
オバマ政権は、2016年末までにアフガニスタンから完全撤退すると公表している。しかし、6月2日の報道によると、グアンタナモ収容所のタリバン幹部5名と、タリバンによって5年間捕虜にされていたボウ・バーグダル米陸軍軍曹の人質交換をした際、共和党のマケイン議員が「彼らが『テロリスト』なのを忘れたのか」と、オバマ政権を批判したという。内藤氏は「マケイン議員の発言で、米国内では、危険なテロリスト5人を解放していいのかというムードが高まった。しかし、いいですか、911テロをやったのはタリバンじゃないですよ? アル・カイダです」。
内藤氏は「タリバンはアル・カイダをかくまったが、911テロを起こしたのではない。しかし、日米両政府は『タリバンは、テロリストをかくまっていたから同罪だ』と主張する。それによって、『911テロはタリバンがやった』と思っている人が大勢いる」と述べて、タリバンとアル・カイダの同一視を諌めた。
「2012年、和平会合でタリバンがここ(同志社大学)に来た時、ヴィン・ラディンをかくまった理由を、私は彼らに尋ねた。そもそもタリバンは、1979年からのソ連によるアフガニスタン侵攻の時、パキスタン情報部がアメリカCIAの協力を受けて作り出した組織だ。その当時、ソ連に抵抗するタリバンを、アル・カイダが手伝ってくれたという。パシュトゥーン人は非常に義理堅い。タリバンは私の質問に、『アル・カイダをかくまった理由は、その時の一宿一飯の恩義だ』と答えた」。
※ 2010/09/05 「米政府は911テロを事前に知っていた」 愛国者法で投獄、拷問を受けた元CIA協力者スーザン女史インタビュー
混迷が続くアフガニスタン
アメリカはアフガニスタンに戦争を仕掛け、タリバン追放に成功。アフガニスタンにカルザイ政権が誕生したが、内藤氏は「日米欧諸国から援助を受けて、汚職腐敗も甚だしい政権だ。現在、アフガニスタンは大統領選挙中で、元外務大臣アブドッラー・アブドッラー(タジク人)と、モハンマド・アシュラフ・ガニー・アフマドザイ(パシュトゥーン人)の2人の候補者に絞られたが、彼らは北方軍閥と組んでいるので、どちらが勝っても政権の体質は変わらないだろう」と分析する。なお、この大統領選挙は、6月14日の決戦投票で不正が行われたとして、元外務大臣側が開票作業の中断を要請、混迷が続いている。
内藤氏は「タリバンは、アメリカ軍が駐留する限り攻撃を続けると宣言している。アフガン戦争のこれまでの犠牲者は、アフガン市民1万8000人~2万人、米軍は、不朽の自由作戦とISAF(国際治安支援部隊)とで約5000人。仮に、日本が集団的自衛権の行使で戦地に行く場合、ISAFへの参加となるだろうが、NATO軍中心のISAFもかなりの数の犠牲者を出している」と危惧した。
イラク戦争は失敗の典型「開戦理由は嘘だった」
さらに、「イラク戦争も完全な失敗。『大量破壊兵器を隠匿している。フセイン政権はアル・カイダとつながっている』という2点が、アメリカ側の開戦理由だったが、それは嘘だった。俗物のサダム・フセイン大統領と政権与党は、むしろ、イスラムの敵。そのバアス党(アラブ社会主義復興党)はイスラム色がなく、アル・カイダとは結託できないのだ」と説明する。
「のちに安倍政権は、『フセイン大統領が無実を証明しなかったから』と言い訳をしたが、えん罪を犯人がどうやって証明するのか。イラク戦争の犠牲者は多国籍軍5000人、市民は11万人~15万人という推定はあるが詳細は不明だ」。
内藤氏は、1980年に結成されたアル・カイダの歩みを紹介した。「武力勢力によるジハードを標榜し、アフガニスタンのソ連侵攻を防ぐために義勇軍を送り、タリバンが政権を取ると、その庇護下に入った。1991年の湾岸戦争によって、ペルシャ湾岸諸国が石油利権を守るため、アメリカ軍の保護を受けるようになると、ヴィン・ラディンらは反発し、1994年にサウジアラビアから国籍を剥奪される」。
当初、アル・カイダの結成趣旨は「イスラーム諸国を、正しいイスラーム国家にすること」。そのうち、背後の欧米国家に憎悪を募らせ、「ユダヤ・キリスト教徒への十字軍」を名乗るようになったという。内藤氏は「ただし、多くのムスリムは、これを認めていない。ムスリムが、ユダヤ教徒やキリスト教徒を憎んでいるのではない」と言い添えた。
大きくなり過ぎて世界が見えないアメリカ
内藤氏は、アル・カイダの犯行とされるテロ事件をいくつか列挙した。そして、アル・カイダの犯行かどうかは不明の事件について、マドリード列車爆破同時多発テロ(2004年)、ロンドン同時多発テロ(2005年)を挙げて、次のように語った。
「ロンドンの地下鉄・バス同時多発テロの時、日本のメディアは先にストーリーありきで、事件からわずか2時間後にアル・カイダの犯行だと決めつけていた。『アメリカの報道は全部、アル・カイダの犯行だと言っているから』と。そこは、おかしいと思わなくてはいけない」。
内藤氏は「アメリカは、ガセネタで戦争をする国だ。巨大過ぎて、知恵が行きわたらない。世界全体が見えていない。象がアリを踏み殺しても、象は何も痛みを感じないが、アリは一貫の終わりだ。日本はアメリカの影にかくれて、象のふりをするのか」と断じた。
その上で、「凄惨なテロが起きたあとに、欧米諸国が『アル・カイダやタリバンと言えばテロリスト』という方向に傾いていった背景は理解できるが、それと、軍隊を派遣する決定の根拠にできるかは、別の話だ」と力説した。【IWJテキストスタッフ・関根/奥松】
※ 2014/06/18 ISISの台頭で緊迫する中東情勢と集団的自衛権の行方 ~岩上安身による内藤正典・同志社大大学院教授インタビュー
日本は、中東で軍事的な行動をしてはならない
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