Story
1924年3月、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される「母の日」の日曜日。しかしニヴン家に仕えるジェーン(オデッサ・ヤング)は孤児院育ちで、帰る家はない。そんな彼女のもとに、秘密の恋人であるアプリィ家の子息ポール(ジョシュ・オコナー)から密会の誘いが届く。幼なじみのエマとの結婚を控えるポールだったが、前祝いの昼食会を前に、屋敷の寝室でジェーンとひと時を過ごす。やがてニヴン家へ戻ったジェーンを、思いがけない知らせが待ち受けていた。時が経ち小説家になったジェーンは、彼女の人生を一変させたあの日のことを振り返る。(映画.comより)
2021年/イギリス/エバ・ユッソン監督作品
評価 ★★★★☆
この映画の予告を観た時には、てっきりメイドと良家の子息との昼下がりの情事を延々と描いた物語で、映画を観る前は退屈するのではないかと思っていました。そんな私の予想を良い意味で裏切ってくれて、これは本当に観に行って良かったです。
R15の映画ということで官能的なシーンを期待して観に行ったら(R15なシーンもバッチリ描かれていたのですが)、ちょっと物足りないかもしれないですね。それよりも人間ドラマの部分に重点を置いて描かれているので、物語の面白さにどっぷり浸かって観てました。
メイドの時代のジェーンと作家になったジェーンの過去と未来が錯綜しながら物語が進行していくので、最初は出来事を整理して考えないと分かりづらいのですが、物語が進行していくうちに、まるでパズルのピースをはめていくみたいに伏線を全て回収していくのは本当に見事でした。夫のwancoと一緒にこの映画を観に行ったのですが、こんなに映画について語り合ったのは久しぶりでしたね。それだけ原作の力はもちろん、脚本が素晴らしいのだと思います。
例えば、なぜポールは結婚の前祝いの昼食会を遅刻してまで、秘密の恋人のジェーンとの逢瀬にずっと浸っていたのか、後になってその理由が少しずつ明かされるようになっています。映画の見方が変わると人によって解釈が違ってしまいそうですが、その辺りの謎解きもこの映画の魅力の一つだと思いました。
主役のジェーンを演じたオデッサ・ヤングがちょっとファニーフェイスなんですが、フレッシュな魅力で可愛らしいとても素敵な女優さんでした。脱ぎっぷりも凄くて、体当たりで演じているという感じでしたね。彼女のメイド時代の私服がベレー帽とか可愛い刺繍が入ったデザインの洋服など、とにかく可愛くて、1920年代のファッションってもっと古くさいのかと思っていたんですけど、今の時代でも真似したいような素敵な洋服ばかりでした。
それから、脇を固めている俳優たちも豪華で、ジェーンが勤めているお屋敷のご主人夫婦にコリン・ファースとオリヴィア・コールマンが出演していました。息子を戦争で失った悲しみの中に生きる夫婦をどちらも好演していて、やっぱりこれだけの名優が出演している映画にはハズレがないなと思いましたね。
最後に、おばあさんになったジェーンが作家として成功して記者たちに言うセリフがとても良かったです。記者たちに受賞の喜びを聞かれて、「(辛い出来事を乗り越えていくためには)しんどくても書くしかなかったの。」と淡々と語りかけるように言うんですね。
孤児で守る者もない自分の身一つで生きてきたジェーンにとって、結婚でしか生きる道のない上流階級の女性とは違い、作家として書くことを強みに自由に精一杯生きてきたことを裏づけるような、とても感動的なセリフでした。
冒頭でも書いたのですが、本当にこの映画は思わぬ拾い物で久しぶりに観に行って良かったと思った作品でした。
評価 ★★★★☆
ネタバレ注意!!!
てっきり、よくある身分違いの叶わぬ恋を情緒的に描いた映画かと思い込み、あまり気乗りせずに観に行ったのですが、意外や女流作家の内面に迫った物語でした。
3つの時代を錯綜させて描く凝った構成です。ジェーンのメイド時代、作家志望の書店員時代、作家として成功した晩年と、かなり頻繁に行ったり来たりします。しかし、物語の視点は晩年のジェーンと思われます。ポールがジェーンに語りかける「情景を想像して書くんだ」「君にはできる」みたいなセリフがあります。ポールに励まされて作家になった彼女の”最高傑作”を執筆する過程で、脳裏に去来した出来事の数々。ですから、ジェーンがいない場面は、限りなく事実に近い彼女の創作では?と思えてきたりしました。
ポールの家では競走馬のパーツ毎に家族で所有権を分けていて、4本目の脚だけ所有者がいない、と言うような台詞が冒頭に出てきます。物語終盤で4本目は自分(ジェーン)だったと気づくのですが、ジェーンを取り巻く人々の物語を世に出すことで、失われた彼らのドラマが名馬の疾走のようによみがえる、映画のテーマが浮かび上がる見事な伏線回収です。
ところで、最初ポールの事故が自殺だったとは気づかなくて、nyancoに指摘されて気づいたのですが、確かに情事の後で優しい微笑みをジェーンに投げかけて去っていったのは、そう言うことだったのかと思いました。
コリン・ファースも要所要所で場面を引き締めて、さすが名優の貫禄です。
映画『帰らない日曜日』公式サイト
(「帰らない日曜日」2022年 6月 昭島ムービックス にて鑑賞。)
1924年3月、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される「母の日」の日曜日。しかしニヴン家に仕えるジェーン(オデッサ・ヤング)は孤児院育ちで、帰る家はない。そんな彼女のもとに、秘密の恋人であるアプリィ家の子息ポール(ジョシュ・オコナー)から密会の誘いが届く。幼なじみのエマとの結婚を控えるポールだったが、前祝いの昼食会を前に、屋敷の寝室でジェーンとひと時を過ごす。やがてニヴン家へ戻ったジェーンを、思いがけない知らせが待ち受けていた。時が経ち小説家になったジェーンは、彼女の人生を一変させたあの日のことを振り返る。(映画.comより)
2021年/イギリス/エバ・ユッソン監督作品
評価 ★★★★☆
この映画の予告を観た時には、てっきりメイドと良家の子息との昼下がりの情事を延々と描いた物語で、映画を観る前は退屈するのではないかと思っていました。そんな私の予想を良い意味で裏切ってくれて、これは本当に観に行って良かったです。
R15の映画ということで官能的なシーンを期待して観に行ったら(R15なシーンもバッチリ描かれていたのですが)、ちょっと物足りないかもしれないですね。それよりも人間ドラマの部分に重点を置いて描かれているので、物語の面白さにどっぷり浸かって観てました。
メイドの時代のジェーンと作家になったジェーンの過去と未来が錯綜しながら物語が進行していくので、最初は出来事を整理して考えないと分かりづらいのですが、物語が進行していくうちに、まるでパズルのピースをはめていくみたいに伏線を全て回収していくのは本当に見事でした。夫のwancoと一緒にこの映画を観に行ったのですが、こんなに映画について語り合ったのは久しぶりでしたね。それだけ原作の力はもちろん、脚本が素晴らしいのだと思います。
例えば、なぜポールは結婚の前祝いの昼食会を遅刻してまで、秘密の恋人のジェーンとの逢瀬にずっと浸っていたのか、後になってその理由が少しずつ明かされるようになっています。映画の見方が変わると人によって解釈が違ってしまいそうですが、その辺りの謎解きもこの映画の魅力の一つだと思いました。
主役のジェーンを演じたオデッサ・ヤングがちょっとファニーフェイスなんですが、フレッシュな魅力で可愛らしいとても素敵な女優さんでした。脱ぎっぷりも凄くて、体当たりで演じているという感じでしたね。彼女のメイド時代の私服がベレー帽とか可愛い刺繍が入ったデザインの洋服など、とにかく可愛くて、1920年代のファッションってもっと古くさいのかと思っていたんですけど、今の時代でも真似したいような素敵な洋服ばかりでした。
それから、脇を固めている俳優たちも豪華で、ジェーンが勤めているお屋敷のご主人夫婦にコリン・ファースとオリヴィア・コールマンが出演していました。息子を戦争で失った悲しみの中に生きる夫婦をどちらも好演していて、やっぱりこれだけの名優が出演している映画にはハズレがないなと思いましたね。
最後に、おばあさんになったジェーンが作家として成功して記者たちに言うセリフがとても良かったです。記者たちに受賞の喜びを聞かれて、「(辛い出来事を乗り越えていくためには)しんどくても書くしかなかったの。」と淡々と語りかけるように言うんですね。
孤児で守る者もない自分の身一つで生きてきたジェーンにとって、結婚でしか生きる道のない上流階級の女性とは違い、作家として書くことを強みに自由に精一杯生きてきたことを裏づけるような、とても感動的なセリフでした。
冒頭でも書いたのですが、本当にこの映画は思わぬ拾い物で久しぶりに観に行って良かったと思った作品でした。
評価 ★★★★☆
ネタバレ注意!!!
てっきり、よくある身分違いの叶わぬ恋を情緒的に描いた映画かと思い込み、あまり気乗りせずに観に行ったのですが、意外や女流作家の内面に迫った物語でした。
3つの時代を錯綜させて描く凝った構成です。ジェーンのメイド時代、作家志望の書店員時代、作家として成功した晩年と、かなり頻繁に行ったり来たりします。しかし、物語の視点は晩年のジェーンと思われます。ポールがジェーンに語りかける「情景を想像して書くんだ」「君にはできる」みたいなセリフがあります。ポールに励まされて作家になった彼女の”最高傑作”を執筆する過程で、脳裏に去来した出来事の数々。ですから、ジェーンがいない場面は、限りなく事実に近い彼女の創作では?と思えてきたりしました。
ポールの家では競走馬のパーツ毎に家族で所有権を分けていて、4本目の脚だけ所有者がいない、と言うような台詞が冒頭に出てきます。物語終盤で4本目は自分(ジェーン)だったと気づくのですが、ジェーンを取り巻く人々の物語を世に出すことで、失われた彼らのドラマが名馬の疾走のようによみがえる、映画のテーマが浮かび上がる見事な伏線回収です。
ところで、最初ポールの事故が自殺だったとは気づかなくて、nyancoに指摘されて気づいたのですが、確かに情事の後で優しい微笑みをジェーンに投げかけて去っていったのは、そう言うことだったのかと思いました。
コリン・ファースも要所要所で場面を引き締めて、さすが名優の貫禄です。
映画『帰らない日曜日』公式サイト
(「帰らない日曜日」2022年 6月 昭島ムービックス にて鑑賞。)
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