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奥様は海外添乗員〜メモリアル

旅支度のススメ~迷子編


もう随分前のこと。その日は確か午前中パリの半日市内観光。午後からフリータイムだった。旅も終わりに近づいており、ようやくのフリータイムに、疲れきっていた添乗員は早々とホテルに戻りのんびりしていた。

夕刻になったころ、電話が鳴った。相手はもちろんお客様。声が慌ててる…?反射的に ”盗難?”と思ったら ”街中で息子とはぐれちゃったんです”とお父さん。散々探したけど見つからなくて、ひょっとしたらホテルに戻ってるかも?って、急いで帰って来たらしい。
”あの子、何も持ってないんです。お金も日程表も…”

話しながら事態の重みに気づいたのか声が裏返ってる。息子さんは確か高校生?う~ん、困ったね。何も持ってないってことはホテルの名前も場所もわからないよねぇ。しかもホテルはパリ市街地の西の端のさらに外側、デ・ファンスという新市街。きっと見知らぬ街中で途方に暮れてることだろう…

”警察に捜査願いを出すことはできないんでしょうかぁ? お願いしますぅ!”すでに感極まりない状態。

ここは大都市パリ。迷子の捜査願いをした経験はもちろんなかったけど、どう考えても地元の警察がこの観光客でごった返す街中で、たった一人の迷子の少年を探し出してくれるとは思えなかった。もちろん、そうは言えなかったけど…

”心当たりをあたってみましょう。” もちろん、心当たりなんてなかったけど、パリ市街の日系のデパートにでも飛び込んでくれてるといい…なんて、かすかな期待を持って電話してみた。

”高校生の少年なんです。名前はO×△。館内放送してみてもらえますか?”ああ、でも応答なし。 万が一迷子の少年が来たらと、自分の連絡先だけ残した。

う~ん、仕方ない。こうなったら奥の手?だ。持ってた資料で電話番号を調べて、一か八かかけてみた。

”はい、日本領事館です。” 心配するご両親には申し訳ないけど、私は恥をしのんで事情を説明した。こんな事くらいで捜査願いはできるのか、と。すると帰ってきた言葉は…
”もう子供じゃないんだから、自分で帰って来ますよ。

確かに。ここは過保護な日本ではない。よちよち歩きの赤ん坊、あるいはあきらかに誘拐の可能性がある幼児ならまだしも、立派な大人?である高校生が親とはぐれたくらいでパリ市警が動くことはない、ハッキリ断言された。イヤイヤ、おっしゃる通り。

ああ、せめてホテルの名を書いたものでも持っていてくれれば、タクシー拾って帰ってこれるのに。お金なんてここに着けばなんとでもなる…。自分から何かアクションを起こしてくれることをただただ期待するしかなかった。

……そして劇的な結末が


何と迷子になって5時間後、彼は帰って来たのであった。しかも歩いて え~歩いて

これはあっぱれと言うしかない。火事場のバカ力?動物の帰巣本能?実際迷子になったと思われる場所からホテルは直線距離でも10㎞以上。しかも初めての海外、初めての街。地図も何も持たずによくぞここまで… 何でも、夕べ、そして今朝バスで通った道を何となく覚えていたって。確かにここはシャンゼリゼを真っ直ぐ真っ直ぐ、ひたすら西に向かって歩いてくれば着くんだけどね。

ご両親はもうヘナヘナになって泣きじゃくっておりました。よかった、よかった。その後パリの領事館にも報告。思わぬ事で領事館とご縁ができたもんだ。また何かあった時はよろしくと言っておいた。


とまあ、こんなことも海外では起こりうるわけで、要注意はやっぱり家族や夫婦。いつなん時はぐれてしまうとも限らないから、せめてホテル名がわかるものと、小額のお金は各自持ちませう。いざとなればタクシーつかまえて帰れるようにね。はぐれた時の待ち合わせ場所も決めとくといいよ。


写真:カフェ・ドュ・マゴ(パリ)



オリーブの葉っぱ

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