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小説 薄桜鬼『慕情の階』(土方×沖田 黎明録)

2011-05-03 | 薄桜鬼 小説

ゴールデンウィークに、暗い話もなんだと思うので、ちょっぴり話を過去に戻し、まだ試衛館にいた時代、恋愛も始まっていない、土方さんの黎明録編をお届けです。

別名、私のファイルには、 『総司に恋する五秒前』ってタイトルがついておりましたが、ちゃんと、まともなタイトルに変えておきました

 

↓↓↓

◆慕情の階◆(土方×沖田 黎明録)

 出会いは正直、最悪だった。
 こまっしゃくれたガキ。近藤さんにぴったりとくっついて、上目遣いに、嫌な顔で笑いやがる。
 近藤さんに近づくことをけん制するように、何かにつれて邪魔をする。
 おまけに、生意気な口のきき方をする。
 そのくせ、近藤さんの前では、声色まで変えて、いい子を装うのだ。

 「トシ、紹介するよ。俺の弟弟子の沖田総司だ。」
 そういって、近藤さんに紹介された総司は、嫌みな顔をして、
 『姉貴に頼りきりでまともに仕事もしないでふらふらしてる』だの、『悪知恵ばかりはたらく』だのと初対面にあるまじき物言いをしやがった。
 言うことはいちちち的を射ていて、実際反論しようのないことばかりだが、だからこそ、腹が立つ。
 近藤さんが可愛がっている子供でなかったら、その場で叩っ斬ってやったかもしれないくらい印象が悪かった。
 それが今や、こんな関係にあるのだから、人生ってのはわからねぇものだ。
 多分、総司を意識しだしたのは、あのことがあってからだ。
 それまでは本当に、どうにもならねぇガキで、ただ、近藤さんが大事にしてるから、なんとはなしに、まぁ言えば、ひん曲がった弟でも持ったような気分で、仕方ネェから面倒みてやる。
 そんな感じだった。

 その日は、近藤さんに用事を頼まれ、総司とともに、試衛館をでた。
 総司はといえば、当然、いちいち文句をいった。
 近藤さんの前では。
 「はい。まかせて下さい」
 と、これでもかというくらい明るく答えていた総司だったが、俺と二人きりになった途端、
 「なんで、僕が土方さんと二人で行かなきゃならないんですか!」とさっそくと言わんばかりに始める。
 そんな恨み節を聞きながら、ならば、最初から、近藤さんに嫌だと言えばいいじゃないかと苦虫を噛みつぶした。
 総司はそっぽを向いて前を歩き、俺もまた、斜め向こうをみて歩いた。

 事件は、無事、用事事をすまして帰る途中におきた。
 前を歩いていた総司が急に立ち止り、俺は思わずぶつかりかけてなんとかすんでで回避する。
 「おい総司!」
 と、文句をいいかけて、押し黙る。
 総司が前方を、すごい形相でにらみつけていた。
 みつめる先には、俺と同じくらいか、もう少し上くらいの男が数人、かたまって話をしている。
 ふと、その中の一人が、こちらに気づいた。

 「良く見りゃ、貧乏道場のクソガキじゃねぇか?」
 気付いた男たちがこちらに近づいてくる。
 どうやら総司を知っているらしい。
 総司はその男を睨んだまま、びくともしない。
 俺は、いささか相手のものいいにムッとしたが、やはり黙ってそれを見た。
 「相変わらず生意気な面しやがって!!家に捨てられたガキのくせに、うろうろしてるんじゃねぇよ」
 黙って聞いていたら、有ることないこと好き勝手言いやがる。
 だんだん、我慢ならなくなって、
 「おいっ」
 と総司の後ろから声をあげる。
 「あぁ??」
 男は俺のほうをにらみながら目をスーッっと細めてにらみ上げる。
 「てめぇ何者だよ」
 すごむ男に、総司が冷めた声で言う。
 「この人は関係ないんで、気にしないでもらえます?」
 「総司、関係ないは無いだろう」
 俺が抗議しても、ぶっちょうずらのまま、男を睨んで立つ。
 「はん、なんだ?あぁ、あれか、とうとう、貧乏道場も、金に困って色子にでもだされたか?」
 「なっ!!」
 あまりの言いように声をあげる。なんなんだこいつらはと、俺の眉間に皺がよる。
 「あはは、なんなら俺らが買ってやろうか?ん?足開いて、鳴きわめきゃぁちょっとは大人しくなるんじゃねぇのかよ。」
 汚い手で、総司の顎に手をかける。
 嫌そうに総司がグイっと首をひねってそれに抗う。
 「ん?もうそいつに抱いてもらったのか?どうだよ、具合はいいもんか?あぁ、あれか、もうすでに、家に売られた総司くんは、道場の皆に回されてますってか?(笑)なんだっけ、あそこの次期跡取り、近藤勇とかいったか?百姓あがりのにわか侍に可愛がってもらってりゃ藩士の息子も落ちたもんだなぁ」
 そういって、ガハハと嫌な笑い方をする。
 近藤さんの名前に、総司が下を向いて小さな拳をギュッとにぎる。身体が小刻みに震えた。
 総司がその手をくりだそうとするより早く俺はそいつの胸倉をつかんでいた。
 えっ?と手を出しそこねた総司が、目を見開いて俺を見る。
 「てめぇ、黙って聞いてりゃ、好き放題いいやがって。何もしらねぇで、勝手なことぬかしてんじゃねぇ。」
 吐き捨てながら、男に殴りかかる。
 それには、にわかに他の男も色めき立つ。
 「土方さん・・」
 茫然と、総司が俺を見て口を開けていた。
 俺から見ても、総司はそうとう生意気なガキだ。しかし、言いたい放題言われる総司を見てるのは、どうにもおさまりきらねぇ。
 当然のように、相手が反撃をかえしてくる。下から繰り出された拳が懐にあたり、一瞬、内臓が口からでそうな衝撃をうけた。
 それでも、俺も反撃をする。そばに落ちていた倒木を拾い、手にする。
 道場で使っている木刀とそう重さもかわらない。
 ぐっと、それを握りしめ、相対する。相手もまけじと、剣をぬく。
 相手は武士だ、大小二本の剣を携えて、俺が憧れてならない武士のかっこうをして、汚いことをいいやがる。
 それが余計に頭にきた。
 総司を後ろ手に引っ張って、隠しながら、相手の攻撃の手を読む。
 正直バカだと思う。
 自分ひとりに相手は5人。自分は棒っきれで、相手は真剣。天と地ほどの差がある。
 他流試合じゃ、お互い、同じ竹刀か木刀を持って戦うが、撃ち込まると斬れるのではどうしたって格差がありすぎる。
 抜かれた刃の光を見ると、じわりと額に汗が浮かんだ。
 だが、ひるんだらやられるだけだ。向かい来る相手に、木刀をふるって、その切っ先をかわす。さらに、かかる巨体の内に斬りこみ、溝打ちに突き出す。
 うまく入った突きに相手がぐらつくが、多勢であるがゆえに、それだけでは終わらない。
 さらにくる相手に、砂塵を蹴って、眼をつぶす。
 「グアッ」と声があがるが、またさらなる新手がくる。その鈍色の切っ先が腕にあたる。
 その刃が擦れて俺の腕を斬る。鮮烈な痛みが走ったが、耐えて、深出にならないように、場所をそらした。
 1ヶ所斬れただけで、ズンと、腕が重くなった気がする。
 負けたくなかった。
 痛みで棒を手放さないように、さらにギュッと握りしめて対戦する。
 が、その横から、次の剣がせまる。
 一度斬れたことにより、痛みを覚えた身体がは、一瞬それに委縮する。
 「土方さんっ!!」
 斬られるかと思った瞬間、その間に、もう一本の棒っきれが押し入ってそれを食い止める。
 「総司っ」
 総司が、つかんだ倒木を繰り出して、その剣先を食い止めて押しやった。
 さすが、小さいくせに、剣の才能があると皆がたたえるだけのことはある。
 大人相手に、物おじしたところがない。
 「総司、怪我をするからあっちへ言ってろ」
 「バカ言わないで下さい。あんたが、勝手に僕の相手に手を出したんでしょう」
 相手を突きで飛ばすと、それをつかみ治してかまえる。
 総司の手から、近藤さん仕込みのまっすぐで、俊敏な剣筋が光る。
 たとえ、それが、ただの倒木でも、真剣のそれとかわらない勢いで相対した。
 一方俺は、他流試合や自己流で、どうにも天然理心流にはととどかねぇが、場数だけはくさるほどある。
 勝ちたい、ただそれだけだ。
 俺は、勝てりゃぁなんでもいいと思ってる。卑怯だろうが、なんだろうが、使える手はなんでも使う。
 砂を巻き上げ、周りの木々を旨く使い、向かい来る多勢を一人ずつ薙ぎ払う。
 相手が参ったと根をあげるまで、俺も総司も一歩もひきはしなかった。

 相手が逃げて行く。
 とはいえ、背をむけた瞬間に、また反撃されても面倒だ。俺は総司の掌をつかむと、足速くその場から立ち去る。
 ずんずんと、無言で、いつ、襲いかかられても大丈夫なように、棒っきれは離さない。
 勢いよく、ぐいっと手ををひっぱられ、一瞬よろめきながら、なんとか耐えて、総司も黙ってついてくる。
 子供の頃は、歳が違えば、背の高さも随分違う。
 当然足幅も同じようにはいかないもので、
 多少、総司は小走りをすることになるが、総司もまた相手を警戒しているのか、不平をもらすことはなかった。
 ずんずんずんずん、とにかく歩いた。
 ただ、がむしゃらに、総司の腕をひっぱって歩いた。
 なんとか、相手をまいた頃、やっとこ手をはなして立ち止まる。
 ハァハァと息をならしながら、二人同時に地面へ座りこんだ。

 「本当に、バカじゃないですか、土方さん」
 荒い息を繰り返しながら悪態をつく。
 「うるせぇ」
 想うよりも緊張していたらしい。握った手のひらが汗でぬれていた。
 後ろに手をついて、空を見上げて、息をする。
 どちみち、俺が手をださなくても総司はきっと手をだしていた。
 他のなんであれ、近藤さんのことを言われると、どうにも我慢ができないのだろう。
 乱闘になったら、まさか俺がそれを放り出して逃げるわけにもいかないし、そんなことでもすれば、もう一生、近藤さんには会えない。
 だからきっと、結果は同じだと思う。
 でもただ、なんとなく、こいつに一番に、手を汚させたくなくて、気がついたら、手と口がでた。
 あんな奴の為に。そう、思った。
 相手が武士だからってのもあるが、それ以外のもっと何か他のものが俺を突き動かした気がした。
 二人のなりは、どうしようもないくらいボロボロだった。
 服は、刀で何ヶ所か斬れちまってるし、場所によっては、肉まできられて、血がにじんでいる。
 顔も腕も汗と土にまみれて、真っ黒だ。よく見たら、総司の草履の鼻緒は切れてしまっていた。
 よくここまで歩いてきたものだ。
 でこぼこの山道で、石や落ちた枝などもたくさん落ちていた。
 「大丈夫か?」
 横に座り込んでいる総司の足に手をやる。
 土に汚れた小さな足は、擦り切れて、ところどころに血がにじみ、なんとも痛々しく感じた。
 「土方さんこそ、大丈夫なんですか?それ」
 総司が俺の袖をひっぱる。
 剣ですっぱりと斬れた着物に、黒く血がにじんでいる。
 必死すぎて忘れていた。
 麻痺しているのか痛みを感じていなかったが、けっこう深く切れている。
 だが、腕は動くし、血もほとんどとまっているから、まぁ大丈夫だろうと思う。
 「そういや斬れてたな」
 自分のことなのに、まぬけな答えを返す。
 総司があきらた表情で俺を見る。
 それをしり目に、途中まできれた袖を引きちぎり、自分の腕にまきつける。
 「大事ねぇよ。それより、お前の足だ。大丈夫か?とげとか刺さってねぇだろうな。
 自分のことをそっちのけで心配する俺に、総司が笑う。
 「なんだよ」
 「別に、なんでも。ただ、言っときますけど、絶対、土方さんのあのインチキな薬は飲みませんよ」
 「お前!!インチキって言うなよ。一応、れっきとした薬として売ってるんだぞ。」
 「だから、一応ってつく時点で、薬じゃないじゃないですか。そんなに言うなら、土方さんが治るか試しに飲んでみてくださいよ。丁度いいじゃないですか」
 総司の言う、石田散薬。実家で作ってる薬だが、言うとおりで、どうにも怪しい代物だ。
 「。。。なおらねぇよ」
 「ほら、自分で言ってたら、洒落にならないじゃないですか」
 「うるせぇ」
 そう言って、唇をつきだす。

 「本当、よく勝てたな俺たち」
 もう一度、手足を放り出して空を見上げる。
 「僕が強いからじゃないですか?」
 いけしゃぁしゃぁと総司が言う。
 「ばぁか、てめぇ一人じゃ勝てねぇよ」
 「・・・勝てますよ」
 「勝てねぇって」

 「・・・勝てるようになって見せます!!」
 自覚はあるのか、ムッとして総司がそう言って頬を膨らますと、二人顔を見合わせて、笑いあった。
 別に面白いことがあったわけじゃないのに、何故か二人してしばらくバカみたいに笑ってた。


 「帰るか」
 立ち上がってパンパンと手の土をはらう。
 そして、総司の手を引いてたちあがらせ、
 その前に膝をついて背中を見せる。
 「ほら、のれ」
 「えぇっ!!」
 嫌そうに総司の顔がいがむ。
 「いいから乗れ。それとも抱っこでもしてほしいのか?」
 「い、嫌ですよ」
 総司は首をふるが、問答無用で、総司の身体をひくと、さっさと背中にのせて立ち上がる。
 「ほら、ちゃんとつかまってねぇと落ちてしまうぞ」
 本当に落としてはしまわないように、しっかり足元を持って、後に倒すような仕草をしてゆすると、あわてて総司が俺の首に捕まった。
 夕闇せまる、多摩川の土手道を、総司を背負って歩いていると、不意に、総司がギュッと、俺の着物をつかんだ。
 なんだ?と思った。
 総司が鼻をすする音がする。何度も身体がゆれて、その度に、鼻をすすり、ギューッと着物を握りしめ、背中に顔をおしつけてしがみついた。
 そのうち、ジワリと、背中が濡れた感覚を覚える。
 総司は声を出さずに泣いていた。
 我慢していた何かがふいにプツリと切れてしまったのだ。
 多分、こいつは、それを指摘されたくはないだろう。
 人一倍自尊心が強くて、相手に弱みを見せたがらない。
 まだ、俺が近藤さんに出会う前の話では、他の兄弟子に随分いじめられもしたらしい。
小さくして、預けられ、兄弟子には言いたい放題言われ、あいつらが言っていたみたいに、家に捨てられたという想いを抱いていたこともあるらしい。
 今じゃ、総司の姉のミツさんもよくここに顔をだし、総司に会いにもやってくる。
 悔しくて、悔しくて、見返してやりたくて、一人でそれを耐えて、剣術を習得して、だからこいつは、あんなにも強くなれたのだ。
 兄弟子たちをもしのぐくらい強く。
 そんなかたくなな想いを溶かしたのが近藤さんで、だから、こいつは近藤さんがすべてなのだ。
 そうして強くなってもまだ、きっとこいつは今も耐えている。
 あの様子からして、あぁいう言われ方をしたのは、一度や二度じゃないのだと思う。
 内弟子だちは今じゃ何も言わなくなったが、外までそうとは限らない。
 噂なんてものはすぐに広がるものだから。
 言われる度に、悔しくて、悔しくて、悔しくて。

 歩くうちにずれてくる総司を、落とさないように、身体をゆすって背負い直す。
 俺は気付かないふりをして黙って、ただ歩いた。
 初めて総司を愛おしいと感じた。
 虚勢を張って、無理をして、それなら、俺は、いくらでもこいつの嫌味な口に答えてやろうと思った。
 こいつが我慢しなくていい相手が俺になればいいと思った。
 誰にも頼れないのは、誰にもそれを吐き出せないのは、あまりにもつらすぎるから。
こいつを守ってやりたいと、初めてそう、心から思った。


 

◆◆◆

 試衛館にかえりつくと、総司の姉、ミツさんが来ていた。
 予定よりも遅い帰りを心配して、門前でキョロキョロとあたりを見渡している。
 泥だらけで傷だらけという俺と総司の姿を見つけて、驚愕し、口を覆う。
 「いったいどうしたというのです」
 駆け寄ってくるミツさんに、俺と総司は顔をあわせて困った顔をした。
 「あー、その、ちょっと帰り道に、寄り道をしたところで、うっかり二人して土手から転げ落ちてしまいまして。」
 嘘である。
 「違いますよ。土方さんが転げ落ちかけるから、僕が手をのばしたら、まきこまれたんです」
 もちろん。嘘である。
 「総司ってめぇな」
 「なんですか?巻き添えくったのは間違ってないじゃないですか。」
 「うるせぇ、そもそもお前がな!!」
 といきなり言い合いをはじめる。
 土手から落ちたというのは、帰る途中で申し合わせ話だ。
 まさか、武士とやり合ってきたなんて言えたもんじゃない。
 さっきまで、背中で泣いていたくせに、弱みを見せない総司は、いつもの通りの反応をする。
 「もう、わかりました。いいから、さっさとその泥を流していらっしゃいな。傷が化膿でもしたらどうするんですっ!!」
見かねたミツさんが声をあげる。
 この人を怒らせると怖い。ここは逃げるに限ると、総司をおぶったまま、水場へかけこむ。
 

 水がかかると、すこぶる傷口にしみた。
 「痛ってぇ」
 たまらず声をあげると、総司がおかしそうに笑って言う。
 「あれ、傷口、大丈夫だったんじゃないんですか?」
 先ほどまで泣いていた形跡はひとつも感じさせない。
 「うるせぇーーー」
 染みる傷口をフウフウと息でふく。
 そういう総司もまた、水が傷にかかるたびに、顔をしかめて我慢している。
 「てめぇこそ、痛ぇなら痛ぇっていえよ」
 「痛く・・・ないですから」
 「ふーん」
 白んだ目で見下ろすと、おもむろにバシャンと勢いよく水をかけてやる。
 「痛っ!!」
 「あはは、やっぱり痛ぇんじゃねぇか」
 「もう、土方さんのせいじゃないですかっ!!」
 今度は、総司が水をかけてくる。
 いつしか、水かけ我慢大会状態になり、ぎゃぁぎゃぁとののしりあう。
 「あなたたち、いい加減になさいっ!!」
 ミツさんの雷が落ちるまで続けていた。

 傷の手当てを手伝ってくれた近藤さんが、ミツさんに気づかれないように耳打ちする。
 「土手から落ちたんじゃないだろう、これは」
 さすがに、刀傷まではかくせねぇか。
 「すまねぇ」
 素直に小声で謝る。
 「かまわないが、・・・総司にまだ、何かいうやつがいるのか?」
 近藤さんがそれを見たことはないが、たびたび、源さんが、そういうことを耳にしたことがあって聞いていたらしい。
 「・・・・いや、ちょっと試衛館のことを悪くいうやつがいて、俺が我慢できなくて喧嘩を売っちまっただけだ。・・・・て、そういことにしといてくれねぇか」
 ミツさんに手当てをされている総司に目をやって小さな声で囁く。
 「すまないなぁ」
 自分の聞いたことが本当なのだと悟って、また、総司のためについた嘘と理解した近藤さんが、頭を下げた。。
 ミツさんが聞いたらきっと悲しむ。
 「近藤さんのせぇじゃねぇさ」

 何故だかわわからない、ただどうしようもなく、気になって・・・心がもやもやと渦巻く。
 総司のことが、恋愛感情として好きなのだと理解するまでには、まだ少し、時のいる話である。

 

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