野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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小説 薄桜鬼『零れ落ちる想い』(土方×沖田)

2011-04-25 | 薄桜鬼 小説

もう少しばかり、つなぎ的な話にお付き合い下さい。
土方×沖田。
油小路からなお話です。

どうしても、描きたい話が、これから先なもので、このあたり、内容薄くて申し訳ないです。

 

 

◆零れ落ちる想い◆

 慶応3年11月。
 後に油小路の編と呼ばれる事件がおきた。
 伊東甲子太郎ひきいる、御陵衛士の同行をさぐるため、密偵と行かせていた斎藤から、伊東たちが、新選組に対して、敵対行動をしているとの報告が入り、それを阻止する為に、伊東暗殺にいたった事件である。
 その事件のおり、御陵衛士側にいた平助が、致命傷となる傷をおった。
 伊東さんについて新選組を出てからも平助は迷っていたという。
 横やりにきた鬼と戦うため、その思いをふっ切って原田や、永倉とともに、格闘し、新選組へ戻ろうと決めた矢先のことだ。
 命を落としかけるその最中、平助は羅刹になることを選んだ。
 こうして、また一人、人ならざるものへと姿をかえた。
 
 そしてもう一人・・・。


◆◆◆

 千鶴の兄だという南雲薫が、病で臥せっていた総司と、留守番をさせていた総司の前に姿をあらわした。
 刀を握ることすらままならなかった総司は、南雲薫が持ち込んだ変若水を飲んでしまったのだ。
 彼がつれこんだ、羅刹どもと戦うには、それしか方法がなかった。
 何より、刻一刻と落ちて行く、今の状況、もし、それを飲んだなら、自分の病が治るかもしれない、そういうかすかな期待もあったのも確かだった。
 羅刹の力は、一瞬にして、立ちふさがる敵を斬り伏せる力を与えたが、結局、総司のもつ病は、良い方向へ動くことはなかった。


 屯所にたちかえり、総司が変若見水を飲んだことを聞くと、一気に血が引く感覚をおぼえた。
 意識をなくしたらしく、布団に横たわる総司を見下ろしながら、ギリギリとこぶしを握る。

 「土方さん?」
 目をさました総司が、まだ環境になじめないというふうに何度か、まばたきをくりかえしながら呼ぶ。
 「総司!」
 「何、怒ってるんですか?」
 総司が、俺の顔をとらえながら、困ったように笑い、顔をしかめる。
 「怒ってねえよ」
 「でも、眉間にしわ、よってますよ。僕が、あれを飲んだの、気にしてるんでしょ」
 困った顔をしたまま、俺をみつめる。
 「大丈夫なのか?」
 眉間にしわを寄せたまま、総司よりも俺の方が苦痛な声をだす。
 「どうかな、体はちょっとだるいけど、ケホッケホ」

 そう言いながら、はじかれたように数度咳き込む。
 体を起こそうとするので、支えてやりながら背中をなでる。
 「なんだ、ロウガイはなくならないんだね。山南さんが、病気も消えるかもっていってたから、少しくらい、期待してたんだけど」
 残念そうに胸をつかんだ格好でそう言って、また咳き込む。
 「・・・」
 「まぁでも、少しはましになったかな」
 総司が自嘲めいた声で笑う。少なくとも、羅刹相手に、戦えたということを指して言っているのだろうが、そんなこと、笑える話ではない。
 そうだなぁと答えれるほど心は狭量で、いいようのない不安だけが、次から次へと押し寄せてくるのだ。

 「土方さん、お願いがあるんですけど」
 「なんだ?」
 ふいに、抱きかかえた胸元に顔をうずめて、総司がいう。
 ギュッと俺の襟元を握りしめ、決して顔をあわせぬまま、小さな声で囁く。
 「もしも、・・・もしも僕が血に狂ってしまうようなことがあったら、その時は、土方さんが斬って下さいね」
 「そ、う・・じ」
 息がつまる、聞きたくなかった言葉。聞こえないふりをしてしまいたかった。
 背中をさする手がとまる。それは、聞こえたことを総司に伝えてしまう。
 「ごめんなさい、土方さん、でも、僕は、強くて、我がままだから、できるの、土方さんだけでしょう?」
 握る手の力がさらに強く、小刻みに震える。
 怖いと背中が泣いている。
 どんどんと、音を立てるように、崩れていく。
 近藤さんの後をくっついて、ただ、強くなろうと剣を習った総司が、人斬りになり、死病にかかり、そして、とうとう、羅刹になってしまったのだ。
 手から湯水のようにこぼれていくのだ。何一つ守れずに。


◆◆◆

 慶応三年12月。
 奉行所の守りについていたおり、近藤さんが打たれ、右肩を負傷した。
 不幸中の幸い、馬を狙われず、落馬しなかったことが幸いだった。
 近藤さんのまわりは手薄で、しかし、警護を減らすといったのは、近藤さん自身であったが、それを認めたのは俺であることに変わりはない。
 そのことを聞いた総司は当然のように逆上した。

 何故、こんな時に少ない警護でいかせたのかと、俺に向かってつめよった。その日は、けんか別れに終わってしまったが、
 翌日には、何事もなかったように隣に立ち、大阪の松本先生に近藤さんを託すために一緒にそれを、見おくっていた。
 1日たって、落ち着いたかのようにも見受けられて安堵していたのだが、ふいにおこった銃声を聞いた総司が制止も聞かず、走り出す。
 総司の居場所を見つけ出し、かけつけた先では、すでにすべてが終わっていた。白い髪の人影がゆらりと揺らめく、周りには、切り捨てられた御陵衛士の躯。
 始めてみる、総司の羅刹の姿だった。
 血塗れた剣を握ってたたずむ、その姿が振り向く。
 「総司!!」
 思わず、名前を呼ぶ。血に狂ってしまってはいないのか?

 『もしも、僕が血に狂ってしまうようなことがあったら、その時は、土方さんが斬って下さいね。』

 結局、返事ひとつできなかったが、今がそうでないように、ひたすらに願い歩み寄る。
 『後先どうのなんて、考えなくていい。俺が全部責任とってやる。』
 確かに昔、そうも言ったが、お前に死なれるのだけはまっぴらごめんだ。まして、この手で斬ることなど。
 たとえ、羅刹でも亡くしたく無い思いは変わらない。
 お前の好きな、近藤さんだって、絶対望みやしないのだから。

 遠い方をみつめた総司の紅い瞳がゆらめく。
 俺の姿をとらえ、哀しげな顔をした瞬間、収まっていたはずの銃声がひびき、総司の体が、その音に反応するように、一瞬はね、「グッ」と鈍い声をあげた。
 まだ残っていた残党が、総司にむけて、銃弾を放ったのだ。
 数発うちぬかれた体はぐらりとゆれて、その場に崩れ落ちる。それと同時に向こうで「ぎゃぁっ」という叫び声があがった。、
 どうやら、調査にいかせた、隊士たちが、銃弾をうった男をみつけ、死末したのだと思われた。
 急いでかけより、崩れ落ちた総司を抱きかかえて、その名をよぶ。
 「総司!」
 何度も名を呼び、体をゆする。
 「総司っ!!」
 白い髪がもとの総司の髪色をとりもどす。うつろな目で俺の顔を眺めたその瞳から、返り血をうけて染まった紅い滴が静かに頬をこぼれ落ちていった。
 ほんの少し微笑んで、そのままゆっくりと目を閉じた。
 すぐさま、奉行所に運び込み、治療をほどこしたが、羅刹なら、すぐに治るだろうその傷は、全く治る気配をみせず、銃弾でうちぬかれた傷口は、熱をはらんで、総司を苦しめた。
 拳銃の銀の鉛の玉には、羅刹をもその治癒能力を遅らせる力があるらしい。
 近藤さんの後をおうように、総司もまた、大阪の松本先生のもとへ搬送されることとなった。


<散らない花 第十章>
 終

いつの間にやら、カウンターが1万を超えておりました・・・。

ありがとうございます。

どこまで楽しんでいただけているか、謎ですが、思うまま、今まで通り、のらりくらりやってまいりますので、

お付き合いいただけましたら嬉しいです。

拍手もたくさん、本当にありがとうございます。

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