野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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京都旅に夢中。

小説 薄桜鬼 『誓い』(土方×沖田)

2011-03-06 | 薄桜鬼 小説

本日は、小説。土方×沖田です。

黎明録、沖田さんのエピソードから、こうだったらいいのにな、妄想でお送りしております。

今思えば、本当に俺も、近藤さんもあの頃は甘すぎたのだ。
総司のほうがよほど、覚悟ってもんをもってた。
今は甘くなくなったのかといえば・・・まぁ多分、まだまだなのだ。
いつだって総司に教えられてしまうのだ。
自分の甘さを、守りきれなかった事実を・・・・。

 

総司には、人斬りなんてさせたくないと想っていた。
思っていたのに、江戸から京都までつれてきてしまったのがそもそもの間違いだったのかもしれねぇ。
つれてくるだけ連れてきておいて、今更、帰れといって、納得して帰るようなそんな奴じゃないと本当は知っていたはずなのに。
その結果がこれだ。
わかっているつもりで、結局ひとつもわかっていなかった。
だから、俺たちは・・・・俺は、総司に人きりをさせてしまったのだろう。

芹沢さんに影響されすぎていることまでわかっていたはずなのに、最悪の道を歩かせてしまった。
どんな思いで総司が京都までついてきたのか、なんで俺につっかかるのか。わかっていた、はずなのに。

「あなた方は甘すぎるのですよ。彼のことは、私にまかせてください」
そう、山南さんはいうが、いつかはきっちり形をつけなきゃいけねぇことだ。
今までの俺のやり方じゃいけねぇ、近藤さんを押し上げて、この新選組を作り上げてくためにも、総司のためにも。


「総司、入っていいか?」
総司の部屋の前で足をとめ、蝋燭の明かりでほの明るくともされた部屋の主を呼ぶ。

「なんですか?僕、忙しいんですけど。刀も手入れしとかないといけないですし」
思った通り、『拒絶』という看板を立てかけた声音が帰ってくる。
「そういわずに、入れてくれねぇか?」
ここで引くわけにはいかず、極力、静かに諭すような声で念押しの一言をかける。
長い沈黙のあと、スーッと中から障子が開いた。いつの間にか、自分より高くなっていた長身が廊下にたつ俺を冷たい顔をして見下ろしていた。
俺の姿を一瞥だけして、フイッと顔をそらして、また中に戻っていく。

入っていいとは言わなかったが、障子をあけたまま戻っていったのは良いという証だろう。
そうでなくても、自分がここを立ち去るつもりはないが。


部屋に入り、障子をしめ、総司の差し向かいに腰をおろす。
総司が居心地悪そうに顔をそらした。
江戸に帰れと言ったあの日を境、芹沢さんにそそのかされて、殿内という隊士を斬り、さらに大阪で、力士を斬ったことを近藤に怒られてからずっとそうだ。
こうやって、目線の先に立とうとすると必ずそれをそらそうとする。
刀の手入れがと総司はいったが、見たところ、そんな気配はひとつもない。
愛用の刀も、鞘におさめられ、部屋のすみに並べられている。
手入れ用の道具が広げられている形跡もなかった。

「総司、お前に話しておきたいことがある」

「・・・・」

「前に、江戸に帰れっていったことの。。。」
「嫌です!!」
間髪いれず、話もろくに最後まできかずに、総司が叫ぶ。
俺はそれをうけて、目をつぶり、深いため息をつく。そして少し強い口調で言う。

「いいから聞けっ」
「嫌ですっ!!」
すぐまたかぶせるように叫ぶ。

「あぁもうっ」
話をしようとすると嫌だと叫ぶ。らちのあかない総司に自分も少々いらだち、そしてつい、総司に手をのばした。
身構えすぎて、逆に体制をとりそこねたのか、総司はいとも簡単に自分の下敷きになる。
その下で総司が瞠目し、なされるままに見上げている。
もう少し穏便に話をしようと思っていたのに、こういうところがダメなのだとまた山南さんあたりに言われてしまいそうだ。
あの芹沢さんにもきっとバカにされるのだろう。
それでもどうしても伝えておきたかった。

思わず押し倒した腕の力を少しぬき、それでも逃がさないように、上から見下ろしたまま、言葉をつづける。
流れ落ちた黒髪が陰を落とす。それでも気にはしない。

「別に、お前を追い返そうとか、もう、思っちゃいねぇよ。だから聞いてくれねぇか?」
子供にいいきかすように、いくらか口調を優しくする。
まっすぐ、総司の目を見て。ひとつひとつ取りこぼさないように。
「近藤さんも、俺も、お前のことが大事すぎて仕方ねぇんだ、江戸までつれてきときながらいう台詞じゃなかったと思う。けどな、それでも、お前には人を斬るとかそんな物騒な世界にいてほしくなかった。
何をいおうが、総司が近藤さんの為に役に立ちたいって思ってるのはしってるが、それでもまだ、道はあるんじゃねぇかって、今からでも遅くないんじゃないかってあまっちろい夢を描いちまったんだよ。
結果、お前を傷つけたうえに、一番やらせたくなかったことをやらせちまって、ついていけてねぇ俺がここにいる。」

観念したのか、総司はおとなしく、その言葉を聞いている。時々、言葉の端々に反応して、瞳や体がゆれるが、かまわず続ける。
「お前の覚悟は、いやってほどわかった。いや、多分、わかっていたのに、気付かないふりをしてた。その結果がこれだからな。何やってんだって自分を責めても責めたりねぇ。
でもな、覚悟をちゃんと決めることにした。だからもう、帰れなんて二度といわねぇ。近藤さんのためにできることがそれしかねぇってんなら、かまわねぇよ。思うとおりにやればいい。
迷う必要なんてねぇ。後先どうのなんて、考えなくていい。俺が全部責任とってやる。でもな、一つだけ、忘れねぇでくれないか?近藤さんも、俺も、お前を亡くしたくねぇんだ。」

「土方さん、、それってなんか、すごい告白みたい。ですけど・・・」
と黙って聞いていた総司がちょっとだけはにかみながら先程とは違い、頬をそめて目線をそらす。
「うるせぇよ。あぁそうだよ、告白だよ、悪いか?!」
面と向かって言われると恥ずかしくなる。多分きっと耳が赤くなってる・・・気がする。
でも、そのつもりで来た。

俺はこいつを守りてぇ。その為なら、鬼にだってなんだってなってやる。

新選組のために、こいつの剣の腕を使わなければならない時はきっとこれから数え切れないくらいある。
そのたびに、血なまぐさく、汚れていく総司を見続けなきゃならねぇだろう。
誰からでもない、俺の口でそれを命じることになるのだろう。
だからこそ、もう逃げないと決めた。総司から、総司の思いから、総司への思いから。
「あはは、土方さんって・・」

そういえば、さっきから総司を押し倒したままだった・・!!と思い、なんだかそれすら恥ずかしくなってくる。
この体制をどうしようかと思わずキョロキョロしてしまう。
それをおかしそうに、総司が笑う。
「な、なんだよ?」
「・・・・すごいなぁって、、、思っただけですよ」
「なんだそれは、俺はこれでも真剣に!!」
いろいろ取り繕っても旨くいかないのはわかっているが、とにもかくにもこの体制をどうにかしようと体をおこそうとするとそれを拒むように、総司に前襟をつかまれて引き戻される。

「総司!」
引っ張られて、押しつぶしてしまいそうで、肘をついて自分をささえる。ひきあげようにも、総司の腕の力にはばまれて無理に起き上がることもできなくなった。
「ちょっとだけ、そのままでいてくださいよ。」
「総司?」
おちついて見てみると、俺の胸に顔をうずめた総司の肩が小刻みにうごいていた。
笑っているのではなかった。
「総司・・・・」
力をぬき、少し体重を横にずらすと、俺は総司をそっとひきよせながら、柔らかい、茶色の髪をなでた。
泣くこをあやす親のように。
総司が離れるその時まで、優しく何度も髪をなでた。


子供の時から、一人、天然離心流の道場にあずけられて、兄弟子たちに虐められて、それでも負けずに上をむいて歩いてきた。
泣かない子供。
いつか強くなって見返してやる。その思いは、やがて、近藤さんへの思いにかわり、
近藤さんの為に強くなりたい。そればかり考えて、さして成長しない子供の心のまま、大人の顔をすることがうまくなった。
そして一人、ずっと深い奥底で涙を押さえ込んで生きていた。
近藤さんと仲良く話す俺の姿を見て、総司は何を思っていたのだろう。

どれだけしたっても近藤さんの隣にはたてない自分。
その思いを隠して隠して、ただ、近藤さんのようになりたくて、なれなくて、一番すきなはずの近藤さんを騙してでも、彼のためにありたいと、誰よりもその剣を握る覚悟を決めて。
近藤さんがそれを望まないことを、本当は一番総司が知っているのだ。
知っていてもそれしかなかった。
『・・・すごいなぁって思っただけです』
そして、ずっと俺を羨望の眼差しで見つめながら、いつ、それが、近藤さんへの思いから俺への思いにすりかわったのさえ、気づかずに。

「土方さん、僕は、新選組の剣になりますよ。近藤さんを守る剣になるんです」
胸元に顔をうずめたまた、総司がつぶやく。
「あぁ」
自分は体制をかえぬまま、それに答える。
「こんな僕でも、土方さんはいいんですか?」
「あぁ、かまわねぇさ。もう決めたんだ。必ず、近藤さんを押し上げてみせる。お前と一緒に・・・な」


芹沢鴨暗殺が起こったのはこれからすぐ後のことである。
迷いのない剣先は、ただ一つ、信じるもののために、冴え渡る夜の静けさを切り裂いてきらめく。
もう決して逃れられない、終焉へと向けて。

。。。続く、かもしれない。。。


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