試衛館時代、端午の節句のちょっぴり苦い思い出話です。
一部BL表現を含みますので、苦手な方はご注意下さい。
本日は、土方さんの誕生日。
全力で、お祝い気分続行中です。
自作画像もちび沖田さんでお祝い。
ちび沖「土方さん、僕もお祝いしてあげるよ。柏餅と僕どっちがいいの??」
土「うっ・・・(可愛すぎる・・)」
そんなわけで、小説参ります。
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◆端午の節句に苦悩する◆(土方×沖田 黎明録)
「トシ、ちょっとばかり、買い物に付き合ってはくれないか?」
近藤さんがそう切り出したのは、5月5日の朝のことだった。
試衛館をおとづれた俺の顔を見るなりの申し出に、首をかたむける。
また改まってどうしたことかと怪訝な顔で近藤さんの顔を見た。
その言葉を庭先で木刀を振るいながら聞いていた総司が俺の方をギロリとにらむ。
が、俺は見なかったふりをした。
「かまわねぇが、また、改まってどうしたんだよ近藤さん。」
「いやな、うっかりしていてなぁ」
と近藤さんが申し訳なさそうに頭をかく。
「ほら、今日は端午の節句だろう。それでだな、いつもなら、源さんや山南くんあたりが、柏餅やら菖蒲やらを買ってきてくれるんだがなぁ。どうも今年はいろいろと忙しくしていたら皆して忘れてしまっていたのだよ」
「柏餅に菖蒲ですか?」
「あぁ、総司になぁ。立派な兜や、鯉のぼりは買ってやれんが、せめて、祝い事くらいは開いてやらねばいかんだろう」
そう、近藤さんが言うと、聞いていた総司が木刀を小脇に抱えてテクテクと俺たちのいる縁側に歩いてくる。
「嫌だなぁ、近藤さん。別に僕もう、そんな、子供じゃないですよ」
と総司。
「・・・十分ガキだろうが」
すかさずつっこむ俺の悪態に、総司がムッっとした顔をして、下から睨み上げてくる。
風体も中身もまんまガキそのものだ。
「土方さんに言われたくないですね。未だに、お姉さんに世話になってるなんて、それこそ子供じゃないですか」
「俺だって、てめぇにだけは言われたくねぇってんだ」
「なんですか?やるんですか?」
総司が手に持っていた木刀を俺にむけてつきだす。
「こらこら、総司、そんなことを言っちゃいかんぞ」
一触即発になりそうな空気に近藤さんがあわてて口をはさむ。
「すみません、近藤さん」
近藤さんが、総司を諭すとコロリと態度をかえやがった。
相も変わらず、生意気な面をして、生意気な事を言う。
「うん、うん分かれば良いのだよ。いやはや、子供扱いをしてしまって悪いがなぁ。まぁこれはあれだ、年上の者がだな、年下のものを思うとだな、ぜひとも、もっと、強くたくましく育って欲しいという願いゆえに祝ってやりたいという、まぁ俺たちの我がままというやつでなぁ」
「近藤さん」
「だからなぁ、まぁせいぜい、菖蒲を軒つるして、皆で柏餅を食べることくらいしかできないが、つきあってくれんかな」
「そんな、僕、嬉しいです、近藤さん。」
心底嬉しそうに、総司が満面の笑みを浮かべて笑う。
「よし、そうと決まれば、さっそく、買いにいかねばな、早くせねば、売りきれてしまってはいかん。これでも相当に出遅れているからなぁ。トシ、かまわんか?」
「あぁかまわねぇよ」
俺の答えに嬉しげに歯を見せて笑うと、そうだ、と総司にも声をかける。
「総司も一緒にいくか?」
「はい、もちろんです」
総司は、明るく答えたが、近藤さんが歩き出すと、その後ろで、なんとなく複雑そうな顔をした。
3人連れだって、街中を歩く。
多摩の田舎ながらも、裕福な家では、鯉のぼりが泳ぎ、あけ放たれた、格子の向こうに、ときおり、立派な鎧かぶとが見え隠れする。
村中じゃぁそれほどでもないが、さすがに、商店の建ち並ぶところにくると、設えもそれなりに豪華なものが多い。
小さな子供は、菖蒲片手に、チャンバラごっこをして遊び、そこかしこに、甘い菓子の匂いがした。
俺の家にも、鎧かぶとこそなかったが、地元じゃそれなりの裕福な農家で、鯉のぼりはあった気がする。
親父は、俺が生まれる前に他界していたが、母親が、健在の時は、よく近所の人にたのんで、俺たち兄弟の為に、それをあげてくれたりしていた。
兄弟が多いので、俺のというわけではなかったが、末のという点では、親も兄、姉たちも、なんやかんやとかまってくれたものだ。
俺が6才の時には、その母も他界してしまい、すっかりそれが飾られることもなくなったが、俺が、姉貴のところに転がりこんでから、一度家に眠っていたのを、手に入れてきたから飾ろうと言ってくれたことがある。
総司じゃないが、なんとなく、気恥ずかしくて、『ガキじゃないのに』と拗ねたので、結局その時っきりで、後はいったいどうなったのだろう。
総司はそれらをチラチラみては、所在なげにフイッと眼をそらす。
総司だって、両親がもし、健在だったなら、藩士の子だったのだから、きっと兜や鯉のぼりを飾ってもらい、親や兄弟と庭先を走り回っていたのかもしれないと思うと、つくづく、世の中ままならないものだと思う。
なんだかんだといいながら、本当は欲しくて、羨ましくて仕方がないのだろう。
そんな総司の姿を後から追いかける。
「トシ。トシ??」
俺はぼんやりと考えながら、総司ばかり見て歩いていたらしく、近藤さんが声をかけるのにすら気付かない。
「どうしたんだ、トシ?」
ヌッと近藤さんが顔を俺の目の前まで近づけて覗き込むまで、声をかけられていることにも気付かなかった。
「うわっ」
「大丈夫か、トシ」
思わずよろけた俺の腕を近藤さんがつかんで、心配そうな顔をする。
「い、いや、すまねぇ。なんでもねぇよ」
バカにした顔で総司が俺を見る。
その表情に苦虫をかみつぶしつつ、何をやってるんだか、とハァとため息をつく。
ついた菓子屋は、大盛況で、人だかりの行列ができていた。
母親に手をひかれた子供や、抱きついて笑う子供。両親と両の手をつないで、ぶらさがってはしゃぐ子供。
なんだか、すこぶるい居心地が悪かった。
総司も同じ気持ちだったようで、肩身狭そうに、近藤さんの着物の裾をつかむ。
やっとのことで、目的のものを手にし、勘定を受けていると、菓子屋の奥さんが、総司をみてニコニコと声をかける。
「あら、ボウヤは、お父さんと一緒にきたの?いいわねぇ」
えっ?と総司が顔をあげて戸惑った顔をする。
「あら、違ったかしら?」
その顔をみて、奥さんが首をかしげて近藤さんを見た。
「そうなんですよ。自慢の息子でしてな、恥ずかしながら、肝心の柏餅を買うのを忘れていて、いやはや、手に入ってよかったことです。」
とまどう総司の頭にポンと手のひらをのせて近藤さんが笑う。
のりがいいと言うか、なんというか。しかし、実際、近藤さんと総司じゃぁ、親子にみえてもおかしくない。
顔はにてはいないが、父親じゃなくて、母親にそっくりということもよくある。
「それじゃぁ、そちらは、お兄さんかしらねぇ」
と俺を見て言う。
うっかり、総司と同じように、白眼をむいた。
俺が、総司と兄弟?それこそありえん。
横で近藤さんが、気にせず笑顔でかえしている。
俺は総司と二人顔をあわせ、お互いに嫌そうな顔をした。
「はい、お待たせさんです。これ、小さいけれど、持って帰ってちょうだいねぇ」
総司の高さまで身をかがめた奥さんが、手持ちサイズに作られた鯉のぼりを総司にさしだす。
思わず一歩後ずさる総司に、近藤さんが耳打ちする。
「ほら、せっかくだから頂いておきなさい」
受け取った鯉のぼりを握りしめて、総司がほんのり頬を染めて下をむいた。
嬉しさと、恥ずかしさと、悔しさと、多分、そんな感情が小さな心をかけめぐる。
俺は総司の姿を見ながら、言いようのない息苦しさに胸を押さえた。
帰り道、親子連れをみては、羨ましげに目線をむけ、あがる鯉のぼりに目をやってはギュッと唇をかみしめてうつむく。
俺もまた、空虚な気持で、背中を追った。
総司の様子に気づいたらしい近藤さんが、急に総司を抱き上げるとひょいと、自分の肩にのせる。
「こ、近藤さん!!」
あわてて総司が声をあげる。
「ははは、総司、俺たち、親子に見えるらいいからなぁ、いいじゃないかたまにはな。」
肩の上に、たからかと乗せられた総司をみて、子供たちが逆にうらやましそうに総司を見る。
今までうらやましげに見ていた自分が、今は、たくさんの子供たちに、羨望されている。恥ずかしそうに、総司が頬を赤らめて、下を向いた。
俺は、そんな総司をずっと見ていた。
そして思い立って、近藤さんに声をかける。
「近藤さん。すまねぇが、先に帰っててくれねぇか。用があるのを忘れてた。終わったらすぐ行くから」
そういうと、踵を返して走る。
息せききって、彦五郎義兄の家の敷居をまたぐと、姉貴の名を呼ぶ。
「まぁまぁ、歳三さん、なんですか、騒々しい」
さっそく姉貴に怒られたが、構わず言葉を続ける。
「姉貴、確か、前に、家にあった鯉のぼりを持ってきたってやつあったじゃねぇか。あれ、まだあるのか?」
必死な顔をした俺に、姉貴がおかしそうな顔をして、答えてくれる。
「あなたが、飾るのを嫌がるから、納戸に治してありますよ。」
「納戸か、わかった」
そう言うと、早足にそちらへ向かう。
「ちょっと歳三さん、なんなんですか、いきなり」
追いかけてきた姉貴が、のぼりを探す俺の背中に呆れた声でいう。
「総司に、あげてやろうと思って」
背中をむけたまま、ごそごそと、それを探す。
「まぁ、いつも喧嘩ばかりしてるくせに、雨でも降るんじゃないかしら」
姉貴が、クスクス笑ってそれを見ていた。
その日の試衛館はいつも以上に騒がしかった。
庭先で鯉のぼりをあげる準備をしていると、原田と新八が面白そうにやってきて、平助もでかい鯉のぼりに色めきたった。
試衛館に初めてたなびくその鯉のぼりを見上げて、皆で柏餅をほおばる。
近藤さんも、源さんも、山南さんも、皆そろってそれを見上げる。
さらには、総司の姉のミツさんや、旦那の林太郎さん。夕方には、手料理抱えて来てくれた俺の姉貴や、彦五郎義兄まで加わって、皆して見上げてた。
総司は、そんな皆に囲まれて、なんとはなしに恥ずかしそうにはにかんでいた。
「なんだ、総司、今日はえらく大人しいじゃないか」
と新八がからかい、逆に総司に足を勢いよく踏まれて、ギャーっと声をあげてとびはねる。
原田と平助がそれを見て声をあげて笑う。
そのうち、質素なりともそろえたつまみに酒をあけ、いつのまにかどんちゃん騒ぎにおちいった。
ときおり、総司が嬉しそうに、空を泳ぐ鯉を見上げていた。
どんちゃん騒ぎをさけて、のぼりを上げた柱の前で見上げる総司の横に立つ。
「総司、俺の下がりもんじゃぁ嫌かもしれねぇが、お前にやる。今日からお前のものだからな」
怪訝な顔で見る総司に俺はそういって、のぼりを見上げ、総司の頭に手をのせる。
「なんで」
それに、不平をいうこともなく、総司も見上げながら言う。
「嫌だからだ、お前があんな顔して、歩いてやがるのを見てるのは嫌だからな。総司にゃ、確かに、両親もいなくなっちまったけど、一人じゃねぇだろ。近藤さんや、源さんや、山南さんや、原田や新八や、ヘイスケや、姉のミツ殿だって、血がつながってようが、つながってなかろうが、てめぇを思ってくれるやつがいっぱいいるじゃねぇか。だから、あんな顔するな。」
総司は何も言わなかった。ただ、それを聞いていた。
いつしか、総司は、俺にだけは真実であろう表情を隠さなくなっていた。
他の人の前では、いい子ぶって、さもつらいことなどないという風にいつものように笑うのに、俺の見える場所では、隠さない。
何故だかわからないが、それを見るたび、日を追うごとに胸が痛んだ。
皆が宴会を打ち上げて、すっかり更けた夜遅く、総司が一人、庭先にまだあげたままののぼりを見上げて、縁側に腰をかけていた。
先ほどまで、あれほど見上げていたのに、あきることなくまだ見てるのか。
そういや、あまりに皆が騒ぎすぎて、結局下ろすのを忘れてたなと、総司の目線の先を見る。
「総司、まだ、起きてやがったのか?」
俺も今日は、ここにやっかいになることにして、部屋を借りさせてもらっていた。厠にいった帰りにその姿をみかけた。
総司の横に腰をおろし、俺もそれを見上げる。
「土方さんも、そうですか?」
沈黙の後、脈略なく、ポツリと告げられたその質問に、首をかしげる。なんのことを言っているのかわからなかった。
「何がだ?」
「・・・僕のこと」
ん?と眉をしかめて何をさしているのか考える。ふと、昼間の話を思い出した。
多分、こいつは、俺も総司のことを思ってるのか?と聞きたいのだろう。
「思ってるよ」
「・・・・・・そう・・・・・ですか」
目をあわせずに、下を向く。
月明かりではよくはわからないが、なんとはなしに、頬が紅い。
また続く沈黙に、俺は、いたたまれない気持ちになって、すっくと立ち上がった。
「寝るか」
と背をむけると、総司がその背中にしがみついた。
「土方さん・・・その、、、ありがとう・・ございます。僕・・・大事に・・・しますから」
素直じゃない総司にしちゃぁ、ひどく勇気をふりしぼって言ったに違いない、小さく詰めた声だった。
ドクンドクンと心臓が鳴る。
なんなのだろうか、この気持ちは・・。
ギリギリと心臓が軋む。
ふいにある結論に行きあたる。・・・・俺は、好きなのだ、、総司のことが。
弟のようにとか、そういうのをもっと越えて。
その声が、その感触が、締め付けるその感情が。何もかもが気になって・・・。
「あぁ」
そう答えるのがせいいっぱいだった。
背中を向けたまま、部屋へとひた歩き、障子を閉めて、ズルリと床に座り込む。
つのる想いに、胸倉を握りしめ。膝をかかえ、頭をかかえて首をたれた。
元治元年5月5日。
総司と二人、京の街を歩いて総司目当ての菓子を買ってきて、八木邸の俺の部屋の縁側で二人腰を下ろす。
八木さんちでも、子どもの為に、鯉のぼりをあげ、近所もいろいろなヶ所で、それらがたなびいていた。
どこでも、子を思う気持ちはかわりなく、京の町も、昔の日野と同じように、鯉のぼりが軒先にたなびき、子供たちが、菖蒲を片手に遊び、笑い、いつもよりもにぎやかに、人々の声が聞こえてくる。
こちら方面では、柏餅ではなく、チマキというものが主流らしい。それの特に美味しい店があると、八木家の人に教えてもらってきたらしい総司に、さっそくと連れ出されて帰ってきたところだった。
帰る途中、『懐かしいですね』とあちこちにたなびく鯉のぼりを見上げながら、総司が昔の話をしだして、
『ひじかたさんて、いつから僕のこと好きだったんですか?』
などと言い出すものだから、嫌なことまで思い出した。
縁側に腰をおろすと、さっそくと、総司が、チマキの笹葉の縛りをとる。
向こうにたなびくのぼりをみつめながら、ちまきにかぶりついて、幸せそうな顔をする。
昔の苦い思い出がよぎり、俺は、乾く唇を舐める。
あの頃は、本当にバカみたいに自分の心を押さえてた。
総司と間違っても、なんかあっちゃぁいけねぇと、女に逃げてみたり、外でついつい、喧嘩を買ったり、売ったり。
人の気もしらねぇ、総司は、あいかわらずで、悪態ついてるかと思えば、へんに、接近してきやがる時もあったり、人の喧嘩にまで首をつっこんできたり。
何をしていたのだか。
じーっと、総司の顔を横から見つめると、無性に心がモヤモヤとして、チマキをほおばる唇に、自分の唇を重ねる。
「んんっ・・」
総司がもがいて抗議するが、構わず舌を総司の口中へと押し進め、口の中をなぞる。
まだ総司の、その熱をおびた口に残るそのかけらを舌で絡め取ると、自分の口へと器用に運ぶ。
「甘っ」
唇を離すとそのチマキの甘さが口内に広がった。
「もうっ、土方さんっ!!」
チマキをとられ、口の中の隅から隅まで舐めつくされた総司が顔を真っ赤にして、唇を抑えて声をあげる。
そんな総司を白んだ目で見下ろして、俺もまた不平をたれる。
「俺の青春を返せ」
「・・・なんですか、それ」
わけのわからぬ抗議をされて、ムウッと総司が唇をつきだす。
「俺が、総司のことを好きになったのは、○年前の5月5日の夜だ、覚えてとけ、ばぁか」
「えっ・・・えぇぇっ!!」
もう半時も前の会話への回答。
○年前の5月5日の夜に何があったかと記憶をたぐらせ、
総司が素っ頓狂な声をあげる。
なんで?どこで?どうして?多分聞きたいことはたくさんあるだろう。聞かれたら、また調子が悪いので、総司の口が開いてしまわないうちにに、もう一度口づけてそれを閉ざす。
総司は、目を白黒させたまま、奪われるその感触に、感覚を奪われて落ちていった。
本当に、何が起こるのか、よくわからねぇもんだ。
バカみたいに、お前のことばかり考えて、悩んで、こんなにも熱くなる。
なんで、こいつを好きになったんだろう。なんでこんなに、好きなんだろう…な。
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