野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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小説 薄桜鬼『線香花火2』(土方×沖田)

2011-05-29 | 薄桜鬼 小説

線香花火1の続きです。文字数制限の為、2つにわけております。

ご了承下さい。

↓↓↓

◆線香花火2

「これは、副長、よくお越し下さいました。」

「おう、山崎か。すまねぇな、総司の相手は疲れただろう」

「はっ、・・嫌、これも隊士の務めですから。」

否定しつつも、困っているという表情がにじみ出ている。

山崎が目を落とした手持ちの膳には、ほとんど口をつけていないのだろう昼餉が並んでいる。

「なんだ、また総司のやつ、飯を残してるのか」

「はぁ」

もともと食の細い総司だが、これでは良くなるものも良くはならない。

「ったく、仕方のねぇやつだな。それで総司の様子はどうだ?」

「今は起きていらっしゃいますよ。相変わらず、嫌味が言えるほどには元気かと」

苦笑したくなる。真面目な山崎も、こと総司相手には、苦言の一つもいいたくなるらしい。

本人はまったくその気はないのだが、つい言葉の端々に抵抗感が顔を出す。

それでも嫌とはいわねぇところが彼の真面目さだと思うし、たよりになる。それに、あの総司に、それなりに言い返せる者も数少ない。

それで心労背負う山崎には申し訳が無いが、

医療の心得もあるし、気もきく。彼が総司のところにいてくれたのは実に心強かった。

「私は片づけがありますので、失礼いたします。後でお茶をお持ちしますので、ごゆっくりとなされていってください」

「あぁ、すまねぇな。」

丁寧に頭をさげると、山崎は、勝手場の方へと歩いていった。


総司の部屋の前まできて、障子に手をかけようとした瞬間、中からゴホゴホと嫌な咳音がきこえてくる。

何度も何度も繰り返し、苦しそうな乾いた呼吸がひびく。

そういう姿を見られるのを嫌がるだろう心情をおもんばかって、落ち着くのをまってから障子をあけた。

「総司、具合はどうだ?」

下を向き、息を整えていたのだろう総司が、はじかれたように顔をあげた。

「あ、土方さん・・・」

俺の顔をとらえると、ばつの悪そうな顔で少し目をそらす。

入るタイミングが早すぎたらしい。

が、こういう時は見なかったふりをするに限る。


「あぁそうだ、総司、門の前でな、これをガキ2人から預かった。お前、大人しく寝てろってのに、何を頼んでやがるんだ」

「はは、あったんだ」

差し出した花火を総司が嬉しそうに受け取る。着物の隙間から見える痩せた腕が痛々しく感じた。

「またお前、山崎の目を盗んでぬけだしやがっただろう」

「だって、山崎くん、日がな一日見張ってるんですよ。まるで僕が悪いことをしたみたいじゃないですか」

「してやがるだろうが」

「違いますよ。山崎君があぁだから結果そうなっちゃうだけですってば」

あぁいえばこういうは、健在だ。確かに、こうやって言い返せるぐらいには元気なのだと安堵する。

「花火なんて、まさかやるつもりじゃないだろうな。」

ずりおちた羽織を、肩にかけてやりながら、総司のすぐ横に腰をおろす。

「やるつもりですよ。飾ってても仕方ないじゃないですか。」

包みを開きながら、さも当然という風に言う。

「だから、寝てろっていってんのに、これ以上体調崩したらどうするつもりだ。だいたい、今は二月だぞ。どれだけ寒いと想ってやがるんだ」

「だって、やりたかったんですもん。」

ほっぺたを膨らませる、表情は先ほどの子供たちと良く似てる。

「あのなぁ」

「いいじゃないですか、付き合ってくれても。走りまわろうって話じゃないんだし。たき火でもしたらそれなりにぬくくできるでしょう?それともまた、今日もすぐ帰ってしまうんですか?明日から甲府へいくから、今日は1日、ここにいてくれるって約束したくせに」

そうなのだ、新選組は、甲州鎮撫を命ぜられ、明日、甲府に向かい、新政府軍と相対することとなっていた。

まだ、傷も癒えず、体調もいっこうによくならない、総司をつれていくことは不可能なため、総司をおいて、出立することとなっていた。

そのかわりと、総司の我が侭を聞いて、こうして、今日一日は、仕事をいれずに、ここへ来たのだ。


「ったく、仕方ねぇやつだな。本当に寒いんだからな、少しだけだぞ。正し、夕餉を全部くえたらな」

また、甘いと、山崎に怒られる・・・だろうな。

「えー、ちょっとひどくないですか?」

「どこがひどいんだ?食事もろくにくえねえやつを、この寒空の下へだすことなんてできるわけねぇだろうが」

食い下がる総司のおでこをはたいて、にやりと笑ってやると、先ほど以上にふくれた顔をして「土方さんの、いじわる」と布団の中に隠れてしまった。


◆◆◆


「なんだ、線香花火ばっかりだ」

子供たちが持ってきてくれた花火のつつみを開いて、総司が苦い顔をする。

「たりめぇだろ。手に入っただけでも有りがたいと思え」

それでも気を取り直して、1本をつかみ、俺に渡してよこし、自分の分もよりわける。

「まぁ、花火は花火ですもんね。」

線香花火ばかりだが、それでも本数はよく集めたなと思うほどには入っている。

「これ全部するのか?」

「しますよ。もちろん。ちゃんと、夕餉をたいらげたんですからいいでしょう?」

そういいながら、手にした1本に火をつける。

花火をするといったら、山崎はもちろん、意義を申し立てた。最期には、あきれかえっていたが、なんとかいいくるめた。

ぶつぶつ言いながらも、副長がおっしゃるならと水桶から、焚き火用の薪から何から何までを用意してくれたのだ。

総司も、おそらく、無理をしてるのは明らかだったが、それでもなんとか平らげてくれた。総司がしたいというのだから、させてやりたいと思い、山崎に頼んで少し量を減らしてもらっていたことに、総司が気づいたかどうかはわからない。

それでも、いつもほとんどを残している総司にとっては、まだ多すぎる量だっただろうと想う。

火をつけるとパチパチと線香花火独特の火花が散る。


じりじりと火薬を焼く火は牡丹のように赤い玉を形成する。

玉から激しく火花を発する松葉、やがて、柳、火花の料が減ってくる。

そして、消えゆく直前を散り菊という。

玉は落ちやすく、落ちたら終わり、ゆえに、極力ゆらさないように持つのが難しい。


二人そろって、真剣な面持ちで、手元の火花を見つめる。

「じみですね」

うーんという顔をして総司が手元を見つめたままつぶやく。

「でも、やるんだろ」

「やりますよ」

総司が嬉しそうにはにかんだ。

ぼんやりと広がる火花の明かりがその顔を照らしだす。

「土方さんと、花火がしたかったんです。」

聞きもらしそうな小さな声で総司がささやく。寂しげにも見える伏せた目で、煌めく火花を見つめたまま。


さざめきに浮かび上がり、おぼろに揺らぐ表情が、今にも闇にとけていきそうなはかなさに、思わず手をのばした。

衝撃で手元がぶれる。引き寄せられてバランスを崩した総司が不平をもらした。

「もう、なんですか、土方さん。ほら、種がおちちゃったじゃないですか」

「なんでもねぇよ」

それでもつかんだその手をはなさない。ぐいっとひっぱり、自分の懐へとひきいれる。

「ちょっと、土方さん」

「うるせぇ、大人しく抱かれてろ」

身動きとれないほど、強くその腕にいだく。後ろから腕をまわし、愛しいものを離さないように。

「なんですかそれ」

総司の髪に、顔をうずめたまま。

「見惚れちまったんだよ、わりいか?」

嘘を吐く。総司がくすくすと笑いながら我が身にこぼれた俺の髪に指をからめた。

「悪く、ないですけど・・」

ちょっと恥ずかしそうに眼をふせた。




たくさんあった線香花火も、最期の2本になっていた。

その2本を持った総司が、その手を頭の上あたりまで持ち上げて、

「競争しましょうか、土方さん」と言う。

顔はあわせない。俺が後ろから、総司をだっこする姿勢のまま。

「競争?」

「はい、どっちが長いこと玉を落とさずにいけるか、昔よくやったでしょう」

花火の先がくるくるとまわる。

「やったなぁ、ていうか、お前の一人勝ちだったじゃねぇか、邪魔ばっかりしやがって」

総司が振り回す花火の1本に手をのばす。

「えー、じゃぁ、また土方さん負ける気なんだ。歳くいましたし、手に震えでもきてますか?心配だなぁ、そんな人が副長とか、大丈夫ですか?」

おどけて、笑いながら腕の中で総司があばれる。むっとしてそんな総司の体をひきかえす。

「てめぇは!!」

昼しがた、子供たちに『おじさん』といわれたことを思い出す。ったく、嫌なこといいやがる。

「誰が負けるって言った、今日こそ勝つ」

「はは、どうだかなぁ。じゃぁ、せぇので火をつけてくださいよ」

「おう」


せぇのの合図で付けられた最期の花火は、華のような火花を放つ。

お互いに、落とさないように息をつめた空気は、まるで時間がとまっているかのように長く感じた。

腕の中に抱かれるまま身を預けていた総司が、ふいに俺の着物の袂をつかむ。

それからゴホゴホと苦しそうに咳をもらし、体を前に屈めてゆらした。

その衝撃で、火だねが床へと落ちていく。

断末魔の光が砂にはじかれて闇へと消えた。


それを追うように、俺の手ににぎられた線香花火の種も闇へと消えていった。

「あぁあ、負けちゃった」

まだ幾度となく咳をくりかえしながら、残念そうな顔をする。

消えいった、光の方角を見つめながら。

「また、やれるといいですね」

「そう、だな」

やるせない気持ちと不安感。

かたくなに内を見せないその細った体を、一身に抱きよせた。

抵抗せずに上を見上げて総司が笑う。

「僕は、消えたりしませんよ」

「あたりめぇだ」

自分にいい聴かせるように、澄み渡る冷気の静けさに思いを刻んだ。


雪がちらつく。

誠に誓った儚き夢の、崩れて行く音がする。

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