<●●より怖いものは無い>土方×沖田
副長などというものをやってると、それなりに、人にあわせるのも旨くなる。
奉公や薬売りなどもしていたせいか、こと、人に愛想をふりまいてしまうのは、ある意味職業病のようなものだ。
まして、心証の悪い新選組を少しでも町の人達に受け入れてもらうためには、それなりに、人との接し方は余計に気をつかうものだ。
その日も、たまたま、横を通りすがった町娘が、鼻緒が切れて困っていたのを、声をかけ、結んでやっていた。
初めはおびえた表情をしていたが、結んでわたしてやると、「ありがとうございます」と娘は笑顔を返してくれた。
当然、俺とて、笑顔をかえしもする。
女性受けがよいらしい自分の顔を見て、少しばかり娘が顔を赤らめる。正直今更の話だ。
それを、その時間巡察当番だった総司が目撃したらしい。
総司は少しムッとした顔をして、いきなり方向を変えて歩き出す。
それに戸惑った他の隊士たちが、わらわらとまごつきながら方向をかえる。
数人の隊士たちが、俺がいることに気付き、頭をさげたりもした。
それを見て、俺は小さなため息をつく。
『なんだ?』
と思ったが、他に用事もあり、あえて、追いかけることもしない。
まして、ついて行っては隊士たちが気を遣うだろう。
ひとしきり礼を言った後、娘は丁寧に頭をさげて去っていった。
用事を済ませ、屯所に戻り、ふと覗いた庭先にで何やらせっせと作業をしている源さんをみつけて、足を踏みいれた。
もうすぐ夕餉の時間とあって、すぐそばの勝手場から、良い臭いがたちこめてくる。
「おや、トシさん。お帰り。遅くまで大変だったねぇ。」
声をかけようとすると俺が来たことに気付いた源さんが、いつものにこやかな表情で声をかけてくれる。何やら、足下には、大量の大根やらジャガイモやらが転がっている。
「なんだ、すげぇことになってるな。どうしたんだこんなに沢山の野菜」
「いやねぇ、どうやら、野菜の手配が間違っていたみたいでね、少しばかり、多く届いてしまったから、八木さんにも分けてあげようと想って、より分けていたのだよ。いつもお世話になっているからねぇ、少しでもよい所をと想って広げていたらこの有様でね。」
「こりゃ、大変だなぁ、そのへんにいる隊士にも手伝わせれば良いのに」
そう言いながら、
もう、おおかた、片付けて、より分けを完了したらしいのを見て、転がっている大根やジャガイモを寄せ集めるのを手伝う。
「おや、これはすまないねぇ。トシさんに手伝ってもらってちゃぁ申し訳がないことだね。何せ、思い立って初めてしまったもんだからねぇ」
まったりとした空気をかもしだしながら、源さんはいやはやといった顔をした。
「かまわねぇさ、こっちは、勝手場に運ぶ分か?これくらいなら一人で運べるし、源さんは八木さんとこにそいつを持って行ってやるといい」
箱に収めた野菜の量と重さを確認すると、一人でもなんとか運べそうだ。
「そうかい?すまないねぇ。勝手場に、沖田君と斎藤くんがいるはずだから、運んだら直すのはまかせるとよいよ」
申し訳なさそうに笑うと、よいしょ、とより分けた野菜をかつぎ、じゃあ、と源さんが、八木さんの住まいのほうへと歩いていく。
今日の当番は、総司と斎藤か・・・総司・・・まぁ、仕方ねぇか。
昼間の総司の態度からして、確実に機嫌が悪そうなのが気にかかるが、そうも言ってはいられない。
ひきうけたからには、行くしかない。
「よっ」
持ち上げるとずっしりと腕と腰に負担がかかる。こりゃぁなかなか大変だ。
なんとか、勝手場の入り口までいき、扉をがらりとあけると、斎藤が驚いた顔で飛んできた。
「副長、声をかけて下されば、とりに伺いましたのに」
「あぁ、いや、これくらい、一人でも、な」
そういいながら、荷物を下ろすと、斎藤が手慣れた動きで、野菜をだし、勝手場に備蓄する準備を始める。
「いいんだよ、一君、土方さんは、どこぞの誰かといいことする為に、腰をきたえなきゃいけないらしいから」
火に掛けられた味噌汁を、かき混ぜながら、総司が冷めた声で言う。
こちらを一瞥して、ふんっという顔でまた顔をそらす。
思った通りというべきか、さっそく総司が喧嘩を売ってくる。
「何の話だ」
正直、総司にそんなことをいわれる覚えはない。まぁ、総司のためになら腰をきたえるのも悪くないが・・・。
「何の話?なにとぼけたこと言ってんですか?昼間っから女の人と逢い引きしてたじゃないですか」
「はぁ?」
女と逢い引き?全く持って覚えが無い。と首を横にひねる。
何をさして、言っているかは検討がつくが、断じて、俺はそんなことを思いもしていない。
「何とぼけてるんです?昼間、僕が巡察している時、みたんですよ。茶屋の前で楽しそうにしゃべってたじゃないですか。」
「茶屋の前?お前がいきなり方向転換していきやがった時のことをいってんのか?」
断じて逢い引きなどではなかった。が。
「そうですよ。いい雰囲気だったじゃないですか。」
「あのなぁ、あれのどこが逢い引きなんだ。ただ、しゃべってただけだろ。切れた鼻緒を直してやったら礼をいわれただけだぞ」
ようするに、あれを見て妬いたってことか?そうだとすれば、めんどくさい話だ。いや、好きな相手に妬かれるほど男冥利につきる話もないのだが。
いかんせん、相手が総司なだけに、また何かやらかされそうで、それを思うと面倒な話なのだ。
「どうだか、嬉しそうな顔してたじゃないですか。」
まだおさまらない総司がさらにつっかかってくる。
「あれは、ただの愛想笑いだろうが。だいたいな、そんなことを言ってたら・・・」
売り言葉に買い言葉、江戸っ子の血が騒ぐというか、どうにも、総司に喧嘩をふられると乗らずにはいられない性分が顔をだす。
と、そんなやりとりを見ていた斎藤が、切りがないと思ったのか止めに入る。
「ふ、副長、ここはその辺で納めていただけませんか。総司、あんたも、副長にたいしてそのような態度は」
「うるさいなぁ一君は、僕がこの人に何いおうと勝手でしょ!どうせ一君しか見てないんだしいいじゃない」
「そういうことを言っているのではない。他に誰がみている見ていない、という話ではなく!!」
今度は、総司と斎藤が喧嘩をはじめそうになる。
「わかった。わかったからとりあえず、総司、この話はあとでゆっくりだ。納得いくまで話してやるから、今は夕餉の支度をするのが先だ。」
そういうと、フイッと総司が顔を向こうにむけ、渋々仕度を再開する。
「申し訳ありません」
と、斎藤が深々と頭をさげる。別に斎藤が悪いわけではにのだが。どうにも、巻き添えばかりくらわせてしまっていけねぇ。
「いや、こちらこそすまねぇな。」
「いえ、それよりも、夕餉ができあがるまで副長は休んでいて下さい」
「そうか?じゃぁそうさせてもらう」
このまま、ここにいても、水に油をそそぐだけのような気もする。これ以上、斎藤にいらぬ気遣いをさせても申し訳がたたないので、言われるまま勝手場を退散することにする。
さて、どうしたものか・・・。
夕餉を食べ終え、部屋に戻り、書き物を片付けておこうと腰をおろす。
総司がくるかもしれねぇから、さっさと片付けておかなければいけない。そう思って書き進めていたが、徐々に自分の体がおかしなことに気づき始める。
『なんだ??』
ずっしりと体が重い。熱に浮かされたときのような変な感覚。
それよりも、もっと何か・・・。
「土方さん?」
息が上がり、けだるい感覚に支配される。えもいわれぬ感覚に脂汗がにじみ、荒い息をくりかえしていると、総司が外から声をかけた。
心臓が波打って、返事をかえせないでいると、総司がすーっと扉をあけた。
前のめりになったまま、総司を見上げると、逆に冷めた目でみおろしてくる。
それから、静かに障子を後ろ手でしめた。
「苦しそうですね」
「総司、お前・・・夕飯になにか・・・・」
「これです」
洋物の硝子瓶にいれられた、液体を懐からだして揺らしてみせる。
見たことがある。舶来物でよくきくと、サノと新八がもりあがっていた時、手にしていたのがあれだったきがする。
「て・・・め・・え・・・・」
「へぇ、本当にきくんだ、これ。サノさんも新八さんもまだ使ったことがないって言ってたし、どうせ噂だけ先行してるんだと思ってたんですけど」
総司がにんまりと笑う。
「土方さんがいけないんですよ。女の人といちゃいちゃしたりするから。僕なんて、1週間も土方さんといちゃいちゃしてないのに」
「し・・・て・・ね・・ぇって・・・言って・・・ん・・・だろ・・うが・・」
てかなんだ、その最後の一言は!!
「つらそう・・ですよね。僕がいかせてあげましょうか?」
『冗談じゃない!!』
と思うが、体がうまく動かない。意識をもっていかれないようにするのに精一杯なのだ。
総司がそばにくるだけで心臓がはねる。
うらめしげに総司を見上げる自分の顔をみて、総司が嬉しそうにクスクス笑った。
「余裕のない、土方さんの顔って新鮮ですよね。このまま眺めてるのも楽しいかなぁ。」
その言葉には思わず、後ろに後ずさる。
ずいずいと押し寄ってくる総司の香りが、はなをつつく。
そのたびに、どうにも、すべてがかき乱される。
『くそっ、限界だ!!』
総司の腕を勢いよくひっぱると、ぐるりと回転して、馬乗りになる。
思いもしてなかったらしく、転がされた総司が、俺の顔を凝視する。
その双眸をとらえたまま、唇をおとす。
柔らかな感触を感じながら、舌をはわせて、唇に割いる。
「ハッ。。」
たまらず、総司が吐息をもらした。
深く奥まで、すべてを味わいつくすように、吸いつく。
「んっ。。ん・・・」
上唇をぞろりとなめて、唾をひきながら距離をとる。
「土方さ・・・」
口ではさんざんな物言いをするくせに、ちょっと口づけをしただけでも、抵抗ができなくなる。そういうところが、ガキなんだと思うのだが。
そんなガキにあてれられてる自分も、そうとう。。。だな。
自嘲しながら、すっかり毒を抜かれ、されるがままの総司を見下ろす。
「責任とって、もらおうか」
余裕は無いが、やられっぱなしは気に食わない。
「仕方ないから、、、とってあげますよ。」
恥ずかしそうに伏せ目がちに、頬を染めた総司の着物を脱がしながら、倒錯の淵へと落ちていく。
嫉妬されるのは、悪くはねぇが、もう少しばかり、穏便な拗ねかたをしてくれれば、ありがたいんだがなぁ。
※お読みいただきありがとうございます。
いつも、1小説につき、1枚、それなりに関連のある絵をかこうと決めてやってるのですが、だいたい、いつも、絵が先行。絵を描いてから、こういう雰囲気の話がかきたいなぁと進めています。
でも、今回、絵を描いてる時は、まさかこんな展開になるとはあまり思ってなかった・・。
ゆえに、かなり違う展開絵に。
ただ、きっと、土方さんは、デレるとけっこうエロいムッツリさんなんだよ。
とか、逆に沖田さんは、強気なわりには、すぐ恥ずかしくなっちゃうんだよ。というだけののりで、絵をかいてたんですが・・・。
いやうん。反省。
一応、18禁じゃない方向で、その後の二人は自主規制。
皆さまの妄想におまかせでご容赦を。
どうしても書きたくなった時は、アンダーブログ作るか・・・うーん。
売れ筋だけに、入荷数は多くとってると思うけど、
震災の影響で、入荷数が減るって可能性はありそうな気もします。
発売延期とかもありえなくも・・・。どうなるんでしょうかねぇ。
3冊かぁ・・・3冊・・・。
史実でも、永倉さんは、お亡くなりにならなかったようで、確か、もっと先まで生きておられます。板橋に、新撰組の碑をたてるのに奔走したりもしたようですよ。
前に、板橋にいってきまして。見てきました。
永倉さんのお墓もあって、新撰組の碑には、近藤さん、土方さんはじめ、あぁぁって方々の名前がたくさん彫られてました。
斎藤さんも、史実では生き残り組なんですけども、何故か土方ルートではお亡くなりフラグがたってましたが、私は、今でも、誤報扱いだと信じてます(笑)
。。。み、ミスってなんでしょう???ドキドキ。
鬼の副長でありながら、町娘の他に、
総司に優しい(>_<)キュン//
失礼いたしました。
なんだかんだでコメントの書き方が敬語ではなくなってて・・・・。
すみません(>_<)