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小説 薄桜鬼『欠けたる足音』(土方×沖田)

2011-04-06 | 薄桜鬼 小説

散らない花(土方×沖田)の第7章です。
どちらかというと、つなぎ的な話なので、面白味はないかもしれませんが、よろしければ、続きよりお読みくださいませ。

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◆欠けたる足音◆

 自分の部屋に入るなり、ダンッと大きく音をたてて壁に後ろ手で、拳を叩きつける。
 元治二年二月。
 この年、江戸から、伊東甲子太郎を新たに新撰組の参謀に迎えていた。
 伊東は尊王攘夷、近藤さんは佐幕攘夷。多少の違いはあるが、外国勢力をよしとしない攘夷という点では同じことから、近藤さんは彼のことをかなり気に入っているらしい。
 しかし、どうにも俺は、伊藤さんと馬が合うとは想えなかった。

 他の幹部たちも彼をよくは想っていなかったが、決定打となったのは、今日の屯所移転についての話し合い中、伊東さんの、山南さんへの態度だ。
 「剣客とは生きていけずとも、お気になさることはありませんは。山南さんは、その才覚と深慮で新撰組と私を十分に助けてくれそうですもの」
 平気で、人の心をえぐるようなものいいをする。
 大阪の呉服屋での乱闘時に怪我をして、腕が動かないことをどれだけ苦しんでいるのか。
 そうだというのに、あんな物言いをするとはどうかしている。またそのことに対して、感情的になり、結果、間接的に自分の言葉も山南さんを追いつめる結果になってしまった。そんな自分にも腹が立つ。
 「くそっ」
 もう一度、強く拳をうちつけた。

 「土方さん、あんまりいらいらしてるとはげますよ」
 いつからそこにいたのか、総司がひょっこりと顔をだす。虫の居所の悪いときによけいなことをいうものだ。
 「うるせぇっ」
 ギロリと総司をにらむ。
 「恐いなぁ。僕に怒ったって仕方ないじゃないですか。僕だってこれでもけっこう怒ってるんですから。近藤さんもどうして、あんな人を気に入ったりするかなぁ」
 ムスッとした機嫌の悪い声。近藤さんに対しては何もいわないし、むしろ、笑って賛同するだろうが、不満に想うことはあるらしい。
 「だいたい、土方さんがちゃんと追い払っとかないからこういうことになるんじゃないですか」
 人にあたるなといいながら、正直、総司もまた、俺にあたりにきたというところなのだろう。
 昔から、俺に対してだけは、想っていることを、すぐぶつけてくる。それがまた、言い合いの増える要因だが、それでお互いに憂さ晴らしになっているから良い組み合わせなのかもしれない。
 なんでも言える相手ってのは、そうそういるもんじゃ無いし、俺が総司にとってそうなのなら良いと想う。
 ここで、言い合ったところで、事態がどうにかなるわけでもない。
 すでに、伊東さんは、新撰組にきて、伊東さんがつれてきた隊士もいて、その手前、参謀という役職にすでについてしまっている。


 「山南さん、大丈夫ですかね。」
 ぼそりと総司がいいながら、机の側に腰をおろすと、卓上に置いてある筆をぶんぶんと振り回す。
 乾ききっていなかった墨が、勢いよく飛び散り、机や服を汚す。
 「おいっ」
 と一応制止の声はあげるが、だからといって、本気で止める気はない。
 それくらい、自分の心もおさまりきらない状態だった。

 総司はそのまま、筆をふりまわし続ける。
 傷をおい、腕が想うように動かなくなった山南さんは、すっかり、自分の中にひきこもってしまっている節も或る。
 もともと、内面で何を考えているのかわからない面はあるものの、表面的には優しく隊士たちにも関わっていた彼だったが、今では、人をよせつけず、すっかり孤立してしまっていた。
 日野にいたころから、よく気が回り、俺にとっても、兄のような存在で、総司にとっても、近藤さんほどではないものの、彼がものをいえば、それなりに大人しくいうことを聞く、数少ない存在だった。
 それだけ一目おいて、心配をしている。

 

 「とにかく、なにかしでかさないように、見ておく必要はあるだろうな」
 「そうですね」
 抑揚のない声が返ってくる。そして、一拍の沈黙ののち、突き刺すような一言が心臓をえぐる。

 「もし、あの薬に手をだすようなことがあって、狂うことがあったら、僕が、斬りますよ」
 どういう心境でいっているのかは計り知れない。
 ただ、とても冷えきった、凍るよな光を放つ瞳が、正面を見据えていた。
 新撰組に、近藤さんに、邪魔になってしまうようなら、斬る。
 新撰組の剣となる、そう誓った総司には、身内だからとためらうことなどない信念が、そこにある。

 突き刺すような声音とともに、バキっという音が、総司の手元で鳴った。
 よほど強く握っていたのだろう、振り回していた筆が中央で減し曲がってしまっていた。
 「おいっ!!」
 それを目視した俺は今度は素っ頓狂な声をあげた。
 「あれ、折れちゃった。使えない筆だなぁ。土方さん。もっと、ましな筆、買ったほうがいいんじゃないですか?」
 「あのなぁ。」
 自分でへし折っておきながら、ひどい言い草だ。
 ここまでみごとにへし折られてしまっては、どのみち、もう買わないと使えないではないか。

 何事もなかったかのように、折れた筆をしげしげと見つめて総司が笑う。
 「ったく、この筆だってけっこう、いいやつだったんだぞ。どうしてくれるんだ」
 「知りませんよ。だって、勝手に折れたんですもん。」
 アハハと笑う総司の手から、ムッとした顔で筆をとりあげる。
 その折れた切っ先を見つめながら、総司の横に腰をおろし、肩を並べて同じ方を凝視する。
 きっと、総司は本気で、山南さんを斬るだろう。心のうちはどうであれ、それが、新撰組を傾ける要因におちいるなら、ためらわずに斬るだろう。
 「総司?」
 「はい?」
 「山南さんを頼む」
 「はい」
 二人、前をまっすぐに見据えたまま遠い向こうを凝視していた。


 それから数日後、山南さんは、自分で改良を加えたという変若水を飲み、羅刹になってしまった。
 たまたま、その場にいあわせてしまった千鶴の叫び声を聞きつけた、総司が、襲いかかろうとする山南さんを斬りつけた。
 迷いのない切っ先は、心臓のみをはずし、羅刹になった山南さんを昏倒させていた。

 幸いにも、山南さんは、自我を取り戻し、動かなかった腕も、不自由しないくらいに動くようになった。変若水の改良が成功したといい放ったが、複雑な気持ちだった。
 騒ぎを聞いた伊東さんはいぶかしがったが、山南さんは、表向きは、理由をかくしたまま、切腹したということになった。
 数ヶ月後、新撰組は、それを極力、伊東さんやその一派、また知らない隊士たちにも知られないようにと手狭になった八木邸をあとにして、広い場所が確保できる西本願寺に屯所をうつすこととなる。


 <散らない花 第七章> -終-


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