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小説 薄桜鬼『鬼の反撃』(土方×沖田 随想録)

2011-06-28 | 薄桜鬼 小説

土方さんが、風邪をひき、沖田さんに看病してもらったは良いけれど、ちょっぴり災難だった「鬼の撹乱」と対になるお話です。
土方さんの風邪をもらってしまった沖田さん。今度は土方さんが看病をすることに!!
それでは、本文からどうぞ。
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◆鬼の反撃◆(土方×沖田 随想録)

元治2年1月
俺の風邪が治ったと思っていたら、総司と近藤さんがそろって風邪をひいた。
ようするに、みごとにうつったという話なのだが、何も二人そろってひかなくてもと思う。
この間、散々な看病をしてくれた総司だったが、今は布団の上でぐったりと横たわっている。

カラカラと、氷の音をたてる桶を片手に、総司の部屋の襖を開けて中へ入る。
けだるげな顔をして、総司がこちらに視線を流す。
うーん、と唸って顔を布団でかくす。

「どうだ?ちょっとは具合はよくなったか?」
声をかけるが、鼻より上だけ顔をだした眉間に、皺をよせて渋い顔をする。
そのそばに、腰をおろし、総司のおでこに乗せていた手ぬぐいを手にとる。
熱でほんのりと温くなってしまっているそれを、持ってきた桶の中にいれて冷やす。
部屋を十分に暖かくしているとはいえ、1月の寒空に氷水はすこぶる冷たい。
体温を奪う冷たさをぐっとこらえて、手ぬぐいを硬く絞る。
開いて軽くのばしてから、ちょうどいい大きさになるようにたたんで総司のおでこに乗せてやる。
ひんやりとした感覚が気持ちいのか、総司が目を細めた。

「土方しゃんが、看病してくれるんでしゅか?」
熱で頭が浮いているらしく、しゃべる言葉が、舌ったらずだ。
「あぁ、してやるから、寝てろ」
もう一度、手ぬぐいをとって桶につっこみながら、総司の頭をポンポンと叩く。
そうすると、子供が親にかまってもらっている時みたいに、嬉しそうな顔をした。



総司が目を閉じて、寝息をたてたのを確認し、持ち運んだ書類に目を運ぶ。
自分も風邪で寝込んでいたこともあって、やることは、山積みでその後から後からさらに積みあがっていきやがる。
少し、日が陰りはじめて来た頃、斎藤が、部屋へやって来た。
「失礼します。副長、これから、夕餉の支度にとりかかるのですが、近藤さんがお粥なら召しあがれるとのことですので作ろうと思うのですが、総司の分はどうしますか?」
断りをいれてから、襖を開けると、膝をついた斎藤が問いかける。
「もうそんな時間か?」
時折、手ぬぐいを冷やし直してやりながらも、すっかり、仕事に没頭してしまっていたらしい。
「あぁ、粥か。そうだな・・・」
『頼む』といいかけて、ふと考える。
うん。と一人うなづいて、斎藤にむきなおる。

「斎藤」
「はい?」
首をかしげて斎藤が聞く。
「悪いが、旨い粥の作り方をおしえてくれねぇか?」
「は?!」
何を言われたのかと斎藤が目を丸くする。何と答えたものか分からない様子で目を白黒させた。

正直、自分の作る料理が散々であるという自覚はある。今でこそ勝手場に立つことはないが、昔まだ、試衛館にいたころは、俺も食事当番に加わっていたこともある。
あまり面倒なことは考えず味付けをするせいか、実のところ、この総司よりも対外な膳が出来上がるらしい。
近藤さんはやんわりと「いやぁ、トシの作るものは独創性が豊かだなぁ」と濁していたが、
総司にいたっては「味音痴」だの、「近藤さんにこんなまずいもの食べさせるなんて、一回死んできたらどうですか」とまでいいやがったものだ。
正直、どっこいどっこいな味付けをする総司には言われたくないの域なのだが、他の誰もが、何かにつけてじんわりと様々な理由をつけ、皆して、勝手場から俺を遠ざけたのは、まぁそういうことなのだろう。

「いや、その・・・な。俺が寝込んだ時に、総司が粥を作ってくれたから・・・俺も作ってやろうかと・・思ったんだが・・・な」
ポリポリと頭をかきなが、しどろもどろに言う。
もういい加減、隊士の中でも幹部連中にはことごとく、総司との仲が知れ渡っているので今さらなのだが、自分からはそういう話をしない手前、なんとなく、言いにくい。
味は散々だったが、それでも総司が作ってくれた粥は、気持ちだけならすこぶる嬉しく感じた。
が、寝込んでる総司にあまりにまずいものを、食わせるわけにもいかない、と思うのだ。
その点、目の前にいる斎藤は、きっちりと分量を量って作る男なので、少なくとも味に間違いがあったことは無い。
千鶴にでもきけば一番いいのだろうが、さすがにそれは気が引けた。
「副長が・・・総司に・・ですか・・?」
「ま、まぁな。・・いけねぇ・・か?」
そう聞くと、はっとして斎藤が居住まいを正す。
「いえ、俺で宜しければ」
「悪いな」
「そのようなことはありません。」
きっぱりと、斎藤がそう言って無表情の中に少しだけ笑みを浮かべた。




ひとことで粥といっても、いろいろあるらしい。
だしをとって作るものもあるし、塩を入れる入れないなど好みによるということで思案した。
斎藤いわく、お粥をうまく炊くこつは、いかに煮るかにかかっているらしい。
米粒がつぶれないように、柔らかく、ふっくらと仕上げるか。
焦げないようにするのも気を使う。
ついつい、かき混ぜたくなるが、米粒がつぶれてしまうのであまり混ぜるのは良くないらしい。
ブクブクと泡がたつと、つい気になってしゃもじを触る。
それを見つけた斎藤に、
「副長、まだ触っては!!」
と幾度となく注意された。
出来上がる頃には、疲労困憊だ。
料理をするのは、こんなにも、忍耐力をようするものだっただろうか・・・。

おなじく当番をしていた源さんが、いつものようにまったりした声で、「いやはや珍しいこともあるものだねぇ」といいながらも「早く治るとよいね」と言ってくれた。
これが新八や平助だったなら、何をいわれたものか、なんとも助かったと思う。
平行して皆の夕餉を作っていた斎藤が、大根を持っていたので、声をかけた。
「斎藤、悪いが、ちょっとだけそいつをわけてくれるか?
「はい、大根おろしにしてつけるんですか?」
総司の好みを思い出し、そう聞くと、ざっくりとちょうどいい大きさにきりわける。
辛すぎるのは、病人には良くないだろうと、大根の中では一番甘いといわれる上の部分を用意してくれた。
「俺がすりおろしましょうか?」
と聞いたが、
「いや、かまわねぇ」
と断りをいれる。
これくらいなら、自分だけでもできるだろう。
総司は粥に大根おろしをいれるのが好きだ。苦いのは嫌いだといって、ネギをいれるのを嫌がる。
味がないのが苦手なのか、大根おろしが入っていないお粥にもまた嫌な顔をするのだ。


出来上がった粥の土鍋をもって部屋へと戻る。
襖をあけると、ちょうど総司が目をさましたところだった。
「あっ、土方さん」
深く寝たせいか、少しばかり、顔色がよくなっているようだ。
「目が覚めたか?」
「はい。・・あれ、僕けっこう寝てしまいましたか?」
外がすっかり暗くなり、途中で、島田か山崎あたりがつけにきたのだろう蝋燭の火が部屋をやんわりと照らしている。
「そうだな」
運んできた粥を机のうえに置くと、総司の額に手のひらをあてる。
先ほどまでよりも熱もかなりひいている。
「わぁ、土方さんの手、気持ちいいですね。」
その手のひらの感触に目をほそめ、フフフと笑う。
「大分、熱もさがったみてぇだな。食欲のほうはどうだ?」
「あぁ、そういえば、ちょっとお腹が減ったかも・・」
「そうか、じゃぁちょうど良かったな。」
軽く浮かんだ汗を乾いた手ぬぐいで拭ってから、起き上った総司の肩に、冷えないよう羽織をかけてやると持ってきた粥の蓋をあけて用意をする。
「粥を作ってきたんだが、食えるか?」
と聞くと、
「作ってきた?」
と、いぶかしげな顔をする。

「えっ土方さんがですか?」
「ま、まぁな」
「それって、食べれる物ですか?」
ひどい奴だと思う。こいつが寝込んでる最中じゃなければ、こんこんとこの間の粥について不平を並べてやりたいところだ。
「てめぇは!!」
「だって・・・」
もごもごと口ごもる。さすがに、『土方さんが作ったのって、すこぶるまずいじゃないですか?』というのはやばいと思ったのだろう。

『そんなにまずいのか?俺のつくる飯ってのは?』

眉がヒクヒクと波打った。

「一応、斎藤に聴いて作ったし、味見もしてもらったんだが・・・な」
合格点はちゃんともらってきた。
まぁ、斎藤の場合、薄味の健康志向なので、総司が食べると、薄いといいだす可能性はゼロではないが、すくなくとも、食えないしろものではないはずである。
「一くんが?じゃぁ、大丈夫ですよね」
と嫌な笑みを浮かべる。
ちょっと元気が戻っただけで、これだ。
いついかなる時も、俺に対して一言多い。
それでも作ってきてもらったということは、嬉しいとは思っているらしく。いそいそと、レンゲに手をのばす。
そして、一口ほおばると。
「美味しいです・・・よ?」
何故疑問形なんだ?と思うが、ほんのり頬が紅い。性格からして、はっきりと認めるのが嫌なのだろう。

素直じゃない。



そして、レンゲについたごはんつぶをなめると、
「はいっ」
といって、レンゲをわたす。
「なんだよ?」
「せっかくなんで、土方さんに食べさせて欲しいなって」
くったくのない顔で笑う。
「調子にのるな」
その額をペチンと手のひらでたたく。
「だって、こんなことめったにないじゃないですか」
ぷっくりと頬をふくらませて唇をつきだす。
そして期待してますといわんばかりに目を輝かせて俺をみる。
しばらくそれを凝視して、今度は俺が右目じりをひきつかせ、ため息をつく。
「ったく、今日だけだぞ」
そう言うと、総司が歯を出して嬉しそうにはにかんだ。

やけどをしないように、息をふきかけてさましてから、総司の口へと運ぶ。
言ったものの、どこか気恥ずかしいらしい総司は、終始、顔がほんのりと紅い。
なんだかなぁとその顔をみる。
最期の一口を食べ終えると、唇の端にごはんつぶが残る。
それに気付くと、ふっと俺は顔を近づける。
唖然とした総司の唇に、自分の舌を突き出して、ぺろりとなめとった。
「ひ、土方さんっ(><;)」
顔を真っ赤にして悲鳴をあげる総司に、ぺろりと舌をだしてみせた。


「せっかくだから、ついでに薬ものませてやろうか?口移しで、せっかく、だもんな」
『せっかくだから』を強調し、近づいて肩越しにささやく。
「もっ、!!」
想像して耳まであかくした総司が、腕の中で小さく唸る。
いつまでたっても、こういう攻撃にはすこぶる弱い。
あまり優しくしすぎると、すぐにつけあがるから、これくらいが丁度いい。
「土方さんの、スケベ!変態!」
わめく総司を笑いながら抱き寄せて。頬に口づけをする。
「早く治せよ、総司。」
このうえなく、甘い口調で囁いて、はがいじめにしたまま、不平のたえない、その唇に重ね、優しく閉ざした。

 

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